尾池和夫の記録(423)京都の地球科学(376)『氷室』2025年8月
京都の地球科学(三七六) 『氷室』2025年8月号掲載
京都の地下構造と地下水
尾池和夫
京都盆地は活断層運動できた断層盆地であり、西山、北山、東山に囲まれて、古くから都が置かれ、大都市として発展を続けている。その京都盆地を中心に、地下構造のできた仕組みをまとめておきたい。
京都盆地の西に接する西山一帯は、中生代ジュラ紀の地層で、その中に京都府南部を北北西―南南東方向に延びる西側隆起の逆断層がある。それは北部では東側隆起で左横ずれ成分を伴っており、断層の南部は樫原活動セグメントで、京都盆地の西縁を限る形になっている。活動セグメントとは、産業技術総合研究所で定義した活断層の最小単位である。北部は世木林活動セグメントである。さらにそれらの西側に平行して亀岡断層帯の亀岡活動セグメントがある。その西は新生代第四紀の堆積層で、亀岡盆地である。
北部に行くと三峠断層の三峠活動セグメントで、京都府中部を西北西―東南東方向に延びる左横ずれ断層であり、小河谷に系統的な横ずれ屈曲が見られる。亀岡盆地の西には、埴生活動セグメントがあり、兵庫県東部から京都府中部にかけて西北西―東南東方向に延びる左横ずれ断層である。兵庫県に入ると地層は中生代白亜紀の火成岩からなる。
北に広がる丹波山地の地質は、古生代石炭紀のチャートや玄武岩、中生代ジュラ紀の砂岩、混成岩からなり、京都市から南丹市にかけて広い範囲にばらばらと混じって分布している。白亜紀の閃緑岩がみられる場所もある。さらに北へ、綾部市や舞鶴市の地域では、古生代ペルム紀の斑れい岩や玄武岩、花崗閃緑岩、砂岩泥岩互層がある。それらの間を京都府北部を東北東―西南西方向に延びる右横ずれ断層の上林川セグメントが区切る。

1:上林川 2:三峠 3:志和賀 4:樫原 5:亀岡 6:埴生 7:高槻
8:宇治川 9:佛念寺山 10:男山 11:北白川 12:井出
13:比良 14:南岸湖底の各活動セグメント
京都盆地の東側に花折断層帯の北白川活動セグメントがあって、東山の隆起山地と京都盆地を区切っている。東山の比叡山と大文字山の間には、中生代ジュラ紀の地層に挟まれて中生代白亜紀の花崗岩が広く分布している。花崗岩は浸食されやすく、白砂になって流れ出て、北白川扇状地を形成している。賀茂川の右岸から見ると比叡山と大文字が高く、間に低い峠が見える。昔、花崗岩ができたときのマグマに焼かれた岩石は硬いフォルンヘルスになり、比叡山と大文字山の高さを保つ。
川床に出て色まだ見ゆる東山 西村和子
東山の東側は近江盆地で、東山と琵琶湖の間に琵琶湖西岸断層帯の比良活動セグメントがあり、滋賀県西部、琵琶湖の西岸に沿ってほぼ南北方向に延びる西側隆起の逆断層運動がある。北部は比良山地の東縁、南部は堅田丘陵の東縁の活断層である。
亀岡盆地の南にあるのが有馬―高槻構造線活断層帯の高槻活動セグメントと、その東への延長の宇治川断層の宇治川活動セグメントである。宇治川断層の南には新生代第四紀の堆積層による平野が広く続く。高槻活動セグメントの南にも同じように新生代第四紀の堆積層による平野が広く続く。これら二つの平野の間に男山活動セグメントがあり、それは南の生駒活動セグメントにつながる。男山活動セグメントに沿って隆起する丘陵地帯がある。このような地形の構造で、このあたりでは淀川水系が狭く、琵琶湖から流れてくる大量の水が堰き止められて、宇治川断層の南の平野部に広大な巨椋池を形成していた。それが今の巨椋池干拓地になっている。
高い場所から見ると、丹波山地が広く平らである様子がわかる。これは隆起準平原と呼ばれる地形で、昔、海底で堆積して固まった岩盤がそのまま隆起した地形である。その隆起準平原が日本海の拡大で今の位置に移動してきた後に、現在の活断層運動が発生して断ち切られ、上下に動いたために山地や盆地ができて複雑な配置となった。
京都盆地の堆積層の下には北山から丹波山地の続きの岩盤がある。京都盆地の北の端から南へ、基盤岩の上面は地下に潜り、段々と深くなって、宇治川断層でさらに落ち込んでいる。巨椋池干拓地の地下では、基盤岩の上面は地表から約八〇〇メートルの深さにある。盆地の下の基盤岩は雛段の形となっている。
このような京都盆地の堆積層の中には豊富な地下水がある。その地下水を汲み上げて人びとは利用してきた。上質の水を求めて人びとが集まってきた。大陸から来た秦氏は七〇一年に酒の神で知られる松尾大社を建立し、続けて稲の神である伏見稲荷大社を建立した。その後、平安京が置かれ、さまざまな文化が生まれ育ってきた。茶を愉しむために懐石料理や酒や芸能が生まれた。それらを総合して、私は「変動帯の文化」と呼ぶことにした。
京都の地形と地下水に関しての総論はほぼ以上のようになると思うが、その物語にでてくる一つひとつを、例えば活断層帯の一つひとつを、これからしばらく、くわしく見ていくことにしたい。
しづかなる水は沈みて夏の暮 正木ゆう子