『氷室』2025年10月号掲載用
季語つれづれ  番外(一九五)晩秋(植物)
【秋の七草】 秋七草
 秋の七草とは、山上憶良が詠んだ万葉集にある次の二首の歌にちなんでいる。
秋の野に咲たる花を指折りかき数ふれば七種の花
萩の花尾花葛花瞿麦(なでしこ)の花姫部志(をみなえし)また藤袴朝顔の花
 この歌にある「朝顔の花」については、朝顔、昼顔、木槿、桔梗など諸説があるが、桔梗が有力とされている。
 秋の七草は春の七草のように粥にして食べたりすることはなく、平安時代、貴族は秋の七草が咲く花野を歩いて歌を詠み、七草を月の光で愛でたのであろう。
 尾花は芒の別名で、イネ科の多年草、茅葺屋根の材料として使われた。月見には欠かせない。
 葛はマメ科に分類される大型の蔓性植物で、根から澱粉の採る。葛粉は葛餅や葛切の原料として使われる。
 瞿麦はナデシコ科の多年草で山などでよく見られる。
 姫部志はオミナエシ科の多年草で、「女郎花」と表記されるようになったのは西暦九〇〇年代以降だという。
 藤袴はキク科の多年草で、現在では減ってきて絶滅危惧種に指定される。浅黄斑蝶が来る。
 桔梗はキキョウ科に属する多年草で、園芸種が多数流通しており、美しさから多くの武将の家紋として使われる。
 萩は、マメ科ハギ属の総称で、七草のひとつとなってはいるが、植物分類としては木本(落葉低木)である。
『氷室』2025年10月号掲載用
季語つれづれ  番外(一九六)晩秋(植物)
【穭】 穭の穂
 刈り取った後の稲の切り株に青々とした稲がふたたび生え出たものを穭という。その穭の穂には米が入っていない。この時に他に、稲孫という字もある。また読み方も「ひつじ」の他に「ひつち」「ひづち」などがある。穭が茂った田を穭田といい、これも晩秋の季語である。
 株に再生した稲で、いわば、稲の蘖である。学術的には「再生イネ」といわれる。一般には二番穂とも呼ばれる。穭稲、穭生(ひつじばえ)ともいう。
 稲は国際標準産業分類第4版で「非多年生作物の栽培」欄に掲載されており、世界的には一年生の作物として栽培される。しかし稲は本来は多年生植物としての性格を持っており、とくに熱帯地方では繰り返し収穫することが可能である。
 稲の蘖の栽培は蘖農法といい、砂糖黍やバナナなどの栽培でも行われる株出し栽培法の一種である。親稲の収穫物を「メイン・クロップ」、蘖の収穫物を「ラトゥーン・クロップ」という。『日本書紀』には、稲を「一度植え、両収」するという記事がある。
 稲の生殖細胞の減数分裂の際の気温が摂氏約一八~二〇度を下回ると不稔となることがあり、温帯では成長しても穂が出ずに枯死してしまうか、中身が空のことが多い。稲刈りはせず田に鋤きこまれるが、高知などでは家畜に利用されることがある。
『氷室』2025年11月号掲載用
季語つれづれ  番外(一九七)初冬(天文)
【初雪】
 気象庁や気象台が発表する「初雪」の定義は、その冬の最初に雪か霙、雨交じりの雪、または融けかかった雪による降水があった日の雪とされている。高い山では夏に雪が降ることもある。高い山の初雪は、その年の日平均気温が最も高い日以降に初めて降った雪という定義がある。
 二〇〇四年に測候所が廃止されるまで、富士山測候所は最も初雪が早く、一九七一年から二〇〇〇年の平年値で九月一四日であった。なお、ここでは終雪は七月一一日であった。最も早い初雪は、一九六三年七月三一日、最も遅い初雪は、一九四三年一〇月一六日だった。
 初雪が観測される時期は年によってばらつきが大きい。北海道、東北山間部では九月後半から一〇月中旬、同じく内陸や平野部では一〇月中旬から一一月上旬頃である。関東平野部、東海、京阪神、南紀、山陽、四国、北部九州の平野部では一二月中旬から一月上旬に観測される。
 関東南部から九州南部にかけての太平洋沿岸部は初雪の観測が遅く、一月以降の地域が多い。南岸低気圧によってもたらされる雪が初雪となる場合がほとんどである。
 静岡や宮崎などで初雪そのものが観測されなかった年がある。また、冬でも温暖な小笠原諸島や南西諸島では基本的に雪は観測されていない。
 雪は地上の気温が摂氏〇度以上でも降る。おもに気温、湿度、雪片の大きさの三要素が影響する。
『氷室』2025年11月号掲載用
