………麻衣にとっての2月は。

バレンタインデーに初めて栄太へ、しかも手作りのチョコレートを贈り。

更には喜んで貰えてハッピーに終わった。

栄太にしてみても、生まれて初めて女子からチョコレートを貰えたこともあり。

喜ばないわけが無かった。


山本君&朱莉カップルも似た境遇のバレンタインだったが、違ったのは山本君が余りに大食いであった為。

朱莉の選んだ名店のカワイイデザインのチョコレートを「かたじけない!」と手を合わせた直後、目前で、ものの数秒でたいらげてしまったことだった。

その為、朱莉は慌てて更にチョコレートを買い足しに出た………というハプニングがあった。

(来年からは手作りでチョコケーキを1ホール用意しなきゃ!)

そんな教訓を得た朱莉であった。


由美香&剣持刑事37歳の方は、一悶着あった。

やっとインスタグラムに"自分用”の触れだしでバレンタイン・スィーツをUPせずに済む!と喜び勇んでいた由美香。

前年のハロウィン同様、腕を振るって手製スィーツを用意することを決めていたのだが、それを剣持は


「そこまでしなくていいよ」


とアッサリ固辞してしまう。


剣持にしてみると、テロ事件で身柄を確保しているイスロ兵達の取り調べが佳境を迎えており。

更には、この時期に限り事件・事故発生件数の多かった為、多忙を極めていた。

また、前年のハロウィン・クリスマス共非番を頂いている手前、2月14日にまで由美香と予定を合わせることに職場に対し遠慮があったのだ。

わざわざ苦労してスィーツを用意して貰っても、その日に逢える保証は無い………というわけだった。


しかし、そんな"大人の事情”を飲み込める程、由美香の頭は冷静ではなかった。


「なんで!?

バレンタインだっていうのに!!」


そうそう………

片思いなら?まだしも。

"保証された”相手が居るにも関わらず、バレンタインに逢えないなんて!

絶対有り得ない!!

18歳の乙女の由美香にとって、バレンタインというイベントは無条件で最優先事項であり"無敵”であったのだ。


しかし……

剣持は、決して言ってはならない"定型語”を口にしてしまう。


「仕方無いだろぉ?

仕事なんだから」


それに対し。

万人でも予想の付く、やはり"定型語”が由美香から返って来る。


「ウチと仕事、どっちが大事なの!?」


あ〜〜〜………


そこからは、このカップル初の修羅場となった。

ここ最近の仕事での多忙と神経の擦り減らしで、剣持は疲れとストレスがピークを迎えており。

いつもの"大人の優しさ”は何処かに飛んで行っていた。


「そんなの、比べられるわけないだろ!?

仕事しなきゃ生活さえ困るんだぞ!!」


「けど!!

バレンタインなんだよ!?

ぜってーおかしいよ!!」

食い下がる由美香に対し、ついに剣持は爆発してしまう。

「バレンタイン、バレンタインて!!

そこまで言うなら、郵便受けに板チョコでも突っ込んどけよ!!!」


これには、由美香も傷付いた。

まさか………

こうまで言われるとは。


「……大嫌い……ダーリンなんか

大嫌いだよ!!!

目に涙を溜めて、由美香は部屋を出て行った。


由美香が出て行ってから、剣持は我に帰る。

しかし………遅かった。



埼玉、真行寺家近くの公園。

麻衣は学校からの帰り際、独りベンチに座り込んでいる成人男性を見つける。

黒スーツに赤シャツ……

剣持刑事37歳である。


(確か、前もこんなことが?)


デジャヴにとらわれる麻衣。

一先ず、挨拶だけでもと近寄る。


「こんにちは。

また聞き込みですか?」


麻衣に声をかけられ、ハッと向き直る剣持。


「………あ!

いやぁ」


少し気恥ずかしそうに……

それでいて、心なしか寂しそうな笑みを浮かべる剣持。


「いや……少し一息入れてただけだよ」


それにしては不自然だ……と麻衣は感じた。

前回、ここで会った時は自宅で起きた事件の関係だったが、本来の剣持の所轄は都内のはず……わざわざ埼玉まで一息入れに?


「もしかして、わたしに逢いたくてここに?」


剣持の顔を好奇心の目で覗き込む麻衣。

図星だった様子が見てわかる、慌て気味の剣持。


「………あ……ああ、ちょっと訊きたいことあって」


いつもの剣持とは違う、まるで思春期の少年にも見える剣持の仕草に。

麻衣は可愛ささえ感じた。


「何か、あったんですか?

もしかして………北原さん関係?」


イタズラっぽく笑う麻衣。

対して剣持は、まるで拳銃で撃ち抜かれたような顔で驚く。


(スゴい!

