
外の喧騒を気にもとめず、相変わらず酒浸りであった。
元々アルコールの強い方では無かったが、このナタリアの一件をきっかけにテキーラをあおるようになり、本人曰く"鍛えられた”ことを喜んでいた。
もはや、デスクの電話にも何処からもベルを鳴らす者すら居なくなっていた。
それを勝手に「都合が良い」などとうそぶき、自由を謳歌しているかの能天気ぶりであった。
不審に思ったきっかけは、いつものように追加の酒を持って来るよう本部建屋内の酒保(軍隊でいう売店)に内線電話をした際、何度かけても誰も出なくなったことであった。
「?
仕入れにでも出ているか?」
当初その程度しか考えなかったドメニコであったが、さすがにおかしいと思ったらしい。
政治結社の名を借りた国際テロ組織ISLO=イスロの本部建屋は、事実上陥落した。
既に戦意を放棄した兵士達は、◯✕国国家警備隊特殊部隊の前に全員投降。
また、本部建屋から数km離れた都市のビルディングに構えられていた、所謂"総合職”の事務所も抑えられ。
職員達も一旦身柄送検されることとなった。
また……解放・救出された人質達の処遇については。
米国人研究者5名は同じく◯✕国国家警備隊により一旦保護された後、FBIが引き取り帰国する手筈となった。
ナタリアに関しては………本人の意志として母国へは帰国せず、米国か日本への移住を希望している。
日向については………米国に職業の基盤が有り、尚且つ諸用を申し出ている為、未だ確定せず………といった経過となっていた。
しかし………
組織の代表者でありながら自らを周囲から遮断し続けたドメニコは、この建屋に残るのが既に自分一人という事実さえも知らずにいたのだった。
「しょうがない、誰か呼ぶか」
やれやれ、とデスクの椅子から重い腰を上げ、部屋の入口へ向かおうとした時。
「Excuse me」
(失礼します)
ドアの向こう側から女の声がした。
ドメニコの心拍は急激に上がる。
頭の中で、欲望が蠢いて来る!
「ナ……ナタリア〜!!」
ナタリアが戻って来たと確信したドメニコは、すぐさまドアノブに飛び付き。
自らこじ開け………そして、入口の向こう側に立つ女性に抱きつこうとした。
が……!
「!?」
その相手の顔を見て。
ドメニコは、まるで反重力を食らったように後ろへひっくり返る!
驚愕するドメニコが目にした、そこに立つ"女性”こそ。
ゲリラ式戦闘ヒューマノイド……………
真行寺麻衣であった!!
久しぶり、だよね?
メタボオヤジさん」
話し口調こそ穏やかだが、その右眼は。
ようやく獲物を捕捉した、飢えた鷹のように鋭かった!
背中から床に倒れかけているドメニコが、怯えた目を見開く。
「い、一号機!
何故………何故ここに!?」
「アラ?
わたしが来ちゃマズかったワケ?
ざ〜んねんでした!
"お目当ての人”じゃなくてね」
一歩一歩、ドメニコに近付きながら麻衣は嘲笑う。
床に寝そべったまま、ジリジリと後ずさるドメニコ………顔が青ざめていく。
「な………何しにここへ………来た!?」
「何しにって………?
ここはアンタが、わたしをこんなふうにしろ!って勝手に決めたとこでしょ?
で………
"御礼参り”に来てやったワケ。
昭和の卒業式みたくね」
そう言って麻衣は、ケラケラ笑ってみせた。
その笑いが、ドメニコを更に恐怖させた。
「ち………違う!
お前を改造したのは、お前の父親だ!!
私は………関係ない!!」
その一言が。
麻衣の中の何かを爆発させた。
途端に鬼神の顔となり。
おもむろにドメニコの襟首を掴んで捻り上げ、力まかせに床から引き起こす麻衣。
ざけんじゃねぇ!!
このドブネズミがァ!!」
ドメニコは自分より小柄な麻衣に、高く持ち上げられ。
宙吊りになった足を苦しそうにバタつかせる。
「要望?
アンタが死ぬこと、と言ったら?」
「そ……………それ……だけは………か……かんべん………してくれぇ」
宙吊りにさせられ、麻衣に強く絞られた襟首が締まっていく。
同時に息が詰まっていくドメニコ。
だが、麻衣は力を緩めることをしなかった。
「アンタのせいで!
わたしの大切な家族も……わたしの大切な日々も!
みんなメチャクチャだよ!!
アンタみたいに、人の命を金儲けの道具にするような奴は世界を不幸にしていくだけ!!
もっと苦しめ!!
「やめるんだ!!
麻衣!!」
部屋の入口から声がかかった。
振り向くと、そこには父親………日向が立っていた。
隣に姉………華裏那の姿もある。
日向は、麻衣の側まで駆け寄る。
「麻衣!
………君は、人間なんだ!!
こんな姿にしてしまったが………
私の大事な娘に変わりはない!
人間なんだよ!!
どんなことがあっても。
どんなに憎しみがあっても。
人を傷付けてはいけない!
人を殺してはいけない!
罪を、犯して欲しくはない!!」
5年振りに再会した父親の両眼から、涙が溢れるのを見た。

麻衣は、ドメニコを吊るし上げたまま父親を見据え。
何かを伝えようとしたが………
あまりにも多過ぎて。
ただただ唇が震えていた。
華裏那が一歩進み出た。
あなたの気持ちなんて、わかりきってると思ってたわ」
あたしなんかより。
あなたの苦しみや悲しみの方が、どんなに重かったことか……
後になってわかったの」
あなたには、今度こそ幸せになって欲しい。
そんな奴、どうにかしたところで、あなたの失くしたものは戻らないわ。
だから、もう、忘れて。
………明日だけを見て!」
麻衣は通り魔事件の時のことを思い出した。
まだ、自身で変身をコントロール出来なかった頃に犯してしまった罪………
麻衣は、ドメニコの首を締め上げていた力を脱いた。
音を立てて床へ落ちたドメニコは、息絶えてはいなかった。
「………それでいい……それでいいんだ……麻衣!」
日向は号泣していた。
程なく、剣持が地元警察と共に入室して来る。
代表者としてマルティネス現場指揮官の姿もある。
マルティネスが、ようやく息を吹き返し呆然と床に座り込んでいるドメニコに向かって、身柄確保の前の罪状告知を行う。
「Usted tiene derecho a saber el motivo de su detención. Por lo que se le informa...」
(あなたには逮捕の理由を知る権利があります。したがって、以下の通り通知します……)
剣持が、笑顔で麻衣へ報告する。
「真行寺さん。
たった今、君の素体を無事に運び出したよ。
FBIのヘリコプターで、お父様ゆかりのあるアメリカの研究所へ運んでいるところだ。
そこで、君の意識を戻す作業を行う手筈になっている。
やっと、本当の自分へ帰れるよ!!
君の幸せが……新しい人生が全て、そこから始まるんだ!!」
だが。
この報告を喜ぶと思っていた麻衣の表情は変わらないどころか沈んでいた。
上の空とも言えた。
「………ごめんなさい………独りにさせて」
怪訝そうな剣持をよそに、麻衣は擦れ違って司令室を出て行った。
その司令室の操作パネルの一つの液晶スイッチが
「caution」
表示を点滅させているのを、誰も気付かなかった。
〈麻衣の怒り・完〉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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