季語つれづれ  番外(一九八)初冬(天文)
【初霜】 
 霜と結氷に関して気象庁が行う観測は露場で現象を観測する方法による。これらの現象は季節の感覚を表す指標に使われる場合が多く、観測場所付近の現象を観測してもよいとされている。露場は観測装置が周囲の人工物の影響を受けないように配慮して良好な環境で気象観測を実施するための屋外の場所である。遠隔露場という観測室から距離的に離れた場所にある露場もある。
 霜は大気中の水蒸気が昇華して、地面または地物に付着した氷の結晶である。一般にうろこ状、針状、羽状または扇子状をしている。結氷は、屋外にある水が凍る現象で、露場に設置してある結氷皿等に水を張って観測する。
北アルプスの乗鞍岳では22日の朝、初霜と霜柱が観測されました。
 二〇二五年九月二二日、乗鞍スカイライン管理事務所によると、午前五時半の気温が摂氏〇度まで下がり、標高約二七〇〇メートルの畳平で初霜が観測されたという。高さ五センチメートルほどの霜柱も観測された。初霜は去年より一日早く、過去一〇年間の平均より五日遅いという。
 七十二候の第五十二候が「霜始降(しもはじめてふる)」であり、二〇二五年は一〇月二三日から一〇月二七日までである。江戸時代には今より平均気温で三度くらい低かったので、関東辺りでも霜が普通に降りる頃だったと思われるが、今では合っていない。



『氷室』2025年12月号掲載用
季語つれづれ  番外(一九九)三冬(天文)
【冬の虹】 
 虹は四季に登場する。春の虹は驟雨の後に出る。二十四節気「清明」の第三候は「虹初めて見ゆ」である。虹は夏の季語で、主虹と副虹が出る。二重虹、朝虹、夕虹なども傍題にある。秋の虹は、はかなく消える。冬の虹は時雨の空に出たり、荒波の暗い海から立ち上がる。
 時雨虹は、晩秋から初冬にかけて降りみ降らずみというような雨がやんだ後に、青空が広がり、太陽の光が雨粒に当たって屈折し分光することで現れる虹である。この現象は、急に雨が降ったり日差しが出たりする変わりやすい天気の中で見られる。特に晩秋から初冬の時期に見られるから冬の季語となっている。
 日本海側の地域では初冬に多く虹が見られる。時雨に現れる虹は特有の風情がある。時雨の不安定さ、美しさを表現するための重要な要素となる。
 京都盆地では冬の虹は昼の北山にかかる。時雨は山陰地域の名物であるが、雨雲が強く荒れているときには京都盆地までやってくる。京都盆地の南の方で晴れていて、北山に時雨がかかっているとき、鴨川の橋から北山の準平原を見ると虹が低くかかるのが見える。
 二〇二五年の文化の日、朝八時ごろに京都駅ビルから虹を見つけた方が、当日一一時半ごろでもまだ虹は低くかかって駅ビルから京都タワーの根元を低く包むようにくっきりと見えていたと、みごとな写真を送ってきた。



『氷室』2025年12月号掲載用
季語つれづれ  番外(二〇〇)三冬(動物)
【熊】 月の輪熊 羆 熊の子 熊穴に入る
 二〇二五年晩秋、熊による年度内死者数が一二人にのぼった。熊による人身事故の増加は熊と人との共存を困難にする最大の要因となる。
 熊は日本列島で唯一の大型動物である。日本に生息する熊は羆と月の輪熊である。羆は北海道のほぼ全域に生息し、日本最大の陸生哺乳類で、運動能力は驚異的で、全力疾走では時速五〇から六〇キロを出す。食性は雑食性で、春から初夏にかけては蕗、独活などの若葉、夏は昆虫、秋は猿梨や山葡萄、どんぐりを食べる。
 月の輪熊は本州と四国に生息し、羆より小型で、人よりも速く走る。植物食性に偏った雑食性である。分布は山毛欅や水楢に代表されるブナ科の落葉広葉樹林の分布と重なる。東日本では森林が連続しているが西日本では開発や拡大造林によって生息地が分断され、個体群が孤立している。九州では絶滅した可能性が高い。四国でも絶滅が心配されている。
  日本における熊の役割は多岐にわたる。種子散布者としての役割を果たし、森林の空間構造に大きな影響を与えている。また河畔林の土壌養分や樹木の成長を増加させるために、栄養塩を陸上に輸送する。植食者、捕食者、死体食者としての役割も担い、生態系の循環を支える大きな役割を果たしている。それを単純に駆逐すると、日本の生態の根本が破壊されることになる。