『壁あつき部屋』
公開日:1956年10月31日
配給:松竹
【スタッフ】
監督 小林正樹
製作 小倉武志
脚本 安部公房
撮影 楠田浩之
美術 中村公彦
音楽 木下忠司
【キャスト】
山下 - 浜田寅彦
横田 - 三島耕
木村 - 下元勉
川西 - 信欣三
三井弘次 - 西村
許 - 伊藤雄之助
横田の弟 - 内田良平
山下の妹 - 小林トシ子
【作品概要】
巣鴨拘置所に服役中のBC級戦犯の手記「壁あつき部屋」の映画化で、新鋭プロ第一回作品。脚色には阿部公房が当り、小林正樹が監督している。
【あらすじ】
巣鴨拘置所には裁かれた戦犯達が服役している。山下は、戦時中南方で上官浜田の命令で一人の土民を殺したのだが、その浜田の密告で重労働終身刑の判決を受けた。また横田は戦時中米俘虜収容所の通訳だっただけで巣鴨に入れられた。横田がたった一人人間らしい少女だと思った優しいヨシ子は、今では渋谷の特飲街に働く女である。朝鮮人の許も神経質な山下も戦犯の刻印をおされた犠牲者すぎなかった。脱出に失敗した山下はその直後母の死を知った。時限をきめて出所を許された山下は、浜田が女手の山下の家を今まで迫害し続けていた事を知ると一切の怒りがこみあげたが、恐怖に歪んだ浜田の表情を見た山下は、殺す気もしなくなった。再び横田達に迎えられて、拘置所の門をくぐる山下、そしてそこには、再びあつい壁だけが待っていた。
【コメント】
実際にBC級戦犯として、巣鴨拘置所に入獄した男の手記をもとに、安部公房が脚本を書き上げている。ノーベル賞候補にもなった昭和の日本文学を代表する巨匠である。監督は、小林正樹。三大映画祭をすべて制した、やはり昭和の日本映画を代表する巨匠だ。
山下は、冤罪に憤りながらも、人を殺した過去に苛まれている。囚人である主要登場人物は、すべて戦争による心の闇を抱えている。その描写が見事だ。
それにより、戦争の愚かさや残酷さ理不尽さを描き出す。さらに、人間の悪徳や煩悩を浮き上がらせる。そういった要素が多層的に絡まり映画は進んで行く。
山下は、本来殺しても飽きたらい横田に手を掛けずに、仲間を裏切ることなく、一時出所から刑務所に戻る。絶望的な状況に、一点の希望を見せて映画は終わる。
