最近、私の通訳の仕事が立て込んで手が回らない時に20歳の息子が手伝ってくれるようになった(因みに息子は私が仕込んだ国産バイリンガル)。「何て母親思いの息子...」と思いきや、大学3年生の息子は、通訳の仕事が自分がやっているバイトよりも高時給だということに気づき、やってくれているのだ。比較的簡単なスタートアップビジネスなど、オンラインで1時間程度で完結する通訳を何度かお願いしてきちんとやっていることは確認済みだった。

 

ところが、先日手違いで、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)による模擬監査の通訳を息子にアサインしてしまった。「しまった!」と思ったが、後の祭り、同日程で私はUSのスタートアップの会社のCEOの通訳を引き受けてしまい、顧客訪問などの綿密なプランの話し合いを初めてしまった。

 

仕方なく、息子に「あなたが得意な鉄道関係の通訳ではなく、実は日本の大手製薬会社の監査の通訳だった。監査官はスペイン語訛りがひどいらしい」と依頼者から聞いた情報を話す。息子は「大丈夫だよ。監査官が決められた項目を確認するだけでしょう?」と相変わらず楽天的。少し安心して、息子を現地に送る。

 

初日に様子を聞くと「ひどいスペイン語訛りで、スペリングを聞いて携帯で単語を調べても存在しない英語だったりする。だんだん慣れて来て発音に一定の規則があることが分かったけど。でも、8時間ぶっ通し通訳はさすがに疲れたなあ。休憩時間も喋っていて結局通訳しているから、休む間もなかった」とのことでぐったりしている。8時間だったら普通通訳は2人体制にするはず。でも息子はそんなことは知らないので、通訳とはそういうものだと思っているらしい。でも、「高そうな定食屋で和食のお昼もブラジル人と一緒に製薬会社の人にご馳走になった。いいのかなあ」と喜んでいる。

 

そうこうしているうちに、製薬会社の人から、「息子さんがいらっしゃって大変助かった。明日もよろしくお願いします」と連絡が入る。「へ~、息子よ、やるじゃない!」と思いながら、自分のキャリアを断念して子育てに専念し、苦労して息子に英語を教えた甲斐があったとなどと感慨にふける。2日目は通訳の7つ道具の一つ、〇ンケルを持参させる。2日目も8時間通訳をやったとのことだが、「慣れたせいか、〇ンケルのお陰か、今日は昨日ほど疲れなかった!」と喜んでいた。

 

半月後、またリピートで同じ会社での本監査の仕事が入った。今度はブラジル人2人来日するので、親子での採用だ。息子は、小さい頃、学校でグループ行動ができず、問題ばかり起こしていた。息子の将来を案じ、懸命に英語を教えている時は、まさか親子で通訳をすることになるとは想像していなかった。感極まる瞬間だった。