………本部建屋の正面出入り口は、投降してくるイスロ兵の行列が続いていた。
皆、一様に大なり小なりの負傷があった。
中には、警察の担架で運び出されている重傷者も一定数居た。
そして……多くの顔に疲弊と。
絶望と。
苦悶が表れていた。
米国人研究者ら人質達は、兵達が全員投降を終えてから地元警察部隊により保護されていた。
キッド三人衆は。
地元警察部隊、FBI、米特殊部隊の集まる眼前でヒューマノイド形態から人間形態へと戻ってみせ、剣持刑事37歳の手引きで活動報告を行った。
「We are honored that we were able to be of service」
(御役に立てたようで、光栄です)
三体を代表しマーフィが英語で報告の後。
改まって挨拶していると、思わずカイトが吹き出す。
いつものマーフィと違い、妙にかしこまっている様子が可笑しかったからだ。
FBIのジムは、その後3体と代わる代わるハグをしながら、働きを労う言葉をかけた。
指揮官のマルティネス始め地元警察部隊も拍手で3体を讃え。
米特殊部隊も、それに加わった。
唯一人、パウエル少佐だけは硬い表情のままだったが………
そうした一連の流れの終えた後。
司令室を退出した麻衣は、途中で人間形態へ戻りながら一人、建屋の外へ出た。
夕暮れには、まだ間があった。
周りには森が生い茂っていたが、すぐ近くに小さな泉を見つけた。
泉の周りには………ダリアが咲き乱れていた。
ピンク色のダリアの花を見つめた。
現実を受け止め切れず、絶望の時間が続いた。
父親以上に、運命を呪い続けた日々。
その中で………麻衣を支えたのは
「負けん気」
だった。
よく、友達と血液型相性の話になると
"麻衣は典型的なA型だね”
と言われた。
自らの感情があったとしても表に出すことを潔くせず、それに支配される自分を最も嫌った。
本当は学校へ行くのも嫌で仕方が無かった。
だが、その「負けん気」一つで。
ゲリラ式戦闘ヒューマノイドとなった運命からも逃げず麻衣は一人、堪えて来たのだった。
「Hey!
Who's there?」
(おい!
そこに居るのは誰だ?)
不意に男の声がする。
振り返ると、泉の入口に兵士らしき者が一人立っていた。
(イスロ兵!?)
麻衣は一瞬身構えたが、見ると軍服の様子が違う。
学校でテロ事件を経験して以来、麻衣にとって兵士や軍服のビジュアルはイコール・イスロ兵だったのだが、色やデザインも異なっている。
初めて見るタイプだ。
しかし、兵士らしき者の眼光は鋭かった。
訝しげに首を傾けながら麻衣を眺めまわし、問いかける。
「You're not from around here, are you?Where are you from?
Are you Asian?」
(お前、ここらへんの者じゃないな?
アジア人か?)
事件は一定の収束を得たものの釈然とせず、この泉で頭を冷やしに来たのであった。
「In any case, it's dangerous for a woman or child like you to be wandering around here alone.
I'm a member of the US Special Forces.
If you're lost, I'll take care of you」
(いずれにしても、ここらへんをお前のような女、子供が一人でウロつくのは危険だぞ。
俺は米国特殊部隊の人間だ。
迷子なら、保護してやる)
麻衣は答える。
「I'm not lost.
I came from Japan.
My parents were in this building.
I came here for a reason」
(わたしは迷子なんかじゃないよ。
日本から来たの。
親が、ここの建物に居たし。
目的があって来てたの)
「What?!
Japanese parents?
...So you're the daughter of the Japanese researcher who was taken hostage?!」
(何だと?
日本人の親?
………すると、お前、人質だった日本人研究者の娘か!?)
「That's right」
(そうだよ)
麻衣は、隠す必要も無いと思った。
パウエルは慌てる。
「If that's the case, then it's even more dangerous to be here alone.
There might still be some thugs hiding!
Get back quickly before a secondary disaster occurs!!」
(だったら尚更、こんな所に一人で居たらマズい。
まだ潜伏中の輩も居るかも知れない!
二次災害にならないうちに早く戻れ!!)
麻衣は。
この男が、だんだんウザくなって来た。
「It's fine!
Leave me alone!
I want to be alone, you go away!」
(いいの!
ほっといてよ!
わたしは一人になりたいの、あなたこそ向こうへ行っててよ!!)
思わぬ気の強さの麻衣に、パウエルは気を押される。
が………
自身も"一人になりたくて”来たパウエルも、引けない気分だった。
しかし腹を割ることにした。
肩の力を抜く。
「Well... actually, I came here because I wanted to sort things out in my head.
You have priority, so I won't force you, but...
If you don't mind, could you tell me what happened?
...What happened?」
(いや………実はな、俺も一人で気晴らしでもと来てみたんだ。
先客はお前なんで無理は言わんが、良かったら教えてくれ。
………何があった?)
麻衣も。
意外に素直な姿勢を見せる、この軍人に席を譲る気持ちになった。
再び、泉のほとりに咲くダリアに目を向けながら麻衣は語り出した。
「...I was thinking, what exactly are humans?」
(………人間てさぁ、何なんだろ?って考えてたの)
「...Philosophy in a place like this?」
(………こんな所で哲学か?)
麻衣の傍らへ腰を下ろしながら、パウエルは感心するような呆れるような顔をした。
ヘルメットを脱ぐと、GIカットの頭が汗で光っている。
「I'm... a guerrilla-style battle humanoid」
(わたしね………ゲリラ式戦闘ヒューマノイドなの)
「...W-What?!」
(……な、何ィ!?)
腰を下ろしたばかりの地面に、ひっくり返りそうになるパウエル。
「………You!?
A human girl?
