カレーライスには魔力が潜んでいるに違いない。

そして、その魔力は、特に男によく効くに違いないと今晩、確信した。

ここのところ、息子の思いつきでベジタリアン生活をしている。

でも、茄子やズッキーニ、サツマイモなどが並ぶと息子は頑張って食べているという感じ。グラタンとか、オムライスになると、ウキウキかんが全然違う。

 

私は、豆腐とか焼きなすとか、大根の葉や蕎麦で幸せに生きていけるけれど、どうやら息子や夫はちょっと違うみたいだ。

それで、こんばんは、カレーを作った。

玉ねぎをじっくり炒めて、キャベツ、にんじん、ジャガイモを加え、ちょっと水を加えて煮立たせたところで、ガラムマサラとか、チリとか、カレーのルーとかを入れて煮詰める、半ドライカレーみたいなカレー。

 

家の中が、カレー!!!という香りでいっぱいになる。

ご飯、出来たよ!と声をかけると、息子がドスドスと自分の部屋から走ってくる。

夫は、電話で知り合いと会話中だったのだけれど、相手に気の毒なほどに気が散り、話し方が早くなり、声が大きくなっていて、気もそぞろなのがバレバレである。

 

出来たカレーを、ガツガツと、ものすごい勢いで食べ、おかわりに走る息子。

電話を終えて、カレー一直線の目つきの夫。

 

夫は、一口食べると、瞳孔の開いた目で「すっっっっっ、、、、、、(15秒)っっっごく、美味しい!!!」と言った。そして、ギラギラしたオーラを輝かせながら2杯めのカレーを食べて、食べ終えると、今度は、満足と陶酔の混じった、そして憂を浮かべた表情で「悲しい」と言った。

お腹がいっぱいになってしまったことが、食べることによるエクスタシーの時が終わってしまったのが悲しいそうである。

 

確かに、美味しいカレーだった。

料理をする私としては、食材を刻んでいる時点で、もう味の想像は出来ている。

味、食感、刺激、自分の想像通りに調味料を加えたり、食材に火を加えるタイミングを変えたりしながら、料理を作っていく。

味見もしているから、お皿によそった時点で、私には驚くことは何もない。

 

でも、家中に漂うカレーの匂いに悶々として、でも、いつもと違うベジタリアンだから、もしかしたら、匂いに裏切られて落胆するのではないか。しかもドライカレーでも、普通のカレーでもないものを作っているらしい、、、。という不安か、彼らを襲う。彼らは耐えがたい欲望を抱きながら、期待しすぎてはいけない。と自制しつつスプーンを手に取る。

そして、夢中になって食べて、喜び、満足し、悲しくなるのだった、、、。

 

う〜ん。カレーライスほどに男を狂わせる食べ物は、他にあるだろうか。

ないだろうな。と私は、クールに、そう思うのだった。