国内版ポスター

本国イタリア版ポスター

『道』

配給 イタリフィルム / NCC

公開 1954年9月22日

上映時間 104分

製作国 イタリア

【作品概要】

フェデリコ・フェリーニの初期の作品であり、代表作の一つである。第29回アカデミー賞「外国語映画賞」を受賞している。フェリーニの作品の中では最後のネオリアリズム映画といわれている。撮影は、イタリアを代表する撮影所であるチネチッタで行われている。

大道芸人と同行する、哀れな女の道中を描いており、脚本には破天荒だった少年期から青年期のフェリーニ人生経験が強く反映していると言われている。

【スタッフ】

監督 フェデリコ・フェリーニ

脚本 フェデリコ・フェリーニ

       トゥリオ・ピネッリ

       エンニオ・フライアーノ 

製作 カルロ・ポンティ

       ディノ・デ・ラウレンティス

音楽 ニーノ・ロータ

撮影 オテッロ・マルテッリ

【キャスト】

ジェルソミーナ:ジュリエッタ・マシーナ

ザンパノ:アンソニー・クイン

イルマット:リチャード・ベイスハート

【ストーリー】

(*映画をまだご覧になっていない方は、承知の上で読了されるか、もしくはコメントを先にご覧ください)

ザンパノは体に巻いた鉄の鎖を切る大道芸人である。アシスタントだった女が死んでしまったため、女の故郷へ向かい、女の妹で頭は弱いが心の素直なジェルソミーナを一万リラで買い取る。ジェルソミーナはザンパノとともにオート三輪で旅をし、芸を仕込まれ女道化師となるが、粗暴なザンパノに嫌気が差し投げ出してしまう。

たどり着いた街で、ジェルソミーナは陽気な綱渡り芸人イル・マットの芸を目撃する。追いついたザンパノはジェルソミーナを連れ戻し、サーカス団に合流する。そこにはイル・マットがいた。イル・マットとザンパノは旧知であり険悪な仲だった。イル・マットはザンパノの出演中に客席からからかい、彼の邪魔をする一方で、ジェルソミーナにラッパを教える。

イル・マットのからかいに我慢の限界を超えたザンパノは、ナイフを持って彼を追いかけ、駆け付けた警察に逮捕される。この事件のためサーカス団は街を立ち去らねばならなくなり、責任を問われたイル・マットとザンパノはサーカス団を解雇される。ジェルソミーナはサーカス団の団長に同行するよう誘われるが、何の芸もない彼女は、足手まといになると思い街に残る。それを知ったイル・マットは、「世の中のすべては何かの役に立っている。それは神さまだけがご存知だ。ジェルソミーナもザンパノの役に立っているからこそ連れ戻されたんだ」と言い、オート三輪を駆って、彼が留置されている警察署へジェルソミーナを送り届け立ち去る。

ジェルソミーナとザンパノは再びニ人だけで大道芸を披露する日々を送る。ある日ザンパノは、路上で自動車を修理するイル・マットを見かけ彼を殴り飛ばし、車体に頭をぶつけたイル・マットはそのまま死んでしまう。ザンパノは自動車事故に見せかる工作をし、ジェルソミーナを連れてその場を去る。ジェルソミーナはショックのあまり気がふれてしまい、アシスタントとして役に立たなくなる。ザンパノはある日、寝たままのジェルソミーナを置き去りにしてしまう。

数年後、ある海辺の町で鎖の芸を披露するザンパノだったが、年老いた彼の芸は精彩を欠いていた。ザンパノは、かつてジェルソミーナがラッパで吹いていた曲を地元の娘が歌を口ずさんでいるのを聞く。ザンパノはその娘から、ジェルソミーナと思われる女がこの町に来て娘の家にかくまわれ、やがて死んだことを聞く。ザンパノは酒場で泥酔し大暴れして、店から放り出される。海岸にたどり着いたザンパノは、砂浜に倒れ込み号泣する。

【コメント】 

映画界の巨匠中の巨匠であり、黒沢明やイングマール・ベルイマンとも並び称されるフェデリコ・フェリーニの代表作であり、映画史に残る金字塔的作品である。

映画という文化に関心があって、まだご覧になっておられない方は、このコメントを読むのを中断し、先に映画をご覧になっていただきたい。それだけ必見であり、出会いを大切にしていただきたい映画である。

活劇の要素があまりない、人間ドラマが主軸の映画であるので、大画面のテレビモニターで観ても、かなり雰囲気は伝わると思う。かくいう私も、映画ファンだった小学生の時にリバイバル上映されたのにも関わらず、当時はまったく関心が湧かず、何年か後にVHSのソフトを借りてきて視聴したのを覚えている。