女の勘は鋭いというが、まさか、こんな少女までとは)


「実は………」


剣持は観念し、由美香と仲違いした経緯を詳細に麻衣に話す。

麻衣はフンフン、と頷きながら話に聞き入った。


「……ゴメンよ。

こんなことを真行寺さんに話しても……と思ったんだが。

何か、やるせなくてさ………」


麻衣は剣持に向き直り。

「いや、別に、わたしなんかで良かったら話して貰っていいよ。

………でも、大変だね」


少し考えごとをしてから、麻衣は続ける。


「剣持さんも疲れてるのにね。

社会人なんだから、仕事入っちゃうのは仕方無いと思うし。

わたしなんかも、今まで自分の都合なんか無かったのと同じだから………わかるよ」


剣持は麻衣の顔を見つめた。


「真行寺さんは、由美香ちゃんより年下なのに。

わかってるよなぁ」


エヘン!と誇らしげな仕草を見せてから麻衣は、少し睨み付けるような顔で告げた。


「けどさぁ。

剣持さんも、そうやって理屈で言いくるめるのって良くないと思うよ。

女の子ってさぁ、理屈じゃなくて感情で動いてるから。

仕事が理由なのは仕方無いけど、もうちょっと違う言い方出来なかったかなぁ」


剣持はドキリとした。

37歳にして生まれてこのかた、こうした"女性の気持ち”というものを考えたことが無い。

たとえ年齢が離れていても男同士なら了解するだろう?とする部分が通じなかったことが、遅ればせながら剣持には初めての出来事だった。


シュンとなる剣持。


「どうすればいいんだろう………

あれからLINEも来なくなったし」


「………剣持さんからはしてないの?」


「え?

してないけど」


ポカンとする剣持を見て、麻衣は呆れながら説教を始めた。


「ダメだよ〜〜!!

何の為のLINEだよ〜?

もう、こういう時にはすぐ、その日の内に

"今日は言い過ぎてゴメンね”って送らなきゃ!!

真夜中だっていいんだからさ〜」


剣持の顔が真っ青になる。


「も、もう間に合わないかな!?」


「わかんない。

でも、全くしないよりマシだと思うから。

今すぐにでも送ってみて!

………ああ、何なら。

わたしが例文作ったげるから」


先日のテロ事件で勤務中の剣持とは、余りにかけ離れた頼りない様子が見ておられず。

麻衣は剣持から半ば引ったくるようにしてスマートフォンを借りた。


(由美香ちゃん

こないだマジごめんよ

ちょっと?じゃなくてかなり言いすぎたよ泣このうめあわせはぜ〜〜〜ったい

ぜ〜〜〜ったいするし

かんべんぴぇん)


素早く由美香とのLINE画面に打ち込んで、麻衣は剣持に返した。

怪訝そうな顔をする剣持。


「ちょっと……これ、俺こんな文体しないよ。

絵文字も無いし……」


麻衣は思わず笑った。


「最近のコはさ、絵文字なんか滅多に使わないよ。

逆にそうゆうの"オジサン構文”て、ウケるんだけど」


ガーン!!

今まで送ってた俺のLINEって"オジサン構文”なんて言われてるのか!?

ショックな剣持であった。


「いいから、とりあえずコレ送ってみようよ。

むしろ、剣持さんの意外性見てウケてくれるかも」


腹を抱えて笑う麻衣を見ながら、剣持は思った。

この子、実は楽しんでるだけじゃないのか?と。


しかし……かと言って仲直りする術を知らぬ今、とりあえず剣持は送信してみるしかなかった。

剣持は送信アイコンを押した。
先日あれだけ酷い別れ方をしたのだから、そう簡単には許してくれないだろうし。
直ぐには返信も来ないだろう…………いや。
永遠に返信は来ないかも知れない。
剣持はLINE画面を閉じた。
同時に心は、仕事で事件に向かう時と同じ緊張感に包まれた。

すると!?


ポンッ!

ものの10秒も経たないうちに由美香から返信が届いた!

慌ててLINE画面を開くと…………

文字と一緒にスタンプが。

更に返信は追加された。


「マズい!

バレてないか!?」


うろたえる剣持に対し。


「慌てない、慌てない」


と、余裕の表情で自分のスマートフォンを取り出す麻衣。


「剣持さん、またちょっと貸して」


麻衣は剣持のスマートフォンのLINE友達追加画面で、自分のスマートフォンのLINE画面のQRコードを読み込ませ一旦開通させた後。

自分のスマートフォンから、あるスタンプを一つプレゼントした。


それから麻衣は台詞を付けて、そのスタンプを由美香へと送る。

すると直ぐに由美香から爆笑動画スタンプが到着!


「!」

こうしたやり取りを麻衣が続けるうちに。
どんどん由美香の機嫌が良くなって行くのが剣持にはわかった。

「…………さ、そろそろ交代していいんじゃない?
あとは何て打てばいいか、わかるよね?」

麻衣からスマートフォンを返してもらい、剣持は。
少し考えてから言葉を打ち込み、送信。

少し間が開いて、返信が届く。

そこにはスタンプ、メッセージと一緒に。
涙ぐむ由美香の画像が添付されていた。

剣持は由美香の顔を見ながら。
不憫なことをしたと猛省し、返信する。

麻衣が声をかける。

「北原さん、ずっとLINE待ってたんだと思うよ。
一発目からホントに直ぐに返信来たじゃん」

剣持はじっと目を閉じ、自分の態度を反省した。

「本当に…………真行寺さんには助けて貰ってばかりだな」

麻衣は笑った。

「こないだ。
北原さんのこと、シッカリ守らなきゃダメだよって言ったばっかじゃん。
しかも、ここで笑
もっとオンナ心勉強した方がいいよ!」

剣持が苦笑いしていると、再び通知音が鳴る。
LINEを開くと…………

ベンチからひっくり返りそうになる剣持。

「ホラ愛されてるし。
唇、腫らさないようにね笑」

麻衣の笑い声が響いた。

…………2月14日は剣持と由美香にとって、チョコより甘〜〜〜い日になりましたとさ。


〈バレンタイン総括・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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