オートバイをもう一度(K3を制覇せよ[6]) | cb650r-eのブログ

cb650r-eのブログ

ブログの説明を入力します。

K-3(上り編)。

 

天気は上場、だったのだが。
ただ、昨日の雨の名残が木陰の路面にまだ残っていて、一部が濡れている。
しかも、さっきから薄霧が湧いてきて、前がちょっと白んで見える。いかにも「無理すれば事故るぞ」って雰囲気だ。

CB650R e-clutch は、優れたマシンだ。特にコーナリング性能は抜群で、思い通りにしなやかに曲がる。
ただし——それは“上手い人”が乗った場合の話だ。
俺みたいなリターンライダーが、力任せに操ろうとすると、CBは「知らんがな!」とでも言いたげに挙動を乱す。

上りのヘアピンカーブ。立ち上がりでアクセルを開けた瞬間、リアがほんのわずかにスライドした。
ますます、アクセルワークが委縮する。

 


頂上の展望台で、森君が腕を組んで俺の方を見下ろしている。
相変わらず背筋がまっすぐで、あいつの乗る姿勢そのものだ。

ようやく辿り着いた俺に、森君が近づいてきて声をかけた。

「山ちゃん、俺、安心したよ」

「何が?」

「山ちゃん、普通のおじさんツーリングライダーになったんだね」

一瞬、返す言葉が見つからなかった。
“攻めた”つもりだった。俺の中では、あれでも今できる精いっぱいのライディングだった。
でも、森君の目には、ただののんびり峠を流す“おじさん”に映ったらしい。

「……」
俺は黙ったまま、メットを脱ぎ、顔に当たる風を感じた。ゴールデンウィーク明けにもかかわらず、ここに吹く風は冷たい。

森君はにこにこと笑って、言った。

「ほら。山ちゃん、見てごらんよ」

指差す先には…。

 

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。