この様な作品を解体するには、私の鑑賞力は非力である。であるので、黒沢明の『七人の侍』など、自身のフェアバレットであり、映画史に残る作品の解説はあえて避けてきた。


映画『道』のストーリーは極めてストレートなもので、深読みする必要などまるでない。さらに、主要登場人物を演ずる三人の俳優は適材適所であり、パーフェクトな映画といってよい。

この映画には、特別な人間は出てこない。ジェルソミーナは、気立はよいが少し頭が弱い。映画の解説などで彼女のことを白痴女などと称して、差別用語がいまだ使われているのを目にするが、私が見た限りジュリエッタ・マシーナの演じるジェルソミーナは、知的障がいはないように思える。

ザンパノは、胸の筋肉で鎖を引きちぎる芸だけの旅芸人である。パフォーマンス時の呼び込みのコメントは、何年経とうがまったく同じ。さらに、性格は粗暴そのもの。名前の由来のzampaは、動物の足や蹄のことである。

やはり、旅芸人の通称イルマットは、陽気で機転が効く。イルマットはキ印の意もあるが、命綱なしの綱渡りのなど、普通の神経でできる芸当ではないだろう。

しかし、映画評論家の故淀川長治氏の論によれば、イルマットは神だという。確かにイルマットは、思ったことをそのまま口にしてしまう。東洋哲学では、仏の振舞いは無作であると解く。若い女性であるジェルソミーナに、

「お前の顔はおもしろいな、それでも女か、まるでアザミだ」

などと言い放つ。さすがのジェルソミーナも傷付きそうになるが、さらにイルマットは思ったことをそのまま口にする。

「俺は学はないが、ある読んだ本によれば、この世界には無駄なものは何一つなく、路上の小石にでさえ使命があるそうだ」

「ザンパノは何でお前を連れて歩くのか、そうだお前に惚れているに違いない」

ジェルソミーナは、途端に希望に溢れ、自身の進みゆく道を見出す。

イルマットが神か仏なら、ジェルソミーナは天使か菩薩であろう。神に啓示を受け、自身の使命に歩き出す。サーカス団の皆といれば、優しく明るいイルマットと一緒にいれば、粗雑で乱暴なザンパノといるより幸せに決まっている。しかし、あえてザンパノのため、自身の幸せを顧みず、一緒に旅をすることを選択する。

イルマットが神、ジェルソミーナが天使。ならば、ザンパノは凡夫であろう。利己的であり我欲に支配されている。ジェルソミーナが愛おしいのに、そういったことは一切表に出さない。常に冷たく突き放す。

サーカス団の誘いを断り、故郷への郷愁も断ち切り、ザンパノへの愛情を口にするも、ザンパノは、

「故郷へ帰っても、食い物がないからだろ」とまるで取り合わない。さしものジェルソミーナも泣き叫びながら、ザンパノをケダモノ呼ばわりする。

「少しは、私のことが好き?」

そう尋ねるジェルソミーナは、あまりに意地らしい。その後も何度かジェルソミーナは、求愛を口にするが、ザンパノは、「お前は何を言っているんだ」と取り合わず、頑な態度を取り続ける。

しかし、彼に人の心がないわけでない。物語の経緯からみて、イルマットはザンパノに何発か殴られても仕方がないだろう。しかし、運悪く自動車の尖った所に後頭部を打ち付けてしまい死んでしまう。ザンパノには、イルマットに対する憎悪はあっても、殺意はなかった。愚かさが生み出したあまりに不幸な事故だったのだ。

ジェルソミーナを置き去りにする時にも、毛布をかけ直し、ありたけの銭を枕元に置いて行く。野垂れ死にだけはせず、無事故郷に戻って欲しかったのだろう。

結局は、体力が衰え大道芸も失敗に終わり、ジェルソミーナの死を知り悲嘆に暮れる。自分から荒れだし、酒場を放り出されるシーンなど惨めさのきわみである。そして、海岸の砂を掻きむしり、泣き崩れる。彼が人の心を持っており、生前は一度も報いることはなかったが、ジェルソミーナに愛情を持っていたことを表して映画は終わる。


彼ら三人がそれぞれの立場を演じ切ったからこそ、優れた人間など誰一人出てこず、さらに三人ともが不幸な末路を辿るのに、この映画は神々しい。

ただ一つ、この映画には不自然なところが一つだけある。ザンパノとジェルソミーナの会話から推測すれば、姉ローザはザンパノのアシスタントであり情婦であった。ならば、野良犬の様な気質のザンパノがジェルソミーナに手を出さない訳がない。しかし、映画からは二人が男女の関係にあることが、まるで感じられない。清々ささえもが伝わってくる。

実際は関係があったのに、無かった様に感じさせる。この不自然さこそ、黒沢映画にもあった超リアリズムなのであろう。

映画『道』は、永劫に輝きを放ち続ける、人類史上に残るべく作品である。



私、孔哲

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