ヒトも動物も、病気の原因が食事や環境の場合が多くあります。例えばめまいや吐き気が続く場合、原因は毎日お使いの洗濯洗剤だったなど…ただ、このような原因を探し当てるのはなかなか困難です。一般的な病院を受診すると、「異常なしです」と言われるか、心の病や更年期障害と診断されてしまうかも知れません。

 

本来、洗濯とは衣類を洗って濯いで汚れを落とすことですが、イマドキの洗剤は、洗っても落ちない抗菌消臭効果のある化学物質や香料などを衣類に付着させます。衣類は常に身にまとうものですので、結果これらの化学物質が皮膚や呼吸器から体内に吸収されます。詳しい機序は不明ですが、これにより上述のような症状が出たり、長期に渡る吸収では、がん等の疾患にも関与していると考えられます。

 

例えば洗濯洗剤に含まれる抗菌成分は、衣類に付着する雑菌の増殖を防ぐものですが、これが体内に入れば我々の体内で共生している大切な細菌達を脅かすことは想像に難くありません。特に腸内の細菌が痛めつけられると、糖尿病や心血管疾患、関節リウマチなどの病気をおこすことが、近年の研究で明らかになりました。

 

洗濯洗剤に限らず、近年この地球上におびただしい数と量の化学物質が拡散しています。部屋の中を見回しても、除菌剤、消臭剤、防虫剤、洗剤、シャンプー、化粧品、ヘアケア商品…。それらは近代になってヒトが作り出した、本来自然界には無かったものがほとんどです。太古の昔からこの地球上にある化学物質は、地球上の生き物がそれらを利用してリサイクルが行われてきましたが、近年ヒトが作り出した化学物質は最終的にどうなるのか、誰も知りません。

 

生き物が有害化学物質を取り込むと、身体は体外に排出しようとします。主に肝臓で代謝されて便や尿、汗、呼気となって出ていきますが、排出できない場合には体内の脂肪などに蓄積されます。そしてこれらは、体内で分泌される様々なホルモンの作用を攪乱したり、発がんに加担したり、慢性的な炎症を引き起こしたりすることが指摘されています。

 

また、化学物質の代謝には、体内にあるビタミン・ミネラルなどの栄養が使われます。本来、ビタミン・ミネラルは身体を作ったり動かしたり整えたり、考えたり消化したりするために使われます。それが、体内に取り込んだ化学物質の代謝のために横取りされてしまうと、肝心な健康な身体づくりや病気に対する抵抗力として十分に利用できないという事態が起こり得ます。

 

米国の環境保護団体ENVIRONMENTAL WORKING GROUPが、ヒトの体内に蓄積されている有害化学物質について調査したところ、食べ物や飲み物に気を遣っている人ですら、たくさんの物質が検出されたそうです。これは自ら選んで摂取する飲食物は、有害化学物質がなるべく少ないものを選択できますが、呼吸によって体内に入る空気は、選ぶことが出来ないのです。その大気には目には見えませんが多くの化学物質が含まれています。

 

そして驚くべきことに、ペットの犬猫ではヒトよりもさらに高濃度の有害化学物質が検出されました。犬では検出された化学物質は70項目の検査で35種類。ヒトよりも高濃度に検出されたものが40%でした。一方の猫では、検出された化学物質は70項目中46種類でヒトより高濃度だったものが96%ありました。特に以下の4つが突出して高濃度だったそうです。

 

 

①フッ素樹脂・パーフルオロ化合物(テフロン加工の原料で、フライパンやファストフードの包み紙に塗布)

②フタル酸エステル(プラスチックなどを柔らかくするため、家電製品や壁紙、医療機器に使用)

③ポリ臭素化ジフェニルエーテル(カーテン・ソファ・壁紙などに使われる難燃剤)

④水銀(石炭などの化石燃料を燃やすことで環境中に拡散)

 

この理由として考えられるのは、犬猫は

①屋内の床に近いところで過ごす

②薬物代謝能力がヒトより劣る

③体についたものを舐める

④着替えができない

ことです。

 

 

室内飼いの犬猫はその生涯をほぼ室内で過ごします。今や室内のカーテン・床・壁には防虫剤や防ダニ剤、難燃剤が使われ化学繊維で出来ていますが、それらの粒子がハウスダストに含まれてしまっています。そして、ハウスダストは床や床に近い空間に停留しています。

 

ヒトや犬猫などの恒温動物は大気よりも体温が高いために、自分の身体の直下にある床周辺の空気が身体に沿って上昇流となります。研究によると、呼吸で吸い込む空気の1/3は鼻周辺の空気で、2/3は直下の床周辺の空気とのことです。従って、ヒトよりもかなり床付近で過ごしている犬猫(これは赤ちゃんも同様)は、大人よりもハウスダストを吸引してしまうリスクが高いのです。

 

 

さらに犬猫は体内に入った化学物質を代謝する能力が、ヒトよりも劣っています。特に猫は、複雑な構造をした化学物質を分解する酵素がヒトよりも少なく、体外に排出しにくいことが判明しています。

 

また、大気中に浮遊する化学物質は、呼吸で体内に取り込む他に体表に付着してしまうものもあります。犬猫の場合は被毛に付着しますが、猫は特にグルーミングでこれらを舐めとって食べてしまいます。ヒトの衣類についた化学物質は、着替えて洗濯することによって体内に取り込む機会を減らすことが出来ますが、犬猫たちは着替えが出来ません。被毛に付着した化学物質の粒子は、被毛の根元にびっしりと溜まっていることが考えられます。そして、犬猫の皮膚はヒトよりも薄く体重に対する体表面積が広いので、皮膚についた化学物質は容易に皮膚から吸収されてしまいます。

 

長年少しずつ体内に取り込まれた化学物質によって起こる病気は、ヒトよりも先に犬猫などの身体の小さい動物で起こります。なぜなら、ヒトでは発現までに数十年かかるところが、犬猫の寿命はヒトの数分の一ですので数年で発現するのです。

 

1950年代に熊本県水俣湾周辺で起こった公害・水俣病が良い例です。このとき、一番最初に健康被害が出たのが、水俣湾周辺に住む猫達でした。猫がうまく歩いたり走ったりできずに踊っているかように四肢をばたつかせ、やがて死んでいったことから、当時「猫踊り病」と呼ばれました。

 

そして、猫踊り病が流行り出してから数年後に、地域に住むヒトにも同様の症状が出て、1959年にやっと原因は化学工場から海や河川に排出されたメチル水銀化合物であることが判明しました。このメチル水銀化合物を体内に取り込んだ魚などの海産物を猫やヒトが食べ続けたことで、神経に異常をきたしたのです。

 

*この記事は、まいどなニュース2023年08月27日号にも掲載されています。

 

→続く