強い冬型の気圧配置が一息ついた一月末。

麻衣の通うD大付属第一高等学校で、二年生の学期末テストが始まろうとしている。

連日の研究室でのトレーニング・メンテナンスにスケジュールを捌き、自宅学習の時間の取れていなかった麻衣でも言い訳は出来ない。

しかし、全国の高校生の8割以上が試験勉強に生成AIを活用する中、麻衣の電子頭脳はそれを凌駕し得る計算能力を持っていた。

ゲリラ式戦闘ヒューマノイドへ改造されたばかりの頃は自らの運命を呪い続ける日々の麻衣だったが、今現在は闘う使命感と共に、そうした"恩恵”を感じることも嘘ではない。

今では愛猫となったニャーミーも、戦闘ヒューマノイドの能力に預かり救出し出会えた存在だ。


「ニャンニャン、ゴロゴロゴロ…………」


机に向かう麻衣の足元に擦り寄り、甘えるニャーミー。


「よしよし」


勉強の手を休め、麻衣はニャーミーを抱き上げる。

人間だった頃と比べ、真の安らぎとは何か?を知ることが出来た気がした麻衣であった。



警視庁本部。

イスロ・テロ対策本部にて、諸原以下係員の話し合いが続いている。

剣持刑事37歳も、その中に居た。  

調査によって前回のイスロ・テロでは、国内上陸に空路を使った形跡が見られず、海路を使った可能性が指摘されていた。

また、それについても中米からとなると、それなりの航続距離に耐え得る大型艦艇を要するはずであった。

しかし海上保安庁・海上自衛隊から得た情報に於いては、その条件に該当する艦艇を日本近海で確認出来ておらず、捜査は難航の様相を呈していた。


しかし、それはキッド三人衆のケビンのハッキング成功によりX-Dayを感知し、当日湾岸を監視していたエリック=ティーチャーの証言によって、謎が明らかにされた。

それは揚陸艇の存在であった。


通常の揚陸艇であれば、船体そのものは小型ながら戦車等重量物を積んだとしても速度も遅くて最大16ノット(時速約30km)で航続距離も1,200海里(約2,200km)以上を維持できるものもあり、中米から日本へも北米〜アラスカ経由で途中燃料補給すれば自力航行で長距離移動が可能である。

イスロの所有する独自開発型の揚陸艇に至っては、航続距離は更に長い7,000海里(12,964 km以上)を稼ぐことが出来た。

 その性能が今回のテロのように夜間ならば秘密裡に上陸を果たすことも可能にしたのだった。

当面は海上保安庁とも連携しつつ沿岸警備を怠ること無く行なうことで対策本部は一致した。


「…………イスロ日本支部と見られた事務所は既に閉鎖され、今現在はハッキング不能とのことだ。

しかしゲリラ式戦闘ヒューマノイド達との連携は今後も欠かせない。

剣持、今後も密に連絡をとってくれ」


諸原からの要請を受け、剣持も了解した。




イスロの揚陸艇は日本時間一月後半未明にハワイを出港していた。

東京湾岸への到着は計画通り一月最終週の未明とした。

セルピエンテは腕を組み、行く手の大海原を睨み続けている。

太平洋上の波は予報より高かった。

ブリッジでは船酔いした部下達の嘔吐する音があちらこちらで響いている。


「季節外れのカエルの合唱が聞こえるな」


セルピエンテは船酔いの部下へ船室で休むように命じた。

近づく標的に彼は改めて武者震いする。

日本到達へは、あと540海里=1,000kmを切っていた。




真夜中、真行寺宅の固定電話が鳴った。

美枝はベッドから起き、カーディガンを羽織りながら寝室から居間の電話へと向かう。

こんな夜中に…………?

隣りのベッドに横たわる華裏那が聞き耳を立てる。


「…………もしもし?」


暫しの沈黙。


「…………み……美枝か?」


瞬く間に美枝の顔色が変わる!


「……あ!

…………あなた!?」


電話の主は、日向だった。


〈海を越えて・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は

実在するものと一切関わりありません

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Gemini