暗く、荒い………冬の夜の海。


12月上旬に中米の港を秘密裡に発ったイスロの揚陸艇は。

水平線の向こうに、ようやく日本の灯りを視認していた。

隊長セルピエンテ・ペドロサ率いる、イスロ対外派兵師団極東部隊。

20名の人間歩兵は船室に、50体の戦闘ヒューマノイドは船底の格納庫に待機する。


「きっとコロンブスも、こんな心境だったんでしょうな」


ブリッジの窓から遠く確認できる街の灯りを見据えながら、傍らの部下が船の長旅を表現する。


「フッ………

奴が目指したのは"黄金の島ジパング”だ。

これから俺達が上陸するのは、腑抜けヅラ連中の島だ」


セルピエンテは皮肉った笑いを浮かべた。

所詮平和ボケした国民の防御等、取るに足らず突破できる。

さっさと標的を始末し、故郷で新年を祝おう……………そう考えていた。




真行寺宅。

麻衣は慌てていた。


「ええ〜!?

クリスマス・イブもトレーニングなの!?」


イスロの部隊が近々上陸するという情報をエリック=ティーチャーから聞いた美枝は

「デュアルSHOT」

「クリティカル電 The End」

の技の精度を保つ為に、連日トレーニングを麻衣に強いていた。


「麻衣!

クリスマスどころじゃないのよ!!

あなたの命に関わることなんだから」


麻衣は。

クリスマス・イブの夜に、栄太と渋谷の公園通りで過ごす約束をしていた。

ここのところ、やっと二人の仲も落ち着いて来たところだったしクリスマスで………これまで以上の関係を築きたいと思っていた。

プレゼントも、既に用意してある。

麻衣にとって、これまでのクリスマスとは重要度が違うのだった。


「ねぇ〜〜〜お母さん!

ひと晩くらい、休んでいいでしょ!?」


「ダメ!

その一晩にイスロが襲って来たら、どうするの!!」


駄々をこねる娘の気持ちも、わからないでもない。

しかしタイミングが悪過ぎる。

本当に今、この時にそうなってもおかしくは無い状況なのだ。


「今年のクリスマスだけは、我慢しなさい」


そう言う母親にも、断じて従えない娘。


「ヤダ!

ヤダヤダヤダヤダヤダ〜〜〜ッ!!」


麻衣は階段を駆け上り、自分の部屋に籠ってしまった。


(今年のクリスマスだから………なのに)


戦闘ヒューマノイドにさせられてから、我慢することばかり。

たった一晩くらい、自由にして何が悪いの?

そんな思いが駆けめぐる、麻衣であった。


………………そして、12月24日。

麻衣は、母の言いつけに反し。
研究室へは行かなかった。
学校から上がり。
一旦帰宅し、支度をすると………
"予定通り”公園通りで栄太と落ち合っていた。


中米からドメニコの指令が下る。

「どうかね?
冬の太平洋はスプラッシュマウンテンよりは楽しかろう?
………トナカイの準備が出来次第、日本の子供らへプレゼントを発送しろ。
サンタクロース」

武者震いのセルピエンテ。
「まだですよ。
プレゼントは子供達を寝かし付けてからです………
スヤスヤ眠るころにね」

作戦実行の号令が発せられたのは、24日の23時50分。
イスロの対外派兵師団極東部隊が、日本の東京湾岸に上陸開始した。

〈黒いサンタクロース・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は

実在するものと一切関わりありません

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