いざ、再び香港へ。
約5か月ぶりの香港カイタック空港。今日も、九龍城上空を超低空で降下していく。まるで、ビルの谷間をかいくぐるような感覚だ。
「香港は何度目ですか?」俺は隣に座る有永副部長に尋ねた。
「初めてだねえ。ブルース・リーとジャッキー・チェンしか知らないね〜」と、彼女は肩をすくめて笑う。
「食事が旨いんですよ、香港は。」
「えー楽しみ、楽しみ。」有永副部長は子供のように目を輝かせた。
機体は無事にカイタック空港に着陸した。到着ロビーでは、香港支店の湯村支店長が待っていてくれた。
「お疲れさまです、支店長。」
「ようこそ、香港へ。」湯村支店長は軽く会釈しながら、笑顔で出迎えてくれた。
俺たちは、香港支店の古い社用車、日産セドリックに乗り込んだ。助手席に湯村支店長、後部座席には俺と有永副部長、そして小川部長が乗った。車内は少し古びたレザーの匂いが漂っている。
「そろそろ6時だな。夕飯でも食べながら打ち合わせといきましょうか。」と湯村支店長が提案する。
「賛成、賛成!」有永副部長が手を叩いて喜ぶ。
「山本、この間連れてった『日本倶楽部』でいいか?」と湯村支店長が俺に目配せする。
「もちろんですよ。」俺はすぐに答えた。あそこなら味も雰囲気も間違いない。
「ただ、断っておきますが、今日は支店の経費じゃなく、私のポケットマネーでご馳走します。コースでなくアラカルトで注文願います。」
「おいおい、割り勘で構わんぞ。」と小川部長が冗談めかして言う。
「いやだ、いやだ。私の分は小川部長にツケといてくださーい!」と有永副部長が声を張り上げる。これには、前方でハンドルを握る運転手も吹き出した。日本語が分からないはずの彼が、笑いをこらえきれなかったのだ。
「やれやれ、皆さん賑やかで助かりますよ。」湯村支店長が、苦笑いを浮かべながらもどこか楽しそうに言った。
香港レストラン『日本倶楽部』
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