美枝の、受話器を持つ手が震えた。

電話の向こうから聞こえる声は、か細く。

しかし、それは確かにかつて共に暮らした元・夫の他ならなかった。


「…………い、今、何処なの!?

イスロなの!?」

夜中ではあったが、自然と美枝の声も高くなる。

聞き耳を立てていた華裏那も、思わず部屋から出て来た。


日向は答え始めた。


「…………いや、脱出した。

場所は言えないが、今はメキシコのある都市部からかけている」


「…………脱出?」


「そうだ。

…………………美枝、私は愚かだった。

自らの技術を悪に利用されてしまった。

君にも………本当に申し訳無かった」


「とにかく、無事なのね!?」


「ああ、大丈夫だ。

だが、まだ私には娘達の素体を守る為にやり残したことがある。

だから、まだ帰れない」


会話の様子を傍らで聞いていた華裏那が、美枝に代わるように促す。


「今、華裏那さんに代わるわね」


受話器を美枝から渡された華裏那は、息せき切って日向に話しかける。


「パパ!?

今、何処で何してるの!?」


電話の向こうで驚く日向。


「……カ、カトリーナなのか!?

美枝と暮らしているのか!?」


「そうよ!

麻衣も一緒よ!!」


それを聞いた日向の声が、啜り泣き始めた。


「何ということだ!

君達は、和解してくれたのか!?

三人で家族になれたとは…………!

これ程嬉しいことは無い、神に感謝したい!!」


日向は胸に様々な思いが巡らされ、言葉にならず。

ただただ、むせび泣いていた。


ふと、美枝と華裏那が振り返ると。

そこには麻衣が立っている。

凍りついた表情だ。


華裏那は受話器を差し出す。


「パパ…………お父さんよ」


麻衣は一瞬躊躇した。

しかし意を決したように受話器を受け取り、耳に当て。

電話の向こうから声の聞こえてくるのを無言で待った。


「…………麻衣か?」


その声は、意外な程に懐かしく麻衣に響いた。

電話の向こうの日向は、返事を促さずに静かに語り始めた。


「…………麻衣。

私は君に真っ先に言うべきことがあった…………本当に、申し訳無かった。

君の意見も聞かず、無断で戦闘ヒューマノイドにしてしまったことを…………

普通の、平和な青春時代を君から奪ってしまったことを…………

人間として、あるまじき事を君にしてしまった。

親の資格も無いこともわかっている。


しかし……それでも君をゲリラ式戦闘ヒューマノイドへ改造する必要があった。

それはイスロの命令など関係無く、私自身に覚えた使命そのものだった。


私を許せないのも当然だ。

ただ、君を人間へ戻す為に。

私に最期にすべきことをさせて欲しい。

だから、どうかもう少し待っていてくれ!」


日向の言葉をひとしきり聞き…………

暫しの沈黙の後、麻衣は口を開いた。

「…………あなたを、一生許すことは無いと思っていた。

あなたの名前を思い出す度に憎しみが溢れて来てた。

こんなふうに、話をすることなんか、二度とあるもんかと思ってた」


日向は無言で麻衣の言葉一つ一つを受け取めながら、電話の向こうで頷いていた。

麻衣は続けた。

シッカリと、目の前に日向が居るかのように顔を上げて。


「…………けど、もう。

これは、わたし自身の問題になったんだ。

もう、あなたがどうのこうのなんて関係無い。

わたしは、わたしと。

わたしの大切な人達……わたしを支えてくれるみんなの為に闘うと決めたんだ。

その為に強くなりたい!!

今は、それだけだよ」


麻衣の言葉に、日向は瞳を閉じた。

想像を超えた娘の成長に、言葉を失っていた。


「…………わかった。

麻衣、どうか、お母さんをよろしく頼む。

そしてカトリーナとも手を取り合って、みんなを守ってやってくれ。

私は君にもカトリーナにも、何にも負けない強さを備え付けた。

………だからどうか!

自信を持って立ち向かって行ってくれ」


麻衣は、わかっていた。

既に、父を許し始めている自分を。


「お母さんに代わるね」


受話器を受け取った美枝の瞳からは、涙が溢れていた。

「あなた!

無事でいて!

無事に帰って来て!!

そして……もう一度、みんなでやり直しましょう」


美枝の言葉に、電話の向こうで日向も泣いていた。

「ありがとう………ありがとう、美枝」


華裏那も、受話器に顔を寄せる。

「パパ、頑張って闘い抜いて!

あたしと麻衣も一緒に闘ってるから!

必ず生きて会うのよ!!

約束して!!」


「わかった!

約束する!!」


最期に、麻衣に受話器が渡された。


「わたし………絶対、負けないから!

絶対、みんなを守ってみせるから!!

見てて」


一つ、息を飲み込み。

麻衣はハッキリと伝えた。

「………お父さん!!」


受話器の向こうに、嗚咽が聞こえた。


「麻衣……!」


日向の最期の呼びかけで、電話は切れた。


日本と中米。

太平洋を跨る距離であっても、家族の絆を断ち切ることは無かった。


〈和解・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は

実在するものと一切関わりありません

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Gemini