進行期の段階でみつかった乳癌では乳腺に
がんがあることは自明の事実であっても全身
のどこかに転移している可能性が高いので、
しこりだけを取り去る手術をしても残った
転移部位からどんどん再発してくることが
わかっています。

まるで”木をみて森を見ず“のような対処法と
いえます。

もっと悪いことに、複数病変があり原発の
乳腺とリンパ節だけを手術した場合、骨や肺
などの残存転移病変は勢いづいてきます。

外科医はこの事をわかっていても話しません
が手術した傷を治そうとする正常組織からの
修復信号が癌の増殖因子と同じために起きる
現象です。数か月であたかも癌が“やられたら
やり返す10倍返しだ!”といわんばかりの結果
に終わることがよくあります。

そのため進行期乳癌では全身に効く可能性の
ある抗がん剤と感受性がある場合のホルモン
治療が標準治療となっています。その反応性
には様々な報告がありますが一般論として
固形癌の化学療法の有効率は30%、治療期間
と同じだけの生命延長という相場です。ただ
しこれらは欧米人を対象としたデータであり
人種間の差なのか、潜在体力の差なのか不明
ですが我が国を含む東洋系の人では標準量の
抗がん剤投与が継続できる確率が30%程度と
いわれています。
つまり、抗がん剤で利益を得られる可能性は
30%×30%=10%ということになります。


そのため、有用性がほぼ同等と考えられる
全身免疫療法が代替療法として注目されて
いるという現状にあります。
ただし全身免疫療法だけで確実な局所制御が
得られる可能性はほぼ期待できず、評価すべ
き効果もあいまいです。なぜなら培養し全身
投与される免疫細胞は多くて数億個ですが、
人間の体は60兆個もの細胞から成り立って
いるため、10万個レベルの癌細胞に対し漸く
1個の免疫細胞が到達するという勘定になる
からです。免疫細胞には寿命があり癌細胞を
殺す能力には自ずと限界があります。

一方で、乳癌や前立腺癌でホルモン感受性の
高いことが証明されている場合に使用される
ホルモン療法の有用性は抗がん剤とは異なり
癌細胞に感受性がある限り無再発状態を継続
できる可能性があります。
その場合でもやがて癌細胞のホルモン感受性
が変異していき数年のスパンで再燃してくる
ことがしばしばみられます。これは上皮増殖
因子変異を伴う非小細胞肺癌に対する低分子
標的治療にみられる事象とよく似ています。

当院では進行性の固形癌(主にステージ4)
で標準治療が無効もしくは継続不能となった
患者さんに対し、全病変制御を目的とした
IGIMRT(画像誘導下強度変調照射)を主体と
した局所治療を実施しています。手術と異な
り、放射線治療の場合正常組織ダメージが少
なく傷を治す修復信号の量の発生もわずかで
あることがわかっています。また、従来の放
射線治療は複数病変があっても1個に限定し
て照射を行っていましたが、この方法では
画像検査で判明したすべての病変を同時期に
治療することでいわゆる“やり残し”がないこ
とが特徴です。

比較的若年の進行性乳癌患者さんの治療例を
3例提示します。


症例1  44歳女性
11年前(33歳時)右乳癌温存手術
ホルモン感受性(+)のため、ホルモン治療
+ファーストライン抗がん剤
8年前 多発骨転移出現
ビスフォスフォネート投与、セカンドライン
抗がん剤
1年前 疼痛悪化しモルヒネ開始
9か月前 疼痛悪化し下肢麻痺出現、
胸椎に定型的放射線治療(30Gy/10回)
2か月前 多発骨転移出現、疼痛および下肢
麻痺悪化
当院初診 MRI、CT上胸椎は骨皮質を残し
ほぼ全体に腫瘍に置き換わっており一部
脊柱管内に進展している。放置すると確実に
下肢完全麻痺となる状態。
放射線照射の既往があり通常の再照射では
半年後に放射線障害による下肢麻痺が出現
してくる。
当院での全病変IGIMRTでは脊髄損傷を
生じずに腫瘍制御できる確率は8割-9割程度
と説明する。
40-48.5Gy/2週10回のIGIMRTを多発骨転移に
実施。
1-CTP(骨代謝マーカー) 
治療前12.7→3か月後8.5と低下。
PET-CT再検にて完全消失。



図     胸椎レベル治療前PET-CT

 

図 胸椎レベル 治療3か月後PET-CT   

多発骨転移および脊柱管内進展はすべて消失
心および左腎は正常な取り込み


図 骨盤レベル 治療前PET-CT
右腕の取り込みは注射剤のもれ


図 骨盤レベル 治療3か月後PET-CT

多発骨転移はすべて消失
両側腎および膀胱は正常な取り込み


症例2  39歳女性
4年前 右乳癌指摘され
部分切除+術後放射線治療。
1年半前 リンパ節転移出現し切除 その後
全身免疫治療行うも腫瘍マーカー上昇
PET-CTにて多発骨転移出現 左肺に結節指摘
当院初診 多発骨転移は全病変IGIMRT適応。
左肺病変は間質性肺病変の可能性高く、薬物
治療を勧めると説明

44Gy/1.5週7回のIGIMRTを多発骨転移および
右腋窩リンパ節に実施予定し
32Gy/1週5回時点で骨髄抑制のため終了。
同時に間質性肺病変への薬物療法を2回実施。

3か月後
CTにて左肺結節および右腋窩リンパ節消失、
PET-CTにて完全消失。
CA15-3(腫瘍マーカー) 
治療前 120.5→3か月後 7.4(正常化)
KL-6(間質性肺疾患マーカー) 
治療前 2550→3か月後256(正常化)


図   治療前PET-CT       


図 治療3か月後PET-CT

多発骨病変、右腋窩リンパ節および左肺結節
のすべてが消失
脳、心、両側腎、膀胱には正常な取り込み


症例3  48歳女性

3年前 左乳癌S1指摘され、代替療法のみ
半年前 両側乳癌リンパ節転移と診断 
代替療法施行するも2か月前から背部痛出現
PET-CTにて
両側乳癌 左腋窩リンパ節 超多発骨転移、
微小多発肺-葉間リンパ節転移
当院初診。

超多発転移のため全病変IGIMRTを実施すると
しても投与量を軽減する必要がある。
照射の効果を増すため、癌幹細胞抑制効果の
ある経口薬を併用すると説明

40Gy/2週10回のIGIMRTを全病変に実施予定し
20Gy/1週5回時点で骨髄抑制のため終了。
マーカー等異常値認めず。治療終了時点で
疼痛緩和し、乳癌本体も縮小。
以後、ホルモン治療を継続。

図 治療前PET-CT 


図 治療1か月後MRI DWIBS

骨盤部から大腿骨にかけて一部残存を認める
ものの治療前に認められた多発骨転移、両側
乳腺左腋窩の取り込みの大部分は消失する
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