剣持実家へ到着23日夜は。
剣持の父親も交えて近所の寿司店から上寿司を出前してもらい、賑やかに過ごした。

「ほっかね。
(そうかね。)
今、高校三年かね!
おらほうの女っ子よか、いっそ大人げだな!!
(こっちの女の子より、全然大人っぽいね!!)」

酔いも回った父は上機嫌だ。

「なじだね?
(どうだね?)
おめえさんも一杯!」

ビールの瓶を由美香に向ける父。
慌てて止める剣持。

「わぇ〜〜、オヤジ!
俺も一応警察んがだんが。未成年のしょだがんに、そっけんなーしてあると!!」
(おい、オヤジ!
俺も一応警察なんだから。未成年の人なのに、そんなのあり得ねーよ!!)

剣持もすっかり地元言葉に戻っている。
由美香は嫌がりもせず、ケラケラ笑っている。

宴もたけなわ、母親が二人に風呂を薦める。

「せっかくだがんが、おめた、一緒に入りゃいいこっつぉ」
(せっかくなんだから、あなた達、一緒に入ればいいよ)

途端に由美香も剣持も、顔が固まる。
それから、どちらともなく顔を見合わせる。

先に、由美香が。

「………ウチ、いいよ!一緒で」

剣持は暫く固まっていたが………

「博己!
一緒に入ってこい」

母親に諭され……何とか決心。

二人とも、未だキス以上の進展は無い。
当然、肌も見せあってはいなかったのだった。
(うん、これは純粋に入浴だけだ!
純粋に………)
そう自分に言い聞かせ続ける、剣持であった。

初めて見る、素肌のままの由美香は………
思っていたよりも大人びても見え、幼くも見えた。

剣持の方が、緊張していた。

「………あったかい♡」

実家の湯船は、二人で入るには少し狭く感じたが。
入るなり身を寄せてきた、由美香の体温と柔らかさと………吐息に。
剣持も目が虚ろとなっていた。


翌日、24日。
剣持は由美香を連れて、近くの森へ行った。
そこは、真冬はモミの木や杉などの針葉樹の森となっていた。
剣持は由美香に、本物のモミの木を見せてやりたかったのだった。

「うわぁ〜!
おっき〜〜〜!!」

針葉樹の木々は、高さが30メートル近いものもある。

音も無く静まりかえる辺り一面は、冬の空気のキンと張り詰めた冷たさと………雪と木々の匂いだけが支配している。
都会ではまず見かけることの無い、そんな大木の森。
初めて感じる、冬の大自然の大気を由美香は思い切り吸い込む。

「ハァ〜〜!
ヤバいヤバいッ!
メッチャ気持ちいい〜〜!!」

まるで、何処か違う国に居るような錯覚に………
日常も忘れる由美香であった。


クリスマスイブのディナーは。
剣持の予約していた、山の麓にあるイタリアン・レストラン。
ここは窯焼きピッツァが好評なのだが……
せっかくのクリスマスということで。
剣持は、由美香の為にイタリアンのフルコースを用意していた。

まず前菜だが、バラエティに富んで楽しい。

次にパスタ。
パスタメニューも豊富なのだが、この時は由美香の好みそうな"エビのトマトクリームパスタ”をチョイス。

メインは"鴨肉のロースト”と………
"地鶏の香草焼き”と、クリスマスらしいメニュー。

イタリア料理では、サラダはメインの後が定番。

後はデザートだが。
どうしても剣持がオススメしたい!
"リンゴのデザートピッツァ”と………
やはり………クリスマス、ケーキは外せないということで。
生クリームたっぷりの
"クラシックショコラ”。

元々食欲おう盛な由美香、まさかのイタリアン・フルコースに悲鳴を上げんばかりに大喜びしてくれたが。
終盤に入り、リンゴのデザートピッツァに舌鼓を打っている最中。
さすがに満腹MAXになりかける。
しかし、最後にケーキが来ると聞き。
俄然エンジン再始動!!

「ハァ〜〜〜シアワセ♡」

お腹も心も満腹でニコニコの由美香に、車の中で剣持は小さなプレゼントBOXを渡す。

「メリークリスマス!」

「え!?」


期待してなかったと言えばウソになるが、ここまでの夢のような瞬間のオンパレードで由美香は満足してしまい、クリスマスプレゼントのことは一旦どこかへ飛んで行っていた。

「……開けてみて、いい?」

「勿論!」

開けた後………
由美香は驚く。

「………ヤバい!
これティファニーじゃん!?」
剣持からのプレゼント………
それはティファニーのリングだった。

由美香もブランドとしてのティファニーを知ってはいたが自分には無縁だと思い、実際に貰えるなんて考えたことも無かった。
剣持も女性にプレゼントなどをした記憶も無く、特に由美香の世代の女子に喜んで貰えるものは?と懸命に"調査”した結果………
このティファニーのシルバーに辿り着いたのだった。

「サイズ、大丈夫と思うけど………
はめて見ようか?」

そう、剣持が言って。
改めて由美香の喜びが湧き上がって来た。

「うん、うん!
左の薬指がいい♡」

と由美香は指定して来た。
剣持の手によって、リングが差し込まれて行く………

リングは由美香の指に、ピタリと合った。

「わぁ……………」

由美香の両目から、涙が溢れた。

「……………嬉しい。
マジ嬉しいよ」

他に言葉が見つからない。

ティファニーのリングのせいではない。

それは………由美香にとって。
これまで生きて来た中で得られることの無かった、言葉に出来ない愛を感じ取ったからだった。
(ありがとう)
言葉にならない気持ちを、抱き締めた剣持の胸へと伝えた。



………ふと、由美香は気が付く。

「ゴメン!
剣持さんへのプレゼント持って来たけど、お家に置いたままだった!!」

「そうなんだ!?
楽しみが増えたよ」

剣持が笑う。

………二人はその夜。
一つになって眠った。

それは………剣持にとって。
これから海を渡って来る恐怖と相対する前の、束の間の愛の時間だったかも知れない。

〈Xmas Song・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は
実在するものと一切関わりありません
写真;HARIMA
キャラクターアプリ;Picrew.me ChatGTP
Gemini
画像アプリ;You Can Perfect