やっと読み終えた、感無量。
豊饒の海シリーズ第4館最終巻、天人五衰
20年くらい前読み最後だけ記憶し他全部忘れておりました。
全体を通して、は〜難しい〜、なのでそういうところがすっ飛ばして読んでおりました。例えばインドや日本の宗教など。
さてさて、松枝清顕、飯沼勲、月光姫と生まれ変わりが出てくるのだから当然最終巻も登場する、16歳の安永透。本多繁邦は最終巻では74歳になっていた。小説だって頭ではわかっているのに、朝ドラのようにずっと見守ってきた感覚があり実はほんとにいたんじゃないかとさえ思ってしまう。
伊豆で船の監視員として働いていた透に本多は出会い代理人を通して養子に迎えることになった。元々身寄りのない透であり特に本多が好きというわけでもなかったものの、せっかくのお話しなので受けることとなった。本多は息子の透を高校に通わせそして東大へ行かせる。もちろん社会のマナーや一般常識、特に上流社会のマナーを教えた。透は元々頭がよくすぐにそれらを身につけたが透から見れば世の中全ては敵だった。4年間我慢し20歳になったらこの養父に制裁を企てていた。自分は選ばれし者と勘違いをして、人格がどんどん変わっていった。
素直で優秀だった透は大学生ともなると豹変してしまう。本多はなぜこの子を養子にしたにかもわからない。生まれ変わりかもしれないだけで確証もないのに、もう養子縁組解消できないかとモヤモヤするばかりだった。
ある時本多は新聞沙汰になってしまい世間の笑い者となった。それを機に透は準禁治産者の手続きをして本多の持っていた全資産を相続しようと考えていた。当然私はイライラマックスとなる。
本多が虐待されても我慢していたのは、もし生まれ変わりであれば透は20歳で命を真っ当する運命にある、だから生まれ変わりかを見たかったというから本多も透もどっちもどっちの似た者同士だった。
その折本多と親しくしていた慶子がこの透を自分の邸に上流階級のパーティーがあるからと手紙を透に送り、透は裏があるに違いないと思いタキシード姿でやってきた。待っていたのは着飾った慶子だけで他はいない。当然騙されたと思った透は憤慨するわけだが、慶子の方が透より何倍も上手だった。慶子は透の養子となった理由を喋り、透は生まれ変わりではなく偽物であることを伝える。慶子は透が自尊心が高いと知っていたのであえてこのようなやり方で透を木っ端微塵にしてやった。イカロスの翼を思い出さずにはいられなかった。
透は自宅に戻り父親が大切に持っていた松枝清顕の夢日記を自室で読み、3日後服毒をはかった。理由は「自分は夢を見たことがない」それだけだった。メタノールを飲んで服毒したものの命は取り留めしかし副作用で失明となり、学校も退学し遺産も相続できず、人間をあきらめ廃人となっていく。
なんとも結末の悪いストーリーにもなっていくが、本多繁邦が80歳となりいよいよあの60年前に行って門前払いされた奈良の月修寺に出かける。月修寺には松枝清顕の元恋人の聡子がいる。聡子にあって松枝清顕のことを伝えるというものだった。聡子は宮家に嫁ぐ予定だったのが松枝の子を身籠り宮家の縁談を破談し仏の道を選んだ。
60年ぶりの再会で聡子は本多を覚えていない。そして松枝も知らないという。
「松枝清顕さんという名前は知りません、もともとあらしゃらなかったのと違いますか。なにやら本多さんがあるように思うてあらしゃって、実は始めからどこにもおらなんだということではありませんか?」
幻。
本多はこの月修寺に訪れ、ここには音もなく静寂で、過去もない、記憶もない、何もない場所にきたのだと悟った。
まるで狐に摘まれた話で終わり、長いこと時間かけて読んだ私も幻を見てたような気持ちにさせる。
自分の過去も過去だと思っていても時間が何十年と経つとあれらは自分が作った幻想や創造物なのかなあと思うことがある。20年ぶりに読み返すと昔わからないことがあゝそうかと思ったりもする。難しいようで実際にはわかってもないけれど、また違った風に読めるものらしい。
過去、未来、輪廻転生、そして無、この一瞬なんとも不思議な感覚。