この記事を書いてから、早くも一年が経過しました。

 

袴田事件に付き再審開始決定がされたことについて

    第1回の2

 

特別抗告を検討だと?

 今月13日に、東京高等裁判所が、「再審開始を認める決定を言い渡した」と報じられていますが、この決定について少し細かく見てみます。この経過を知り、再審開始請求がいかに厳しいことかをご理解いただければ、今日、弁護団事務局長の小川秀世弁護士が「検察官は、人の命をなんだと思っている」と憤慨して記者会見で述べ、いくつかの局が「40年近く袴田さんの弁護を続けてきた小川弁護士」と紹介した意味も分かってもらえるでしょう。

 

      

 

 1 再審手続の流れ

   ざっくりと言えば、有罪として確定された判決に不服の被告人 が、裁判所に裁判のやり直しを求める手続ですが、この種の裁判は最高裁まで争われている事が多いので、有罪確定まで、5年や10年かかっていますから、再審請求手続は、事件や検挙から、10年以上かかっていることは普通です。その上、再審開始請求が認められても直ちに「無罪」になるわけでなく、「再審」手続という手続を再度行うこととなります。今回の手続と決定は、第一ラウンドの一部に過ぎません。

  袴田事件では、

1968年9月11日  静岡地裁   死刑判決

1976年5月18日  東京高裁   袴田さんの控訴棄却(死刑維持)

1980年11月19日  最高裁    袴田さんの上告棄却(死刑維持)

1980年12月12日  最高裁    一部手続訂正(死刑確定)

1981年4月20日  弁護団 再審開始請求(静岡地裁に)

1994年8月8日   静岡地裁   再審請求棄却(死刑維持)

2004年8月27日  東京高裁 弁護人の即時抗告棄却(死刑維持)

2008年3月24日  最高裁  弁護人の特別抗告棄却(死刑維持)

   第一次再審開始請求終了

2008年4月24日  弁護団、静岡地裁に第二次再審手続請求

2014年3月27日  静岡地裁 再審開始決定(死刑に疑念、袴田さん釈放)

2018年6月11日  東京高裁 検察官の即時抗告を認め静岡地裁の決定を取消。

2020年12月22日 最高裁、弁護人の特別抗告を一部認め、東京高裁に差し戻し。

 そして、月曜日の東京高裁の決定となったのです。

 これに対し、検察官は、再度、最高裁の特別抗告ができるという解釈が一般的になっていました。しかし、そもそも、「再審開始決定」までの要件は、半端ではないのです。それを検察官が、何度も異議を出せるというのは、如何でしょう。

 

       

 

 

 

2 再審開始決定の要件について

 これを法律を要約すれば、

 静岡地裁、東京高裁と冤罪で苦しむ「犯人とされた者に、

① 言い渡された判決が確定した後、この確定判決の証拠となった証拠書類、または証拠物が、これと別の確定判決により偽造または変造であったとき、

② 言い渡された判決が確定した後、この確定判決の証拠となった証言、鑑定、通訳、翻訳が、これと別の確定判決により、虚偽であったことが証明されたとき、

③ 有罪の言い渡しを受けた者に対する虚偽告訴について、犯人の有罪が確定したとき

④、⑤、⑦は省略

⑥ 無罪・免訴・刑の免除・より軽い罪を認めるべき明らかな証拠を新たに発見したとき

 となっています。有罪を言い渡した静岡地裁の証拠等が、別の裁判手続で虚偽だと認められ確定しているか、元の判決が揺らぐような新しく明白な証拠が発見されたとき・・・と、「合理的疑い」を差し挟まぬほどの高度の蓋然性が有罪判決の要件とされているのに、それが覆されているというのが、「再審開始決定」なのですから、これに再度異議を出せるのは、おおいなる矛盾です。

 月曜日の決定に、東京高検が特別抗告を準備しているとは、小川弁護士が憤慨するのは、当然です。

 ちなみに、私が最後の3年間関わった「島田事件」では、同じ場面で、東京高検は、特別抗告を断念し、静岡地裁での早期の再審手続を進めました。

  アッパレな  Good Loser でした。

 

      

 

 

 今、この検察官による抗告を認めないよう再審法の見直しの議論をすると言ってますが、30年以上前から、私たちは主張していました。日弁連ですら動かなかったのは残念です。

      

      

 

 

続く