2023年度学位記授与式式辞
                               2024年3月19日
                              静岡県立大学学長
                                  尾池和夫
 

 2023年度、静岡県立大学大学院博士後期課程、博士課程を修了した10名の方々、博士前期課程、修士課程を修了した102名、5学部を卒業した609名、短期大学部卒業の104名の方々、修了、卒業、まことにおめでとうございます。
 静岡県立大学の役員、副学長、学部長、教職員とともに、皆さんのご卒業を心からお祝いいたします。あわせてご家族、保証人の皆様にも、お慶び申し上げます。
 今日の学位授与に至る数年間には、今日学位を得た皆さん自身のご努力の成果であることは言うまでもないことです。その上にご家族や友人のご支援やご協力がありました。先輩たちの活動の遺産と先輩たちからの励ましがありました。皆さんを見守ってきた本学の同窓会長山田さんも今日の式典にご参列くださっています。
 熱心にご指導くださった教員に深く感謝します。あるときは厳しかったこともあるでしょうが、基本的に学生のためにという信念で毎日の活動を続けてきていただきました。また同時に職員の皆さんに深く感謝しています。職員は忙しい教員と学生との間を取り持つインターフェイスの役割を担いつつ、大学の休むことのない活動を支えてくれています。もちろん専任の教職員だけでなく、非常勤の教職員、外部の委託先から派遣されて仕事している方も多く、物品や作業で校内いたる所で働く人びとがいます。その方たち全員のおかげで皆さんは世界的な感染症の流行にも負けずに、今日の卒業式を迎えました。
 この大学は設置から年月が経過して、老朽化した部分の多い施設を使用しています。それは誇り高き大学の歴史でもありますが、老朽化して日頃の教育と研究には不便な面も出てきています。大学の歴史を簡単に振り返ってみましょう。
 まず、静岡県立大学薬学部の108年の歴史があります。1916年、静岡女子薬学校が開学しました。それは1945年、静岡女子薬学専門学校、1950年、静岡薬学専門学校、1952年、静岡県立薬学専門学校、1953年、静岡県立大学静岡薬科大学となりました。1962年には大学院薬学研究科修士(博士前期)課程が設置されました。1987年(昭和62年)、静岡県立大学の開学に伴い、これらは静岡県立大学薬学部および大学院薬学研究科に組織換えされました。そして、1989年(平成元年)草薙キャンパスに移転しました。それから30年以上が経過しました。
 一方、1951年3月15日に静岡女子短期大学の設置が認可され、同年5月10日、静岡市北安東458において開学しました。私が今いる学長公舎のすぐ近くです。1968年3月30日、浜松市へ移り、1971年には食物栄養学科、1975年、第一看護学科、第二看護学科、1986年には静岡県立大学短期大学部を浜松市に設置しました。1986年(昭和61年)12月23日、静岡県立大学の設置及び管理に関する条例が静岡県に制定され、静岡県立大学が開学することになりました。2000年4月1日、短期大学部本部は浜松市から静岡市の小鹿キャンパスに移転しました。
 以上のような歴史の上に、静岡県立大学と静岡県立大学短期大学部の卒業生は、本日の学位授与を含めて合計30510名となりました。また、先ほど紹介した前身の大学には合計12165名の卒業生がいます。それらを合計すると、卒業生の総数は42675名ということになりました。これらの方々が本学の学位授与台帳に記載されています。
 皆さんの未来には急激な社会の変革が待っていると予想されます。今年度の入学式では私もChatGPTを利用して式辞を書いてみましたが、このようなAIの急激な進展は言語の世界にも経済の世界にも学術や技術の世界にも大きく影響します。さまざまな未来予測が論じられますが、人類の未来は大いに明るいと思いながら私は大学運営にあたりました。大学で学んだ皆さんも明るい未来を目指す人材としてご活躍されることを期待します。技術の進歩とよく言われますが、例えば最近ミャンマー産の約1億年前の琥珀から発見された蟹は甲羅の幅が2mm、脚の長さが5mmというサイズでした。人工の技術では今はまだそのような小さなロボットを作ることができません。また地球のような大きな物体を作ることもできません。やはり基本的には宇宙の神秘の中で、地球の恩恵によくしながら、人類は生命を維持していくことになると、私は思っています。
