ドイツ南西部に
ポルシェやメルセデス等の自動車メーカーの本拠地で有名なシュツットガルトという都市がある
そのすぐ隣りにゲルリンゲンという都市があり
もう…………かれこれ15年もの付き合いの私の友人夫婦がそこに住んでいる

ゲルナー・クルツ博士(仮名)
地元ドイツの大学で航空工学と流体力学を教える教授として働く傍ら自ら研究者として長年様々な風洞実験に携わり
世界最古・最高の実機グライダーメーカーであるシェンプ・ヒルト社の設計顧問としても名を連ねていたプロフェッサーでありマイスター

対して………………
一塊の日本のサラリーマンに過ぎない
私HARIMA

結びつけたのは模型飛行機だった
これまで
ここで何度も私の模型飛行機との馴れ初めを語ってきたが
車のRCに一旦見切りを付けて空の世界へ飛び込んだ2002年の春
まずは飛行機の原理そのものを学ぶ為に
RC以前にフリーフライトを開始した
それまでの私は折り紙飛行機すら
上手く飛ばせた記憶も無かったからだ

まずは市販の1000円程度で買えるユニオン・モデル製ゴム動力飛行機のキットを組み空中へ上げられるところまで自分でいき
<飛行機そのものを学ぶ為初めて購入したフリーフライト機であるユニオン・モデル製パイパークルーザー>

近くに同じことをしている方が居なかったのでネットで全国のフリーフライト機クラブHPを片っ端から検索し掲示板で指導を受けていた
その中で愛知県に本拠地を持つ中部フリーフライトクラブ(CFFC)から通信会員のお誘いを受け入会したところ
当時自動車メーカーの仕事でドイツに行き来していたクラブ員・Kさんと知りあった
クルツ博士ともKさんを通じて繋がった仲となった
Kさんは国際級ゴム動力フリーフライト競技・F1Bの日本代表選手でもあった
<資料画像2点・F1B>
F1B は
コム動力飛行機の世界最高峰!!
Kさんが仕事で利用したドイツの大学の風洞実験施設の責任者であるクルツ博士は同時に
実機・模型飛行機問わず航空関係に博識・造詣の深い方なのでKさんとも意気投合した様子
そうした話の中Kさんは
かつてのドイツのF1B世界チャンピオン機である「ホスサス・エスパーダ」という機体の主翼に取り付けられた
「コブ型乱流装置」
に着目し是非とも再現したものを作って欲しいとクルツ博士に依頼する

<乱流装置とは…………
飛んでいる飛行機の翼の表面を流れる気流が剥がれて不安定になり失速し墜落などしないようにあらかじめ適度な表面上の気流の乱れを発生させることにより逆に剥がれにくくし飛行安定を保つ目的の装置で
形状は違えど実機にもよく使われている
特にRCと違いエレベーター操作の出来ないフリーフライト機に自律安定性は必須であり現在も乱流装置含め研究が盛ん>

博士は「現在の機体に効果があるかは未知数だが」としながらも
その人柄でKさんの申し出を快諾
ある程度の時間を要し風洞実験を重ねながらもコブ型乱流装置を完成
Kさんのドイツから持ち帰ったコブ型乱流装置は余剰品を希望するクラブ員へも配布された
その時私自身は飛ばし始めたばかりのRC機 Xー1 に取り付けてみたい!と思った

HARIMA初のRC飛行機「X―1」
(ブンカ・ファイヤーバード201)

何故なら主翼コードが名機ホスサス・エスパーダと同じ100mmジャストだったからだ!!
かくしてドイツのクルツ博士の風洞実験施設で生まれた乱流装置は海を渡り
日本の初心者フライヤーである私HARIMAの手元に届くことになったのだった

Xー1は
①電動モーター(パワー)
②ラダー(左右方向)
の2つの操作のみで飛行可能な初心者向けRC飛行機だった
しかし上下方向の制御であるエレベーターが無い為
前方からの強風などに煽られた場合
急激に機首が上に持ち上げられ
翼の表面の気流が剥がれてしまい
揚力(浮く力)を失い→失速→制御不能
最悪は墜落のリスクもあった
要は Xー1とは
縦の自律安定性の必要な
フリーフライト機の特性の残るRC機だったのだ
そこで………………恐れ多くも
F1Bチャンピオン機にも採用された装置の効果を試す実験をXー1で行った!!!

