家庭用塩素系洗浄剤の暴露による呼吸器障害ならびに心筋傷害を疑った猫の1例

 

↑難しい漢字が並びますが、この症例報告が学会誌に受理されました。つまり、学会誌がこの報告はデタラメなんかじゃないと認めてくださいました。大変嬉しいのですが、ここまで…自分で言うのもなんですが、大変な道のりでした。

 

今回査読してくださった方(審査員のこと)には、

「昨今の社会情勢から家庭用塩素系洗浄剤の使用が増えているため、猫への安全性を考慮する意味で、非常に学術的価値の高い内容と思われます。」と仰っていただきました。

 

この症例報告の内容を簡単に…

 

三毛猫のSちゃんは、ある日突然と元気食欲が低下して虚脱し、動物病院を受診、即入院となりました。そして、入院3日後に呼吸困難となり、6日後に胸腔内に液体が貯留しました。心臓の検査では、心不全と心筋の著しい傷害を認めましたが、幸い、治療に反応してその後回復し、退院しました。

 

◆Sちゃんはあの事件以来、毎年健康診断をされています。今年もいらっしゃいました!

◆いまだに病院はなれません!

 

ということなのですが、飼い主さんは当初、原因として思い当たることがないとのことでした。そこで、症状が出る前日までの生活や出来事などを詳しくおうかがいしたところ、飼い主であるお母さんが前夜、塩素系洗浄剤(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を用いて浴室を掃除していたのを、Sちゃんがお母さんのすぐ後ろで見学していたことがわかりました。

 

私は状況からして、これは次亜塩素酸ナトリウムが原因ではないかと疑い、治療をして証拠固めをして行きました。そして、報告をまとめて投稿すると、最初に投稿した学会の審査員には、

 

 ① 一緒に浴室にいたお母さんには全く健康被害がなかった

 ② 静脈点滴をしていた

 ③ ステロイドの注射をした

 ④ 胸腔内に液体が溜まったのが入院3日後だった

 ⑤ 猫での次亜塩素酸ナトリウムによる健康被害の報告が、これまでに…どこにも報告されていない!

 

ということで、難しい説明は割愛しますが、「Sちゃんが具合が悪くなったのは、点滴やステロイドが原因でしょう。(猫は静脈点滴をし過ぎたり、ステロイドを注射して胸腔内に液体が溜まることがあるのです)浴室洗浄剤ごときで、猫がそんなことになったというのは、聞いたことがありません。参考にされた文献も無いようですし、科学的根拠に乏しい。」「全体的に文章があまり“科学的”ではあ りません。」などと、審査員に「お話にならない報告」扱いされてしまいました。泣

 

過去に報告が無いから、私が頑張って報告を出しているのです。猫は人間よりも体が小さく、化学物質の毒性を減弱させる解毒能力がかなり劣ります。空気中を漂う次亜塩素酸ナトリウムは床に近いところに停滞するのですが、猫は人間よりも床に近いところで生活し、猫は被毛に付いた化学物質は舐め取って食べてしまうのです。

 

ですから、人間では健康被害が無い濃度の化学物質でも、猫では重篤な症状が現れることがあるのです。

 

私は、このことを広く周知させたかった、ただそれだけです。