 皆さんもご承知のように、大学には自治の歴史があります。日本国憲法は学問の自由について第23条に「学問の自由は、これを保障する。」としています。1947年には教育基本法及び学校教育法が制定され、1949年には教育公務員特例法が制定されました。学校教育法は教授会を大学の管理運営の中心機関として規定し、教育公務員特例法は大学の学長・教員及び部局員の採用・昇任の選考・転任・降任・懲戒の審査等をすべて大学の管理機関が行うこととしています。これにより明治憲法では慣行上のものであった大学の自治は成文法によって承認されることとなりました。また、日本国憲法第19条の思想・良心の自由、学問研究結果の発表の自由は日本国憲法第21条の表現の自由にも含まれています。 学問の自由を具体的な姿で見せる一つが大学です。最高裁による東大ポポロ事件での判決でも、憲法23条について「同条が学問の自由はこれを保障すると規定したのは、一面において、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、他面において、大学が学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることにかんがみて、特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである。」としました。
 このような歴史の中で、皆さんが学習した大学では教授会で議論しながらさまざまな決定が行われ、制度改革が実行されてきました。皆さんが入学してから今日の卒業までにも多くの改善がなされたことと思います。本学にも同窓会ができて活動していますが、まだ現役の学生たちによる学生自治会はできていません。これも近い将来、本学の学生たちによってできることと私は期待しています。皆さんは卒業してからも、なおこの大学に関心を持ちながら、後輩たちを見守ってほしいと切望します。そのためにも同窓会に所属して未来に渡って同窓会に連絡を取ることをおすすめします。
 日本の大学には4つの種類があります。国によって設置される国立大学、都道府県市町村による公立大学、学校法人が設置する私立大学、そして株式会社の大学です。この中で公立大学は設置者の自治体の長である、本学の場合には静岡県知事、予算や条例などを定める静岡県議会、法的な判断をする地方裁判所などと連携して運営がなされる大学です。本学は静岡県議会が定めた定款によって設置されています。このような関係を示すために公立大学協会によって公立大学ガバナンスコードが定められており、県の定款によって大学の諸規定が定められています。
 これらの背景を理解しつつ、また一方では大学の自治、学部の自治を尊重し、県民の意思を理解しつつ私も理事長、学長として本学の運営を担当させていただきました。この4月から新しい理事長兼学長が運営に当たられます。その今井康之先生をご紹介します。
 学長の仕事はさまざまですが、公立大学の場合、地域への貢献という面が強いと思います。地域という言葉は定義が曖昧ですが、私は地域というよりは地元への貢献だと考えてきました。それには研究者としての専門の分野からの貢献もあります。私の前任の鬼頭宏先生は人口問題の研究者でした。私は地球科学が専門であり、防災の面でも45年前に山本敬三郎知事の顧問になったときから長期にわたって若者の教育に関係し、地震防災の関連、世界ユネスコジオパークの関連事業をお手伝いしてきました。今井次期学長は薬学分野でも貢献される方で、医療と並ぶ重要な分野の研究者でもあります。
 皆様の健康とご活躍を祈りつつ、以上で卒業式のお祝いの言葉とし、私自身のお礼の言葉といたします。
 ありがとうございました。


 2023年度静岡県立大学大学院 秋季入学式
                           2023年10月2日月曜日
                         静岡県立大学学長 尾池和夫
 静岡県立大学大学院博士後期課程にご入学の方々、まことにおめでとうございます。今回のご入学は、薬食生命科学総合学府薬食生命科学専攻、同じく環境科学専攻の方々です。静岡県立大学の役員、教職員を代表して皆さまをキャンパスに歓迎します。ご家族の皆さまにも、こころからお祝い申し上げます。
 皆さんはこの大学で、それぞれに未来に思いをはせながら研究を始める方々です。静岡県は最高峰の富士山、駿河トラフの深い海、豊かな大地の里山と都市を持っています。そのような大地を知って大学の将来を考えるために、私は地球科学者として静岡を観察しながら仕事をしています。皆さんも、大学の研究室での実験などだけでなく、大学のキャンパスとその周辺を観察しながら、研究を進めていただきたいと思います。また、学長室に学生さんたちが時々来られるのですが、それも歓迎します。
