猫の爪切り。それは、私たちのような動物関係の仕事をしている者にとっては何でもないことなのですが、猫の飼い主さんによっては大変なイベントだったりします。場合によっては「不可能なこと」だと思っている方もおられますね。困っておられる方にはヒンシュクを買ってしまいそうなお話なのですが、昔話をひとつ…。

 

●菊之輔は1歳になりましたが、いまでも爪切りの時間はゴキゲンです!

 

私がまだ獣医の卵でもなかった頃、花嫁修業に?華道を習っていたのですが、その先生が「うちの犬は毎月、動物病院で爪を切ってもらっているのよ」とおっしゃったことに、私は衝撃を受けました。

 

えっ!ネイルするわけでもなくただ切るだけなのに「病院で爪切り」って! 病院って病気になったら行くとこと違うんか?…と私は思ったのです。当時もその前後も、我が家には犬や猫がおりましたが、爪切りしてもらうために動物病院へ彼らを連れて行ったことは一度もありませんでした。

 

それから私が獣医の卵になり、孵化して獣医師になったとき、動物病院には単に爪切りだけで通院している犬猫たちの多いことに、驚きました。そして、家で猫の爪を切ろうとすると「暴れたり咬み付いたりするので、できない」と飼い主さんたちが悩んでいるのを聞いて、さらに驚きました。私はこれまで飼った猫たちの誰ヒトニャンとして爪を切らせてくれない猫はいなかったのです。

 

そのことをお話しすると、「そりゃ先生だからでしょ!」と冷たく言われてしまいます。「でも、大学で猫の爪の切り方なんて習ったことはありませんよ」というと逆に「ええ~!そうなんですか?」と言われます。獣医学科は人間以外の動物の「病気」を勉強するところなのです。爪切りの仕方の授業はまずありません。

 

最近では、猫の爪切り用の目隠し?やら特殊な猫チャン専用爪切りなどのグッズも増え、インターネットで探せば「猫の爪切りの仕方」について事細かに説明されているサイトが見つかります。それらを見るたび、みなさん本当に困っておられるのだなあと思います。

 

飼い主さんたちが自宅で爪切りをしようとすると暴れてできないという猫も、動物病院へ来ると素直に爪を切らせてくれることがあります。その時猫は、知らないところに連れて来られて、知らない人に触られて恐怖でフリーズしているのか、状況が掴めないのでとりあえず動かず固まっているのかと推測します。私はいつも患者さんに「猫だけに、猫かぶってますねー」とか「ホームじゃなくてアウェイだから強気に出ませんねー」とお話しています。

 

あるとき、獣医師の友人と、爪切りの話で盛り上がりました。

 

私「でも、でも、出来れば自宅で毎月爪を切っていただきたいわ。家で飼ってる猫が暴れて爪が切れないというのが、申し訳ないけどなんでかわからへんねんけど…」

 

すると友人曰く「それは僕らが獣医だから(切れるん)じゃないかな?」

 

私「え〜!猫が『こいつ獣医やし、大人しくして爪切らせたろかな〜』なんて考える?」

 

友人「違うんですよ。『咬んだり引っ掻いたりしてもビビりませんよ、私は』という気力(気迫)があるから、猫が大人しく切らせてくれるんですよぉ~」

 

そうか、それはあるかも知れません。私たちは、猫に威嚇されてもジタバタされても怯みません。猫に咬まれないような持ち方(保定の仕方)だって知っています。その気持ちの余裕を、猫たちは野生のカンで読みとるのでしょう。

 

でも爪は、人間もそうですが犬も猫も、生涯伸び続けます。ですから定期的に切った方が良いですし、出来ればお家でちょいちょい切ってあげるのが理想です。爪切りはスキンシップになりますから、不快にならないように切れば、切られる犬猫も、切る人間も癒しになるはずです。

 

●6歳の雄猫、ハク太郎はいつも唸りながら、でも視線はカメラに向けて…爪を切らせます

 

 

 

そこで、猫の爪切りについて私からの提案です。

▽1週間に一回、定期的に爪切りをしましょう。

 

●菊之輔、茶トラオスはこの写真を撮った当時は2カ月齢です。子猫は特に爪が伸びるのが早いですので、毎週のように爪切りしました。まずは膝の上に仰向けにさせますが、菊之輔はいつもこんな感じで脱力しています。

 

●爪切りを始めてもこの通り、リラックス

 

▽スキンシップをしながら爪切りしましょう。

 

▽咬まれそうになっても平常心で怯まない。ドキドキしない、キャーとか声を出さない。

 

▽咬まれても怪我をしないように、革手袋や軍手を二重にはめる、エリザベスカラーを付けるなどで対応しましょう。

 

注:エリザベスカラーをつけられないという方は、猫を怖がりすぎていませんか? カラーをつける、キャリーケースに入れる、など最低限のしつけは頑張ってくださいね。

 

▽両手で輪っかを作り、固定してその中に猫の首を入れます(決して首を絞めないでください。両手で作った固定されたサイズの輪っかに猫の首を入れる感じです)。

 

▽爪切りするときは「切れる爪切り」で切りましょう。

 

注:切れない爪切りで猫の爪を切ろうとすると、爪がよじれるだけでスパッと切れず、痛みが出ます。痛いので爪切りを嫌がる→暴れる→爪を切らせてもらえない→ますます爪が尖って伸びる→暴れる→飼い主が怪我をする→爪が尖って伸びる→といった負のスパイラルに突入です。猫の爪は小さくて薄いので人間の爪切りで切れます。人間の爪切りは切った爪が飛び散らないようにケースが付いていることが多いので、そこも推しポイントです。

 

▽猫は賢いので、暴れたら爪切りをやめてくれることを覚えてしまいます。暴れても決して諦めないでください。力で抑え込むのではなくてあくまで「保定」をされてください。

 

注:保定については他のサイトやYouTubeで多くの方が解説されておられますのでそちらを参考に。

 

…それでは、頑張ってみてください!

 

●のりちゃんはいつも平常心で爪切りをさせてくれます

 

最後に、うちの猫達の動画をアップしておきます。脱力系爪切りの菊之輔(1歳雄猫)と、怒り心頭で唸りながらも、でも爪は切らせてくれるハク太郎(6歳雄猫)です。小さいころから定期的に爪を切ってきました。