くもの子が、木の枝にぶら下がったお母さんの背中にしがみついています。
くもの子は言いました。
「お母さん、どうしてお母さんの糸は丈夫なの?どうして切れないの?僕のはすぐに切れちゃうんだ。」
「大丈夫、坊やも大きくなったら強くて切れない糸をつくれるようになるから。」
「そうかなー。」
くもの子が心配するのも無理はありません。友達はみんなもう切れない糸にぶらさがって遊んでいるのです。風に大きく揺られてみんな楽しそうです。
しばらく経って、ある日のこと、大雨でできた水たまりのそばで友達がみんなで騒いでいます。
なかでも一番体格の大きな友達が言いました。
「おれは絶対に行けると思うな。」
他の友達は絶対に無理だと言っています。
大きな水たまりのむこう迄、水の中を歩いて行けるがどうか議論していたのでした。
体格の大きな友達は言いました。
「よし、じゃあもし行けたらみんなおれの家来になるんだぞ!」
みんな承知しました。
体格の大きな友達は深呼吸をして息を止めると、どんどん水たまりに入って行きました。
やがて全身水の中に入ると身体が思うように進みません。一生懸命水の底の地面を蹴るのですがどうしても陸上のようにはゆきませんでした。
どうにか水たまりの中程まで来た頃にはもうへとへとになってしまいました。
たまらず水面に浮かび上がろうとしてあがきました。どうにか水面に顔を出したものの、いまにも溺れてしまいそうです。
それを見ていた友達もみんなが岸辺であわてています。
くもの子は言いました。
「誰か木の上に登って糸を垂らしてやるんだ!」
何匹かの友達は急いで木に登りました。そして大急ぎで水面に糸を垂らしました。
やっと助け上げられると、溺れかかっていた友達はせきにむせながら言いました。
「みんなありがとう。本当にありがとう。」
くもの子もほっとしてみんなで喜び合いました。
その日の夜の事です。くもの子は思いました。
「ああ、僕はいつになったら強い糸を作る事ができるようになるんだろう。」
翌朝、くもの子はお父さんに言いました。
「お父さん、僕はいつまでたっても強い糸を作る事ができません。どうしたらいいのでしょう。」
お父さんは黙って、やがて静かに言いました。
「くもには天分というものがある。お前に強い糸が作れないからといって恥じる事は無い。むしろ、その分だけお前にしかできないなにかがあるはずだ。」
くもの子は旅に出ることにしました。
旅立ちの朝、お父さんとお母さんに見送られて歩いていると、抜けるような青空を背景に、木の枝から垂れたくもの糸がふわりと風に光っていました。おだやかな春の風景はくもの子の不安な気持ちをそっとやわらげてくれるのでした。


