遥かなる旅 戦後史の谷間から 山根昌子

 

著者の山根さんの両親。父親は朝鮮人。母親は日本人。両親は法的に結婚していませんでした。

私と境遇が似ています。私の母親は日本人、朝鮮人の父親とはやはり婚姻届を出していませんでした。山根さんの国籍は日本なのに、日本国内で「朝鮮人」として差別を受けて育ったことで大変傷つきました。私も山根さん同様日本国籍です。しかし、父親が在日コリアンという理由で差別された記憶はありません。山根さんと私が育った時代が違うこともあり得ます。私の父は私が8歳の時に死亡。母と二人だけの生活。度重なる引っ越しで、近所の人には私の亡父が朝鮮人だったと知る術がありません。

 

山根さんは1939年生まれ、私は1956年です。年齢差があります。でも、私の父親は1903年生まれで、山根さんのお父さんは本書から1906年生まれだと推定します。二人の父親は同年代です。山根さんが20歳の時。1960年彼女の両親と二人の妹さんらは北朝鮮に「帰国」しましたが、山根さんは日本に残りました。日本に一人残った山根さんは、そばにいない家族の精神的なバックアップなしに様々な苦労が降りかかります。そして、いつしか生まれ育った松代に吸い寄せられます。かつて、両親、姉妹と暮らした長野県松代町。戦争末期お父さんが徴用され穴を掘らされた松代大本営がある町。当地での在日朝鮮労働者らの歴史を掘り下げていきます。松代大本営の朝鮮人労働者がどんな扱いされながら、堀削工事をさせられたのか。数十年後、やっとのことで北朝鮮の家族を訪問することができるのですが。植民地化、戦争、政治、社会制度に翻弄され、引き裂かれた1家族の物語です。