乱流装置を装着した主翼と
装着しない主翼を用意
同じ気象コンディションの中
敢えて機首上げの起こり得る=失速しやすい=状況を発生させ
ビデオ撮影にて機体の挙動を比較

結果は…………
当初の想像以上となった!!!

①装置装着の場合
如何なる頭上げの状況にも Xー1は姿勢を乱すことなく回復した

②装置装着の無い場合
頭上げによりXー1は失速が始まり
飛行姿勢は大きく乱れ
墜落しないよう体勢の立て直しにやっきとなる

この実験について装置提供のKさんより
是非ともこの実験記事をCFFC機関誌に投稿するよう勧めていただいた
さらに事は広がりCFFC機関誌の記事が
現在も日本を代表するRC月刊誌「ラジコン技術」の当時の編集長の目にとまり
編集長自ら取材に訪問したいとのお申し出までいただくこととなった

かくして………………
クルツ博士作製のコブ型乱流装置でチューンナップされた我が最初のRC愛機 Xー1は4ページにも割かれ「ラジコン技術」誌の記事となったのだ!!!

主翼コード(縦幅)5%前縁に貼られた
このポツポツが「コブ型乱流装置」

<2018年3月のフライト画像>
2チャンネル・ラダーオンリー機とは思えない Xー1 の安定感溢れるフライト
グライダー王国ドイツ伝統の航空工学・流体力学の賜物だ!!


注)Vテール尾翼だがラダーのみの機能

この時の経験により
私は航空機がますます好きになり
それ以上に………………
この地球上を覆い尽くす「大気」というものの神秘…………大自然の神秘と力に惹かれるようになった
「レイノルズ数」という合言葉を使うようになったのもこの頃だ

私はクルツ博士に心からの感謝を示す為
自記事の掲載された「ラジコン技術」誌をドイツへ贈った
特に重要な部分は覚えたてのドイツ語で注釈を添えて…………
「ラジコン技術」誌だけでなく
地元・魚沼の大自然やスキー場などの資料パンフレットなども同封した

しばらくしてメールがドイツより届いた
博士は大層喜んでくださっていた
こうも書いてあった
「日本がこんなに雪の積もる国とは知らなかった!!」と
冬の魚沼の写真を見て驚かれた様子(笑)

<クルツ博士の感じた日本へのイメージ・ギャップ>これは確かに極端過ぎた笑
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それまで博士の日本のイメージとは東京などの高層ビル街とハイテクノロジーだったとのことで
私自身もまだまだ知らないドイツがあるはずだと感じ
航空関係だけでなく文化や環境など互いの国の特色を紹介し合い
より親睦を深めることを約束し合ったこの時こそが
ゲルナー・クルツ夫妻と我が家との交流の始まりだったと思う

<ドイツ・ライン川ほとりの古城>クルツ博士より HARIMA へ

↑ほぼ同じ年代の建造物↓

<日本・雪の雲洞庵山門>HARIMAよりクルツ博士へ


以来…………

東日本大震災のニュースが世界を駆け巡った際も
9年前に私がSLEを患い始め長期入院した際も
近くに居る親戚などより早く
海の向こうから真っ先に心配してくれ勇気付けてくれたクルツ夫妻
今回の急性網膜壊死の件もふせておいたのだが
それでも長くメールをしていなかった理由として打ち明けると
やはりお二人とも心配された様子なので
「今はRC飛行機を操縦できるくらいに回復している」と返信

…………奥様からのメッセージが心に沁みた

wünschen wir Ihnen auch viel innere Kraft, 
Mut und Zuversicht!!!! 
(あなたが内なる強さ、勇気、そして自信をたくさん持てることを願っています!!!!)

<以下の画像>
先週届いたばかりのメールに添付されていたゲルリンゲンの風景
付属メッセージ;こちらでも魚沼市ほどではありませんが雪が降りました


いやいや…………
とてもよく似た風景です
まるで我々が同じ場所に居るようですよ