離島の宿は簡素だった。急峻な山と水平線まで続く海の間の小高い平地にその宿はあった。すぐそばをアスファルト道路が走っていたが車の通行は稀で静かだった。学生達のサークルだろうか、5、6人のグループが宿泊していた。そのせいで食堂は幾分賑やかだった。
夕食を終え、二階の部屋でくつろいでいると外がなにやら騒がしい。窓を開けて見下ろすと、君が、そこにいた。
『◯◯大学、◯回生、◯◯ ◯子、これから、バツゲームを始めまーーーす!!』
大きな声だった。
宿の外灯は一つだったが、よく晴れた月夜のせいでアスファルト道路に立つ君の姿ははっきりと見てとれた。
♪ぎんーぎんーぎらぎらー 夕日が沈むー
ぎんーぎんーぎらぎらー 日がー沈むー
まっかっかっかー 空の雲ー
みんなのーお顔もー まっかっかー
ぎんーぎんーぎらぎらー 日がー沈むー♬
大きく開いた手の平をヒラッヒラッと反転させながら、大きく踏ん張った足で体重移動を右に、左に。それに合わせて腕もまた右に大きく左に大きくと弧を描きながら君は歌っていた。少し、恥ずかしそうだった。
一番を歌いあげると、
『あのーー、2番もですかーー??』
どうやら下の階の仲間はそれを部屋の中から見ているようだった。
『2番もやれーーー!!』
♪ぎんーぎんーぎらぎらー 夕日が沈むー
ぎんーぎんーぎらぎらー 日がー沈むー
からすよー・・ あれ?・・・
『あのーー、忘れましたーー!!』
下の階から歌詞の続きを教えようとしていたが要領を得ない様子で、じきに
『もういい、帰ってこーい!!』
その声を聞いて、ほっとしたように
『以上、バツゲーム終わりまーーーす!!』
大きな声でそう言うと君はこちらに、いや、下に戻って来たんだっけ。
離島の夜の道路はひっそりと静まり返って、さっきまで君がそこに居たのに・・・。
月明かりに照らされたアスファルト道路の向こうには背の低い針葉樹の群生が山裾へと続いている。そのむこうの山の黒い陰は視界を遮るかのようにそびえていた。見上げると山の稜線のむこうには無数の星が光っていた。


