北陸の地元でのクリスマス・イブを、由美香との甘い時間で過ごせた剣持刑事37歳。

実家で同じ布団の中、由美香と抱き合い睡眠を貪っていた夜中の3:00過ぎのことだった。

剣持のスマートフォンが鳴った。


寝ぼけ顔で、ゆっくり起き上がり。

由美香を起こさないように布団から出て、半纏を羽織り廊下まで行く。

久しぶりの、雪国の冷え切った夜中は剣持の身体に沁みた。

スマートフォンを持つ手もおぼつかない。

画面を見ると、警視庁本部からの電話だった。


「…………ロボット・テロ発生?」


剣持の頭がようやく目覚める。

発生場所は、あの真行寺宅!

既に事件そのものは先に現場へ向かったSATによって収束が確認されているとのこと。

電話して来たのは、警視の諸原だった。


「非番のところ済まんが、今日(25日)にでも行けるか(現場へ)?

SATで大方の処理は済ませてあるが、夜中なこともあり住民でマル害(被害者)があるか等含めまだだ」


剣持は二の返事で了解を伝えた。


「ところで、ホシ(実行犯、この場合ロボット含む)を片付けたのは誰ですか?」


「ああ、SATによると、どうも例の……ゲリラ式戦闘ヒューマノイドらしい。

着いた時には終わってたそうだ」


真行寺麻衣だ…………

その時、剣持はそう確信していた。


電話を終え時刻を確認する。

午前3時25分。

夜明けまで、まだ間がある。

例え都内から程遠くとも、通常なら直ぐにでも現場へ直行するのだが…………

今は由美香が居る。

布団へ入ろうとすると、由美香は起きていた。


「お仕事?」


母が出してくれた、剣持の妹のパジャマは由美香には少々キツめだった。

胸元のボタンが二つ程はまらず、谷間が顔を見せている。

布団に入ってくる剣持を、由美香が両手で迎え抱き締める。


「うん…………大丈夫、朝ごはん食べてから戻ろう」


胸に顔を埋める由美香の髪は、懐かしい実家のシャンプーの匂いがした。


剣持達は9:00前に実家を出て、帰路に着いた。

帰り際、剣持の母は由美香を眩しそうに見つめて言った。


「博己には勿体ねぇぐれぇのメゴい子だ。また、こらっしゃいね」


「ハイ!

また来ます」


由美香は笑顔で手を振りつつ車に乗り込んだ。


帰りは晴れていた。

由美香を千葉まで送ってから、現場へ直行しても午前中には着くだろう…………

そう剣持はタカをくくっていた。


だが。

ラジオの交通情報が、高速道路での事故発生を伝えた。

それによると山脈の連なる県境を越えた区間で複数台車両の絡む事故が発生し、一部通行止めとなると言う。

その通行止め区間だけは下道の国道を通らなくてはならない。

よりによって、そこは山岳地帯であり所謂"雪の峠”となる。

高速道路の開通する前は"事故多発の難所”として知られていた。


剣持は考えた。

他の高速道路で迂回して首都圏入りを目指すことも可能だが、いずれも遠回りとなる。

更に、その事故の煽りを食らって他の高速道路も渋滞にもなりかねない。


「由美香ちゃん。

車酔いする方?」


「え?

なったことは無いけど」


「じゃあ、ちょっとだけ山道を楽しんで見る?」


由美香は嬉しそうに答える。


「うんうん!

行ってみよ!!」


国道の積雪は少なかったが、ところどころで凍結のリスクはあった。

その県境の山道に差し掛かるまで国道は平坦で、数々のスキー場に囲まれた雪山の風景が窓から見えた。


「わぁ!!

いいなぁ、ボードやりたい!

ねぇ。

次はここに連れてって♡」


由美香の要望に笑顔を見せる剣持。


「いいだろう、由美香ちゃん滑れるの?」


「うん!

一回だけど、友達と群馬に行ったことあるんだ」


ほとんど初心者ということだ。


「じゃ、今度は"ホントに”ボードだね!」


今回は友達とボードに行く…………とウソをついて出て来た由美香。


「エヘ♡」


由美香は運転している剣持に、少しだけ寄りかかった。


「でも、いいんだ。

思いっきり素敵なクリスマス過ごせたから」


由美香の指に、プレゼントしたリングが光っていた。


車は、いよいよ勾配区間に差し掛かかる。

剣持は愛車KP61のポテンシャルに期待した。

元々、ラリーで活躍した車。

この雪の峠を楽しむくらいでいいはずに思ったが、由美香を乗せている以上、油断は禁物と剣持は自分に言い聞かせる。


「じゃ、行くよ!

