今日の昼休みにIさんがもうすぐ亡夫の納骨だというので、お墓の話を聞きました。


しかしよく聞けば、その夫とは10年も前に離婚が成立していて、名字も変えたって言うじゃないですか。なんで別れたダンナの墓の面倒まで見てるのよ?


話は16年前、バリバリの有能な社員だった夫のH氏は中国に新会社を設立するため、社命で中国に行っておったそうです。

スーパーのパートをしていた妻はそのころ日本で、夫が連帯保証人になっていた借金の返済を迫られておりました。


「明日15万払えって」


九州に単身赴任していた時の小料理屋の女将に頼まれて連帯保証人になっていたのだとか。150万円、一度も返済することなく女将はすっトボケて払っていないため、連帯保証人たるH氏の自宅の取り立てがいったしだいです。


そんな金払えるかと中国の夫に国際電話をかけるものの、英語も通じず中国語と格闘して、なんとか夫の話を聞くことができたという。


「同級生の○○くんが無利子で貸してくれることになってるから、それで払ったらいいよ」


お前はなにを言っているんだ?どこの世の中に150万無利子で貸してくれる人間がいるのよ!と憤慨していると、翌日中国で脳梗塞で倒れたという知らせが入ったそうであります。


当時は中国に行くにもビザが必要で、会いに行くにも2週間かかるのでした。会社の人間がそれより早く現地について、病院を見舞ったところ、中国の最善の医療を尽くしてくれ、気功も施し、めきめきと回復し帰国ができるようになったのでございます。


帰国して3か月ほどリハビリして仕事に復帰したものの、浪費癖は治らず、借金を重ねる日々。そんな夫に愛想を尽かして離婚したのが10年前。


もう少し待ってたら年金分割になって、夫の年金も半分くらいもらえた筈なのに、お金はいらないから早く別れたかったとおっしゃいます。


そして今年5月、別れた夫が自分で電話して呼んだ救急車で入院したと知らせを受けました。娘にとっては変わらず父なわけで、入院治療に際し二人以上の親族の同意が必要だと言われて、二人で入院先へ向かうのでありました。

病院は、危篤だというのに号泣しない家族は初めてだと感想を述べたそうです。


享年71歳。


脳梗塞の後しばらくは禁煙もしていたのに、喉元過ぎればなんとやらで喫煙飲酒、ギャンブル大好きで年金も月20万以上あり、仕事もしていたのに、残っていたのは借金だけ。


娘はきちんと始末をしたいと言って、借金をすべて返済して、お墓も探したのだそうです。実家のお墓があるのではないかと聞いたら、親戚からはもう縁を切ったので、勘弁してくれと言われたそうです。


ロッカー形式のお墓の一番安いのをさがしてさがして、それでも50万円よ!

それで今度四十九日で納骨するのよ。

このロッカーには2人分のお骨が入れられるんですって。

それがね、今申し込んでおいたら奥さんもいっしょに入れます、あとからだと50万円かかりますって言うのよ。

娘がね、お金ないんだから今すぐ申し込んで!って言うの。

いやだったけど、急ぐし、もういいわってんで、申し込んできたわよ~。

それでね、ダンナが真言宗で私は禅宗なの。

うしろの壁には1枚しか飾れないって言うんで仕方ないから、譲ったわよ~。真言宗に~。

ほんとにいやなのよ~。

それなのに娘ったら、


「おかあさん、お父さんとはやっぱり赤い糸で結ばれてたのね」


って。



おしまい。