瞳の奥へ沈めてくれ | SPIN-OFF
好きなら相手の幸せを願え、
なんて最初に言い出した奴をぶん殴りたい
それが選ばれなかった者にできる唯一の餞?
面白くもない冗談はやめろ

彼女の幸せを上手に願えない自分は器の小さな人間だと自分を責めたけれど、やっぱり納得がいかない
本当に好きだから、好きで好きで仕方がないから、自分の手で幸せにしたいと思うんだろう

自分では幸せにできなかったけれど、他の人のところでは幸せになってね?
たとえ自分には幸せにできなくても、だとしても他人との幸せを願うほど頭に花は咲いていない
そんなことが言えるのは、もう好きじゃないからだろう
そうか、自分にとっては、彼女の幸せは他人事ではなく、いまだに自分事なのか、傲慢だな

この手で幸せにできないのなら、
それで誰かと幸せになられるくらいなら、
自分が忘れるか死んでもらうかしか出口がない
それくらい悔しいというだけのこと
ああ、最低だ、ずっと最低で、気分が悪い

本当のところ、幸せを願っていないわけではないし、
不幸を願っているわけでは決してない
ただどうしても、幸せそうに笑う彼女を見たくはない

好きだ、誰よりではなく彼女だけが好きだ
今でもずっと、心を揺さぶるのは彼女だけだ
だから見たくない、自分のいない世界で生きる彼女を
会いたくない、他の人と幸せそうに笑う彼女に

とか言いながらふと我に返って、
幸せでいるといいなと思う自分もちゃんといる
でも幸せになんかなっていないで
忘れられずに泣いていてほしいような気もする
きっとどっちも本心なんだ

不意に見かける似た人に目を奪われる
彼女かもしれない、その予感がとてつもなく恐ろしく、
同時に愛しくもあり、釘付けになる
他人だとわかって安堵する自分一人が窓に映る

エゴだと言われようが構わない
幸せを考えるというのは、願ったものが幸でも不幸でも、どちらも願わないとしても、考える行為そのものが愛、のような気がする

誓いを交わさなくてもずっと愛していたいし
ずっと大切にしたい、ずっと幸せにしたいんだ