シッカリつかまっててね」


すると由美香は剣持の身体にしがみ付いた。


「いや、由美香ちゃん、車につかまっててってこと」


苦笑いする剣持。

由美香も

「ヤダ〜♡」

と自分でウケている。


長い首都圏生活で実質、雪道での運転経験は然程多くは無い剣持だったが、雪や氷の性格そのものは把握している。

KP61スターレットの車としての特性に、テール(後部)の滑り出しがわかりやすいというメリットがある。

乾燥した舗装路でのそれと、滑りやすい路面でのそれは必ずしも同じはずでは無かったが。

アクセル(スロットル)ワークとブレーキのタイミングを通常とは変えてみる…………

ステアリングの舵角を通常より多めにし、アンダーステアに対応する…………

等、試したい部分があることは剣持を退屈させなかった。

そうして運転に集中することが、そのまま「安全運転」に繋がり。

結果的に車体の挙動も最小限に抑えられ、同乗者である由美香にも不快感を与えること無く峠を越えることになる。

軽量な車体と、適度に"有り過ぎない”パワーもスリッピーな路面に味方している。

1300cc直列4気筒 OHV。

最高出力72馬力。

最大トルクが10.5kg・mと、スペックだけみれば「なあんだ」と現代では言われそうな 4K-Uエンジンだが、その最大トルクを3600rpmという低回転で発生するのが武器となり。

それがコントロールのしやすさに貢献し、ムダなパワーを無用としているのだ。


KP61は剣持のドライビングに応え、スムーズにコーナーをクリアし続けた。


「さすがだ、KP!

惚れ直したぜ!!」


思わず歓声を上げる剣持。


「惚れ直すって!?

ウチより好きにならないでねッ」


隣りに由美香が居るのを忘れるところだった。


「ゴメンゴメン、つい運転に夢中になっちゃったよ」


視線は迫り来るコーナーを追いながらも、由美香に謝る剣持。


「ん…………でも許したげる。

ウチをここまで連れて来てくれた、カワイイ車だもんね♡」

由美香はルームミラー越しに見える、真剣な眼差しの剣持にウィンクしてみせた。




麻衣は自室に籠りきりとなった。

家の中では華裏那が、消沈している美枝に代わり家事を始めている。

キッド三人衆は、夜が明けるとエリック=ティーチャーのマンションへと戻った。

エリックは姿をくらましていたが、実は東京湾上に浮かぶイスロの揚陸艇を監視し続けていたことを三人衆は知らされた。

更なる部隊を派兵してくるのを警戒してのことだった。


膝を抱えてベッドに呆然と座ったままの麻衣に、ニャーミーが擦り寄る。


「ニャオ」

ニャーミーも心配そうに、麻衣の顔を見つめる。


「ニャーミー…………あなただけだよ」


麻衣はニャーミーを抱きかかえる。




25日は学校で終業式だったが、麻衣の姿は無かった。

栄太は気になっていた。

つい、数時間前の真夜中まで一緒に過ごしていた麻衣。

贈ったプレゼントを、本当に喜んでくれているように見えていた。

体調を崩しているようにも栄太には見えなかった。

ただ、朝、TVニュースを見て来たりスマホで確認した生徒達は知っていた。

夜中に「真行寺宅襲撃テロ事件」が起きたことを。


「旦那。

奥様大変みたいだね」


クラスメイトの男子の一人が声をかける。


「え?……大変て!?」


「知らないの?

夕べ、奥様ん家が事件に遭ったって!」


マジか!?


栄太は血相を変える。


「ゆ、夕べって、いつ?

どんな事件!?」


「スマホに出てるよ。

なんか、ロボットに襲われたって。

ホラ、あそこん家って親がロボット研究家じゃん。

それ関係じゃないか?って」


栄太は、じっとしていられなくなった。


その日は午前中で下校となるが、その前に教室で担任から話があった。


「ニュースで見たという人もいるかも知れませんが、真行寺麻衣さんの御自宅が国際テロ組織による襲撃を受けましたが、麻衣さん本人と御家族の方は無事とのことです」


下校時間に、朱莉が栄太を呼び止めた。


「栄太君、夕べ麻衣と一緒だった?」


「……うん」


「何か、変わった様子無かった?」


「特に無かったよ!

いつもと変わらなかった」


事件が起きたのは、その後。

終電で帰ってからだ。


「麻衣、無事だって先生言ったけど…………心配だよね」


朱莉が栄太の心境を慮った。

栄太も麻衣の家へ行って確かめたかった。


「とりあえず、俺、行ってみるよ。

麻衣のところに」


「うん、でも今はマスコミとか警察がいっぱい来てると思う。

気を付けてね」


朱莉に見送られて栄太は学校を出た。


明日から冬休みというのに。

栄太には…………それどころではない使命感のような思いが生まれていた。


(俺に何が出来るかなんて、わからないけど…………

麻衣を守れるのは、俺しかいない!)

浅田栄太17歳。
少年から"漢(おとこ)”になろうとしていた!!

〈愛の漢達・完〉

※次回の連載再開は新年1月3日からを予定しております

※文中の団体・組織名及び人名は
実在するものと一切関わりありません
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