アスファルトのタイガー
初めて会ったのは、初夏だ。
身元のはっきりしないお嬢さんだった。
しかし一度会えば、忘れはしない。
その容姿はなかなかお目にかかれない、必ず振り返りたくなる女だった。
それでも彼女を理解しがたいことに変わりはない。
なぜ、こうしているのか。


長い黒髪はしっとりと艶やかにひかり、くびれたウェストには無駄がない。
陽を浴びていない肌は吸い付くようになめらかだ。
細身の体は柔らかさと豊満な胸でスタイルを整えていた。
何があったのか。
妖艶なまなざしで私を誘い、無言で私を求めてくる。
苦しいのか、つらいのか、声には出さない。
ただ、感じているのは明らかだった。
すまし顔からは想像できないほどの悦びを抱え、私を高みへ導いていく。
その細くしなやかな腕は私を抱きしめながらかすかに震えている。
長い時間、彼女の肌が私を絡めとり、波のように行き来する。
私の望みを叶えながら、自分は遥か遠いところに居る風だ。
細く白い指、吸い付いた肌が私を捉えて離さない。
黒髪が艶やかに流れ、涼しげな目元からは感情が読み取れない。
やがて時が来て、ついにこらえきれない私を解き放つ。
いつもそうだった。
顔には感情を表さず、身体で私を愛しむ。
別れの言葉は丁寧に、しかし瞳は私に語りかけはしない。

”さよなら”
言葉に出来ずに、背を向ける。
次はいつ会えるだろうと思いながら、部屋を出た。
しかし、それが最後の日だった。

あれから半年。
雪が降る頃、彼女はもう消えていた。
表札にはもとより名前などない。
ただ、彼女の声が聴きたかっただけだ。
インターフォン越しにもう一度、彼女の名を呼んだ。
そう、もう一度。