プロフィールや本記事の下のADコーナーに

は、多くのがん免疫療法施設の広告が出てい

ることと思います。今回はこの免疫療法につ

いて現在想定されていることを書こうと思い

ます。

 

手術、抗がん剤、放射線治療に次ぐ第四の治

療法としてがん免疫療法が注目されています。

具体的には樹状細胞、Tリンパ球細胞(αβ

T、γδT、活性化リンパ球、細胞障害性リン

パ球など)、NK細胞と様々な免疫細胞を用い

たがん治療法が提唱されています。

 

がんの全身治療といえば一般に認められてい

るのが化学療法(抗がん剤や分子標的薬)で

す。これらの効果については概略30%といわ

れていますが、実際には全症例の中で標準的

な投与方法を継続できる割合が30%ですので

トータルでみると0.3×0.3≒0.1(10%)の方

に有用となります。

 

一方でがん免疫療法についても全体的には数

%程度の有効性といわれています。なぜがん

免疫療法の効果は高くないのでしょうか?

多くの免疫療法では細胞を点滴で全身に投与

しますが、1回の点滴で体内に入る細胞数は

多くても数億個です。もし、治療を受けよう

と思っている方は施設に問い合わせてみると

正確な数値がわかると思います。仮に6億個

とすると、全身の細胞数は60兆個なので、

10万個のがん細胞に1個の免疫細胞が遭遇す

るという計算となります。免疫細胞がいくら

強力であったとしても寿命がありますから、

これでは全く歯が立たないことがよくわかり

ます。

 

またよく考えてみると、もしがんに対する免

疫機能が働いていたとしたらそもそもがんに

はなっていないはずですが、現実には体内の

免疫監視機能を掻い潜ってがんは発生し増殖

転移をしてきています。どうしてがんが免疫

監視機能を掻い潜ることができるのかについ

て、色々なことがわかってきました。ひとつ

には、がん細胞が攻撃型リンパ球の攻撃性を

発揮させないような因子を出していること、

もうひとつにはがん細胞はある程度のサイズ

になると自分の周囲に抑制型リンパ球という

バリアになる細胞をまとっていることがあげ

られます。

 

最近ではこれらの事象を取り除くような薬剤

であるチェックポイント阻害剤が開発されて

きました。前者に対しては抗PD1抗体、後者

に対しては抗CTLA4抗体があげられます。し

かし抗PD1抗体は有効性が10-20%程度と低

く、抗CTLA4抗体には間質性肺炎や肝炎など

の自己免疫疾患という副作用が問題となって

います。

 

がんの免疫療法を行う際に重要となることは

体内に存在する多数のがん細胞の機能を確実

に制御するとともに、周囲にある抑制型リン

パ球を効率良くはぎ取ることです。

そのために最も有効な方法が、全がん病巣へ

の高品位な強度変調放射線治療を免疫治療に

先立って実施することです。これにより、が

ん細胞の制御にあわせ、周囲の抑制型リンパ

球の一掃が確実に実現できます。これまで樹

状細胞を使った免疫治療では、がん細胞の表

面に発現しているであろうと推定されるペプ

チド(タンパクの断片)をナイーブな樹状細

胞に認識させた「ワクチン」を、がんとは無

関係な表在リンパ節周囲に皮下投与する方法

がとられていましたが、使用するペプチドが

それぞれの患者さんのがん細胞表面抗原とは

必ずしも一致しないことから、有効性は極め

て限定的でした。

 

一方で加温やエタノールなどの化学物質では

なく、放射線により制御されたがん細胞の表

面抗原は、タンパク変性を伴わないため体内

の免疫細胞(特に単球系のマクロファージや

樹状細胞)により認識され、特異的ながん免

疫の再構築の可能性がより高いと考えられて

います。

そのような特異的ながん免疫をより効率よく

再構築させるには、放射線治療を行ったがん

組織にナイーブな樹状細胞を局所投与する方

法があります。こうした患者さん体内で特異

的ながん免疫を再構築する場合に重要なこと

として、癌周辺の正常リンパ節を破壊しない

ことがあげられます。従来の放射線治療では

がん病巣の所属リンパ節は、予防的に同時治

療することが推奨されていました(推奨され

ないまでも技術的に正常リンパ節を保護でき

ませんでした)が、特異的がん免疫の成立の

ためには正常なリンパ節を極力温存すること

が重要と考えられます。

 

当院でのトモセラピーによる複数病変照射で

は周辺正常リンパ節を確実に温存することが

可能となっています。

 

もし免疫治療を考えている方がおられました

らまずはその治療に先立ち、がん病変を確実

に制御したうえで再発しないために免疫治療

を行われることをお勧めします。