「粘膜、荒れてるもんなあ、絶対。珍しいんだけども…」

Tセンセ、まだ得心なさっていないけど、唸りながら私の口腔内をチェックし、カメラ撮影。

「唇も荒れてますねえ…」「ゴハンのたびに切れて、出血しちゃうんです」「はあー…そっかあー…」「cbeyさんなあー…そういう免疫反応かあー…」

今日のTセンセはいつもより優しい。ていうかテンションが低い。頭の中でずーっと何か考えながら、診察している感じ。いつもの高速診断とは、ちょっと違う…。あ、今日は初診があるから服装も違う。白衣もジャストサイズのやつだし、中もお洋服だ…足元もクロックスじゃないわ…(笑)。

 

「あのねcbeyさん、投薬しますけど、その前に粘膜をね。今後のこともあるので、”組織”をちょっと…」言われた瞬間、ウヒャと変な声が出てしまい、傷んでいた下唇がまた割れて出血してしまった(笑)。せ、せいけんやるんかー!

「まあ、ほんの数ミリ(笑)」「あれですか、まさかメラノーマがここに来ちゃった可能性ってことですか」「(笑)それは関係ない関係ない! 免疫反応がどうなってるか調べておくと、薬の対策を立てやすいんで」あ、なんかだんだんいつものTセンセになってきた(笑)。

 

今日のベテラン看護師、大御所にタメ口(笑)。ニコニコしながら「どっから採るの」「あー頬粘膜」「良かった、舌じゃないんですね(笑)」「(笑)さすがに舌はやめときます」「やめてください(笑)」「バチンとパンチ、どっちでやろうかなあ」ちょ、すんごいイヤな響きの呼称なんですけど(笑)。

あちこち動きながら同時並行に別の仕事をこなしつつ、いつの間にか生検の準備が完璧に。「あ、こんなに用意してくれたんだー」T医師も嬉しそう。外来はベテラン看護師の本領発揮の場だね。

 

長ーくて細ーい注射器で、キシロカイン(麻酔)を荒れてる頬粘膜にちゅー………ヒー。思ったより時間が長いぞ(笑)。でもそのおかげでパンチの感触はゼロだった。さすがのT医師も、頬粘膜の生検は久しぶりだったらしく、とても慎重。採った組織が入った瓶を眺めて、「よし、完全に採れてる」と満足そう。私の粘膜は、白とピンクのツートンカラー。小瓶の中でゆらゆらと揺れていた。

 

「CTね、何も病変が見つからなかったですよ!」やっとその話に。「で、ちょっとオプジーボ、お休みです」T医師いわく「許容し難い副作用」をちゃんと治してしまいましょうとのこと。そういう意味で、「転移が無くて良かったですよー!」と。T医師としては、しばらく当分やめてもいい、という意見だけど、この点については今度の金曜日にもうちょっとちゃんと聞いておきたい。また、自分の疑問を整理しておこう。

 

そして最後にステロイド剤処方。

プレドニゾロンを1日30mg、ひとまず金曜日まで5日間。30mgは中程度の処方量の上限だ。

「これって副作用はないんですか?」「(笑笑)いや、副作用ね! 短期なら大丈夫。長期的に使用すると…」血糖値だのむくみだの骨粗鬆症だの。副作用を治すための薬の副作用。現代医療あるあるな、合わせ鏡状態の無限。

 

全部終わって部屋の外に出たら、35分が経過していた。廊下で、初診患者さんらしきご家族が、さきほどのベテラン看護師とお話をしている。待たせてごめんなさいね、というフォローの言葉が聞こえた。ああ、私のせいね…すみません。でもそのうち、自分もまた別の誰かを待たせる局面があるから…。社会の物事って、こんな風に繋がっていくのだね。

「おつかれさまでした。お大事に」ベテラン看護師が、通り過ぎる私に向かってニッコリと微笑んだ。