断酒の誓いの中に「断酒の歓び」という言葉が出てきます。確かに喜びはあります。断酒すればこんなにいいことがあるのだよと、人に伝えたいと思うぐらいです。
断酒すれば、酒を飲んでいた時から見れば、健康になります。失っていた信用も回復できます。壊れていた家族との関係も修復することができます。仕事にも復帰できるのです。
確かにありがたいことであり「歓び」と言えることですが、それは酒に囚われていたがゆえに破綻していた状態が断酒することによって修復できるという事なのです。
依存症になる前には酒を美味しく飲んでいたわけで、その頃には当然ながら「酒を飲む歓び」がありました。しかし断酒するのは２度と酒を口にはできないという事ですからかつての「酒を飲む歓び」はもはや取り戻すことのない過去の歓びであり、それを失ったことは深い悲しみになってしまったのです。
春の宵にその緩やかな時間をほろ酔いで、過ごす心地よさ、夏の暑い日に、よく冷えたビールをのど越しで味わう爽快さ。秋の実りを味わいながら、その味わいを何杯にも膨らませてくれる美酒の味。冬の寒さにすくんだ身に腹の底から暖かさが行き渡る熱燗のありがたさ。
また
芸術的とか発明、学術的発見など知的創造作業をする人にとって、既成概念を離れたインスピレーションを、酒の酔いの正気と無意識の狭間から得ることもあるでしょう。
これらの歓びは酒なしでは２度とえられないものであり、それを失ったことはとっても寂しくも悲しいことです。
断酒の歓びと言っても、しょせんはアルコール依存h層からの回復でしかありません。回復のために失った歓びが大きいだけに、「断酒の歓び」なんてものは負け惜しみでしかないのです。
酒に理性を失ってアルコール依存症になった結果、断酒をせざるを得なくなったのは事実であり、それは自業自得と素直に受け止めるしかないのです。