…………I can hardly believe it, but I understand why you're okay on your own」
(………お前が!?
人間の娘が?
………にわかには信じられんが、一人でも大丈夫な理由は解った)
麻衣は。
これまでの自身の経過と、この地へ来て、イスロ本部司令室でのことまでをパウエルに語り続けた。
見ず知らずの人間に話すべきことかと疑問視する人も居るだろうが、むしろ"見ず知らずの人間に”だからこそ話せたのかも知れない。
それ以上に………
自分の"秘密”を抱え込みながら生きて行くのに、麻衣は疲れ果てていた。
全て解放したい………そんな気分にかられていたのであった。
「………To be honest, I hated it at first.
But after I learned to transform myself,
I started to think that maybe being turned into a battle humanoid was my "mission."」
(………確かに最初、わたしは嫌だった。
でも、自分で変身出来るようになってからは、戦闘ヒューマノイドにされたことは"使命”なんじゃないかな?なんて思えるようになってさ)
パウエルは、泉の水面に浮いている葉の上のカゲロウの動きを眺めながら、黙って麻衣の話に聞き入っている。
「...But.
As a battle humanoid, no matter how powerful my techniques are.
Even if my opponents are evil, if I'm not allowed to hurt them...
What's the point of my existence?
I've lost sight of that...
What is the meaning of my existence?」
(……でも。
戦闘ヒューマノイドとして、どんな強い技を持ってても。
例え相手がどんなに悪い奴らだとしても、傷付けてもいけない……なんてことなら。
何の為に、わたしは居るのかな?って
わからなくなった……
わたしの存在って、何?って)
傍らの小石を一つ摘み、パウエルは泉へ投げ込んだ。
小石は水面で何度も飛び跳ねて、ようやく水面下に沈んだ。
「...I understand how you feel」
(…………お前の気持ち、わかるよ)
麻衣はパウエルへ向き直る。
パウエルは、水面へ目を向けたまま続けた。
No matter if you're human or whatever, everyone has to become a "fighting machine."
It's not about hurting others, it's kill or be killed.
Sometimes that's true even outside of the battlefield.
So, I think it doesn't matter whether you're a battle humanoid or a human.
……But, do you understand the difference between us and mere murderers?」
(………戦場では。
例え人間だろうが何だろうが皆
"戦うマシーン”
にならなきゃならん。
傷付けるどころか、殺るか殺られるか?だ。
場合によっては戦場じゃなくてもそうだ。
だから、お前が戦闘ヒューマノイドだろうが人間だろうが関係無いと俺は思ってる。
………ただ、俺達とタダの人殺しとの違いがわかるか?)
突然のパウエルの問いかけに、麻衣は黙り込む。
「The question is, "Did you do your best before it came to that?"
Even if the other party is a villain, if they're someone you can reason with, there's no need to hurt or kill each other.
But unfortunately, most of those villains are just impossible to reason with.
With special forces like mine, we try our best to reason first.
If that fails, we charge in.
And that's our job—to take them down」
(そうなる前に"最善を尽くしたか?”だ。
例え相手が悪党でも充分に話し合えるような奴なら、わざわざ傷付け合い、殺し合う必要も無いだろう。
だが残念なことに、そんな悪党どもの大抵は話にもならん奴ばかりだ。
俺のような特殊部隊とはな、話し合いという最善を尽くした上で。
それでもダメな場合に突入し。
相手を仕留める仕事なのさ)
パウエルは水面から、麻衣へ視線を移した。
「But... this time, I almost made a mistake.
I was so focused on taking down that building, on preventing casualties as the unit's representative,
I was diverting my attention from "doing my best."
It was the FBI leader who put the brakes on that.
...Just like your father in the command center」
(だが………今回、俺はミスるところだった。
あの建屋を落とすこと、部隊代表として被害を防ぐことにばかり目が行き。
"最善を尽くす”ことから目をそらしていた。
それにブレーキをかけてくれたのが、FBIのリーダーだった。
………司令室での、お前のオヤジさんのようにな)
そのパウエルの言葉で、麻衣はドキッとした。
あの時、ドメニコは確かに
"要望を聞く”
と訴えていた。
けれど自分は。
それを無視し怒りの感情に任せ、命を奪うところだった。
これが果たして"正義”の為の行動と言えるのだろうか……………
麻衣は、ようやく父、日向の伝えたかった真意を知った気がした。
「But you weren't wrong.
Just like me, you stopped there.
If you hadn't stopped then, we would have become... just plain murderers.
As long as you've made this judgment, no matter what anyone says, you should believe in yourself and keep fighting!」
(だが、お前は間違ってない。
俺と同じで、そこで踏み止まった。
もし、それでも踏み止まらなかったとしたら、俺達も………タダの人殺しになるところだったな。
この判断が出来ている限り、お前は誰に何と言われようと、自分を信じて闘い続けるべきだ!)
再び、麻衣はパウエルへ顔を向けた。
この泉へ来る前の重く覆い被さっていたものが、スッキリと晴れた気分がしていた。
Thanks to you, I feel like I've finally gotten over it!
I'm Mai.
What's your name?」
(………ありがとう。
あなたのおかげで、吹っ切れた気がする!
わたし、麻衣。
あなた、名前は?)
I feel just as relieved as you do!
But in such a dangerous place...
I never dreamed that a girl like you would thank me.
But I know you're much stronger than I am」
(俺は、カール。
吹っ切れたのは、俺も同じさ!
しかし、こんな物騒な所で。
お前みたいな女の子に礼を言われるとは思っても見なかったぜ。
とは言っても、俺なんかより全然強いだろうがな)
ほとりに咲く、ダリアの花々が。
夕陽に照らされ輝き始めていた。
〈戦場に咲く花・完〉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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