「キャアァァァァァ!!」

白昼の都内某所で悲鳴が上がった。

週末の並木通り。
いつもと同じような人熱れの最中の出来事だった。
薄汚れた革ジャンを羽織った背高い男が
長い髪を振り乱し、刃物を振り回しながら群衆に駆け寄って来たのだ。
あまりに突然で、気付かない者がほとんどだった。
男は一心不乱に包丁のような刃物を振り回し、人々の背中、胸部、頭部問わず斬り付けながら分け入って行く。
路上が血で赤く染まり始める。
アスファルトに崩れ落ちる者、倒れ込む者、それを抱きかかえ大声で呼びかける者。

瞬く間に並木通りはパニックに陥った。

誰かが呼んだ警官が三人、男を追って走って来る。
通りの並びにあるファンシーショップの前で高校生くらいの私服の少女が一人、怯えて立ちつくしていた。
刃物を振り回す男は、その少女と目が合った途端。
踵を返し少女に抱きついた。
「……………!!」
恐怖に全身が凍る。
声が出ない。

そこへ警官が追いついた。
「離しなさい!!」
男は咄嗟に少女の背後に回り羽交い締めにした。
左手で少女を押さえつけ
右手に持つ刃物の先を少女の喉元へ突き付ける。
警官の一人が再度命じる。
「離しなさい!!」
男は、返り血を浴びた顔に薄笑いを浮かべていた。
何が目的なのか?
薬に侵されているのか?
それとも……残虐なままの人格なのか?
いずれだとしても
こうした輩を刺激すると更に状況を悪化させかねず、警官も迂闊に拳銃に手をかけることも出来ない。
警官の一人が無線で応援を呼ぶ。
凍り付いて涙も出ない少女の喉元へ刃物の先が突き付けられたまま、膠着した時間だけが過ぎていく。

ふと、男の目が見開き
刃物を持つ右手が動きかけた瞬間
警官が拳銃を抜くより速く
何かが空を切り、男の背後から覆い被さった。

「ぐぅ………!!」

それは………その者は
人間のようで人間ではないように見えた。
身体の半分は人肌で
半分は透明のカバーに収められた機械らしき物が犇めき
その両腕で男の首を絞め上げている。
かなりの力が加わっているのが
目を見開いたままの男の顔色でわかる。

「ぐへぇ」

口から涎を垂らした男の右手から刃物がこぼれ落ち、少女は男を振りほどき警官に抱きかかえられた。

それでもなお
”その者”は男の首を離さない。
既に意識朦朧とした相手の耳に囁くように言う……………

「電………」

すると
男の身体全体が小刻みに震え始めた。

「電………!」

男の身体は更に激しく、ダンスを踊るかのように手足をバタつかせ始めた。
同時に身体からは
きな臭い匂いと煙が立ち始めた。

そして”その者”の両腕からは刀のような”部品”が出てきており、時折
バチッバチッ
と感電したような音を発した。

「………電!!!」

「ぐぉぉぉぉぉ」

男の首を絞めたままの”その者”の両腕から
バチ!バチ!!バチ!!!と目も眩む火花が放たれた。
男は断末魔の悲鳴とともに炎に包まれ路上に崩れ落ち………息絶えた。

「The  End」

”その者”は呟いた。

見ていた警官達も
助けられた少女も
群衆も
呆然と立ち尽くすしか無かった。

”その者”は
人間の女性のような姿をしていた。

そして…………
いつの間にか立ち去っていた。


…………麻衣(まい)は目を覚ました。
都内の私立高校に通う二年生の彼女は
いつも記憶に無い場所で居眠りから覚める。
今日は某私鉄駅近くのバス停にあるベンチだった。

「また、やっちゃったかな」

今日は確か、都内の某並木通りまで行ったはずだった。
何故、何の為そこへ行ったのか覚えてないし、そこから遠く離れた私鉄駅まで来た経緯も思い出せない。
ただ………
その並木通りへ差し掛かった時に
頭の中に響いた声だけを覚えている。

「タスケテ」

いつも記憶を無くすのは
このワーズが聞こえた後だ。

麻衣は………
わかっている。
自らが背負うことになった運命というものを。
いや、運命と呼ぶには
あまりに残酷なものを。

「わたしの身体を取り戻したい……でも
その前に、わたしにしかできないこと」

好きだったクレープの味も
今は思い出せない。
何故なら
ロボットに味覚は無いからだ。
孤独と哀しみを使命に替え
麻衣の闘いは続く…………!


〈序章・完〉

写真;HARIMA
キャラクターアプリ;Picrew.me
画像アプリ;You Can Perfect
勝手に挿入歌;「さよなら」久宝留理子