材料は、ホームセンターで手に入るバルサとヒノキという二種類の木材と。
オモリに使う魚釣り用の鉛板だけ。

道具はカッターと紙ヤスリ。
あとは昔ながらの工作用接着剤セメダインCさえあれば出来てしまう…………
極めて単純な模型飛行機。

ハンドランチ(手投げ)グライダー。 
※フリーフライト



紙飛行機やペーパーグライダーを木材に置き換えたような、このハンドランチ・グライダーは。
軽く丈夫で、しかも安い費用で。 
動力など一切いらず、羽根と胴体だけのシンプルな構造で。
しかし本当に良く飛びます。


ただし。
ただ飛行機の形を作れば飛ぶというものではありません。
正しい理論と技術が、良く飛ぶ機体を作る為に最も必要な「材料」と言えます。
翼の形と面積、胴体の長さ。
重心の位置など…………そう。
本物の飛行機を設計するのにも通じる、航空工学です。
いきなり、そうした知識を得るのは難しいので。
まずは、良く飛ぶと言われているハンドランチ・グライダーの図面をネットや模型飛行機関係の本から手に入れるのが、手っ取り早いです。
それを元に。
たくさん機体を作っては飛ばし、作っては飛ばしを繰り返して行くうちに、自然と作る技術と飛ばす技術。
ひいては設計する技術まで身に付いて行きます。

一枚のバルサ板から。
翼の平面型を切り出し、飛行機が浮く為に重要な翼型(翼を横から見た流線形)を。
紙ヤスリで、根気よく削り出します。


特にハンドランチ・グライダーは、主翼の翼型が命とも言えます。
どんな翼型を採用するか、作り出せるかで。
機体の性能が決まってしまうと言っても過言ではありません。
何故なら、何の動力も持たず。
空中で操作も出来ないフリーフライトのグライダーにとって、揚力(浮き上がる力)を生む主翼こそが。
空に舞い上がる為の唯一の決め手となるのですから。


そうした造形の必要な主翼、尾翼はバルサ。
強度の必要な胴体はヒノキを切り出して作製します。


主翼に段が付いているのは、上半角と言って。
飛行中に機体が引っくり返るのを防いだり、横風を受けた時でも常に飛行姿勢を水平に戻す為にあるものです。
ラジコンのように操縦することが出来ず、一旦手を離れると機体が自分で飛行安定性を保たなくてはならないフリーフライト模型飛行機では
特に上半角は必要となります。



水平尾翼が少し、傾いていますね⬇
これは飛行中、機体を自動的に旋回させる為に行うセッティングです。
フリーフライト機を、長時間空中に飛ばし続けるには。
ただ真っ直ぐに飛んで行くのではなく、常に旋回を続けさせる必要があります。
サーマルを捕らえ、サーマルに乗り続ける為に行う旋回です。
また、右手で投げ上げた時に右方向へ突っ込むのを防ぎ、投げた力を上昇する力へと変えてくれる働きもします。
この、水平尾翼の傾きを「スタブフェルト」と言います。

また、人の乗る飛行機であろうと模型飛行機であろうと。
動力があろうと無かろうと。
「重心位置」というのは重要です。
重心とは、飛行機をヤジロベエと考えた場合の、前後に釣り合う支点のことです。
機体の前後の重さのバランスです。
これがちゃんとした場所でないと、機体は前に突っ込んだり。
真上を向いて、そのまま落ちたり。
揉んどりうったりして、決してまともに飛んでくれません。
機体全体の重さのバランスや搭載するものの重さや位置で調整します。
何も積まない、フリーフライトのハンドランチ・グライダーでは、オモリを積むことによって重心位置を調整します。
それぞれの機体によって、重心の位置は微妙に違います。
たいていは図面に載っていますが、自分で設計したり改造した場合は、やはり自分で最適な場所を探すことになります。
このハンドランチ・グライダーでは、この位置でした。⬇

…………今回、私が組んだこのハンドランチ・グライダーは主翼の長さが300mmに満たない小さな機体となりましたが、これは来月出場予定の、地元で開催されるハンドランチ・グライダーの競技会の規定の一つであるクラスBという
カテゴリーに合わせたものです。

今週の晴れた日のお昼休み。
とあるグラウンドにて。
このハンドランチ・グライダーのテストフライトを行いました。


投げる方法は野球のオーバースローと同じように投げるか、アンダースロー気味に投げる方法があります。
※現在のハンドランチ・グライダーは、サイドアーム投げといって主翼の端を掴んで振り回すという投げ方がラジコンでもフリーフライトでも主流となっていますが、私はあくまで従来の野球投げ=ジャベリン投げ=に拘っています

私は他のフリーフライト・ハンドランチ・グライダーではオーバースローで投げますが(ラジコン・ハンドランチのG21でも)、この機体はややアンダースロー気味に投げる方が良いことがわかりました。


機体の出来は予想以上に良く。
投げ上げた直後に高高度を獲得、投げる度にサーマルを捕らえました。
小型の割りに安定性も良く。
私が削り出した主翼型は、間違っていなかった様子です。
ただ、以前書いた記事でお話しした自動降下装置デサマライザーを、まだ取り付けておらず。
その状態で大きなサーマルに三回も乗り、長時間ソアリングを続け。
私をヒヤヒヤさせました(汗)。



…………しかしながら。
非常に運良く、都合の良い下降気流に救われ?続けたおかげで。
機体は無事に帰還!
最高のテストフライト(ソアリング)となりました。

我が国内には、幾つかのフリーフライト模型飛行機クラブが存在します。
中でも最も大規模なRという某クラブでは、昔からハンドランチ・グライダーが盛んで。
メンバーの方の誰もが「ハンドランチ・グライダーは全ての模型飛行機の基本」と公言して憚りません。
いや、全ての固定翼航空機(ヘリコプターやドローンなどの回転翼機以外)の基本となった歴史的事実=航空機の父・ジョージ・ケーレー卿の1804年の手投げグライダー=もあります。

何億円もかけた実機の航空機でも、正しい設計や製造をしないと満足に飛ばないのに対し。
材料費わずか数百円で作れ、種も仕掛けも無い小さな木製のグライダーでも長時間のフライトを可能にできることに。
航空の面白さと奥深さがあります。

私がかつて購入した某メーカーのフリーフライト・ハンドランチ・グライダーのキットの箱に、こう書いてありました。
「決しておもちゃではありません。正しい技術と理論で良く飛ぶようになります。Uコンもラジコンも、全てここから始まるのです」

ラジコン機も、スティックを右に倒せば右に、左に倒せば左に旋回する、と覚えるよりは。
そうすることにより、機体が姿勢を変えて空気をどう受け止めているかを知る必要があるのではないかと私は考えています。
要は、模型であろうと実機であろうと。
ラジコンであろうとフリーフライトであろうと。
原理は同じ…………翼を持つことの意味を知ることから始まることを。
テレビゲームやスマホゲームとは違うということを。
空気こそが、主役であることを。

僭越ながら。
普段は大きな機体を飛ばしておられる、ラジコン・フライヤー諸兄皆さんも。
時には機体製作で余ったバルサ板で、こうしたハンドランチ・グライダーなどを作って飛ばしてみてはいかがでしょうか。
航空機を飛ばす、本当の意味での「基本」というものを思い出して頂けることでしょう。