ジュリー文学特集.3

追憶ⅰn紅白

ジュリーの1974年のヒット曲「追憶」にはニーナという女性が出てきます。「追憶」といえばロバート・レッドフォードとバーブラ・ストライサンドの映画を思いだす年代にとっては、こちらのヒロインだろうかと思いましたが、関係ないようです。

これはアントン・チェーホフの戯曲「かもめ」のヒロインから拝借したらしいです。作詞は安井かずみさんですからねー、ジュリーにロシア文学テイストの詩を書いてくれたんではないかと。


歌詞に「花びらを散らし、愛の明日を占うお前を」ってありますよね。

これは第1幕より
トレープレフ(主人公♂)(花びらをむしりながら)「好きーきらいー、好きーきらいー、好きーきらい。(笑う)ほらね、おふくろは僕がきらいなんだ。当然だよ!あの人は生きたい、恋をしたい、派手なかっこうもしたい。ところが息子の僕はもう二十五で、たえず自分がもう若くないのを思い出させるんだから。僕がいなけりゃ、三十二でいられるのに、僕がいるとたちまち四十二だ。だから憎いんだ。(以下略)」
マザコンですか。
おかあさんは有名な女優のアルカジーナで、息子のトレープレフは作家。その恋人がニーナというわけです。同居していてニーナに敬愛される作家・トリゴーリンもいます。

第2幕。撃ち落とした「かもめ」をニーナに捧げるトレープレフ。そんなもの置いていかれても困ります。芝居の失敗で失意のままその場を去る。

トリゴーリン「ほんの短編のテーマですがねーーー湖のほとりに若い娘が子供のときから住んでいる、ちょうどあなたのようなね。かもめのように湖を愛していて、かもめのように幸福で自由だった。ところが、たまたまやってきた男がその娘を見て、退屈紛れに破滅させてしまう。このかもめのようにね」


第4幕、2年後トレープレフはニーナと再会。その間ニーナはトリゴーリンと結婚するが捨てられ、生まれた子供も死なせてしまう。ニーナは私はかもめだという。


1994年トリゴーリン役をジュリーが演じる「かもめ」が上演されました。共演は順みつき、富士真奈美、神野三鈴、広田玲央名という顔ぶれ。
まさか20年後にあの歌の元ネタを演じるようになるとは思ってもみなかったことですね。


かもめ」(現代演劇翻訳テキスト集)