多くの日本人は、がんが見つかった時点で

「悪いところは取って捨ててしまえ」という

考え方に基づき、手術を希望されます。また、

がんを診た医者も手術の可能性を第一に診療

体系を構築していきます。

一方、欧米ではがんは薬剤で治すものという

考え方が支配的と言われています。

だいぶ前のことになりますがこのような日本

と欧米のがん治療方針の差についてコメント

がありました。

欧米のがん治療において最初の成功体験は

乳癌の薬物療法であったのに対し、日本での

最初の成功体験は胃癌の手術であったという

ものです。

それにしても、我が国では転移病変に対して

も「切ってほしい」と手術を希望される方に

しばしば遭遇することに違和感を感じます。

手術するということはがんだけをくり抜く

わけではなく、周りの正常組織でくるんで

一緒に取り出すことが必要とされています。

本来必要な機能を担っていた臓器が失われる

こと、その替わりを果たすなんらかの方法を

講じる必要があることにまずは思いをめぐら

せることが重要です。さらに、手術された体

は傷を治すために様々な因子を大量に放出し

ますが、その因子とは実はがん細胞を増やし

体中にまき散らす働きのある因子と等しいと

いうことも既に分かっていることです。

そのため、がんの手術を受けた時点でもし体

内にすでに小さな転移があった場合には手術

しなかった時と比べて転移が拡がる速度が大

きくなるというリスクもあります。

 

最近、急な通過障害で発症した食道がんの

患者さんに出会いました。

内視鏡検査にて下部胸部食道に突出する腫瘍

認め、生検にて扁平上皮がん。手術を勧められ

てその適否につき相談にこられました。

通常の手術では食道を全部取り、胃を使って

食道の代替をさせるのですが(それでも頸の

接続部分で引っかかることが結構あります)、

今回の場合には胃の入り口にもがんが及んで

いるため、腸を使った再建となります。病気に

なる前と同じような食事を続けることはかなり

難しくなります。また、手術したとして完全に

再発しないで治るかというと確実ではないこと

から患者さんは手術をしない治療を希望されま

した。

そこで、病理組織の免疫染色を追加したところ

P53陽性。PET-CTにて原発巣と所属リンパ節

に陽性、肺に多発のGGNを認めました。

全病変に44Gy/20F/4WのIMRTおよび原発巣

にrAdP53局注を併用しました。

3か月後のPET-CTでCR、

内視鏡にては炎症残存のみで病理組織は陰性。

通過障害は消失し放射線食道炎も認めず、食欲

旺盛となりました。

 

図1 治療前内視鏡画像

食道内腔から隆起する病変を認めます

 

図2 治療3か月後内視鏡画像

一部炎症性瘢痕認めるのみとなりました

 

図3 治療前PET-CT

下部胸部食道に腫瘤を伴う強い取り込み

中部胸部傍食道リンパ節にも取り込み

 

図4 治療3か月後PET-CT

下部胸部の腫瘤は消失し取り込みもなく

傍食道リンパ節も消失しています