 先週金曜日に最終回を迎えたNHKの朝のドラマ「らんまん」では、論文博士の博士号を授与される場面がありました。それは1927年(昭和2年)のことでした。日本の博士の制度が生まれたのは1887年(明治20年)に公布された「学位令」によるものでした。法学博士、医学博士、工学博士、文学博士、理学博士の5種類の博士が設けられていました。今は博士一つになっています。さらに『牧野日本植物図鑑』が発表されたのは1940年(昭和15年)、博士が78歳の時でした。研究の集大成と言われている図鑑で、改訂を重ねながら現在も販売されています。この1940年は、私の生まれた年でもあります。
 皆さんの目標は、研究成果をまとめて博士の学位を授与されることです。順調に研究が進めば皆さんの学位は課程博士となります。大学院在学中に、研究と学習は当然のことですが、それだけに限ることなく、大いに広い視野でさまざまな体験をしていただきたいと思います。大学に一番必要であり、なかなか実現していないということを1字で表してほしいと、私は静岡県出身の世界的な書家である杭迫柏樹さんにお願いして大書していただきました。それは「遊」という1字で、はばたき棟の1階に掲げてあります。私は本学の学生さんたちに、何歳になっても大いに「遊」の精神を大切にしていただきたいと願っています。
隣の静岡県立美術館では間もなく、10月17日から「大大名の名宝」という特別展が始まります。細川家に伝わる文化財が展示されます。それもぜひ見に行っていただきたく、入学の記念に招待券を差し上げておきます。皆さんは学生証を提示して入館できます。また、静岡出身の映画監督、山本起也さんは今、静岡で映画を制作することを企画しています。先週土曜日には山本監督と本学の連携で特別講義が始まりました。そのような行事にもぜひ参加してください。
静岡市は今年、新静岡市が誕生して20周年を迎えました。その記念行事が11月4日土曜日に行われます。20年前頃に生まれた若者たちによるパフォーマンスという趣旨で、本学の「羽衣つたえ隊」のメンバー9名による新作劇「羽衣」が上演されます。そのような静岡市内のさまざまな行事にも興味を持って参加してみていただきたいと思います。

 皆さんは、静岡県というすばらしい環境の中で、これからの研究生活を愉しんでほしいと思います。専門の分野に限られた知識のみではなく、幅広い視野を持つ研究者としてあらゆる分野に対応できる人材としての博士号を取得して修了していただきたいと思います。在学の期間はあっという間に過ぎていきます。心身の健康に充分留意されて研究に取り組んでいただくように願って、私のお祝いの言葉といたします。大学院入学おめでとうございます。
ありがとうございました。


静岡県立大学内のハラスメント対策について
                              2023年6月9日
                          理事長・学長 尾池和夫
1 先日、公立大学協会と公立短期大学協会の総会に出席しました。この両方の総会において、文部科学省から挨拶があり、「大学におけるハラスメント防止の重要性」が強調されました。それぞれの総会には大学事務局長と短期大学部事務部長が出席していましたので、本学の対策の現状を確認していただくようにお願いしました。
  このことは、学生にとって充実した学習ができる大学であるということ、また教職員にとって楽しく仕事ができる明るい職場としての大学であるということの、いずれにとってもたいへん重要なことです。
2 「2022年を振り返り2023年を迎える」(2023年1月4日)の中で、私は「大学を良くしていくのは職員一人ひとりの提案と実行です」と申し上げ、「大学という職場が明るくなければならないと私はずっと思っています」、「快適に学び、研究し働く環境を実現したいと願っています。ハラスメント対策の精査と改善が必要です」と申し上げました。
  本学では、学生や教職員に対する様々なハラスメント対策を講じてきておりますが、
この機会にハラスメント防止の取り組みの改善を、あらためて強力にすすめたいと思っています。
3 大学においてハラスメントが起きることは、学生や教職員の心身を傷つける行為であり、大学全体の運営に悪影響を与えるという大きな問題があります。
  『静岡県立大学ハラスメントの防止及び対策に関するガイドライン』には、ハラスメントは、個人の人権を侵害する不当な行為であり、学生及び教職員、関係者の修学、就労、教育又は研究のための環境を著しく損なう行為として、決して容認できないものとあります。ガイドラインの続きにもありますが、本学はハラスメントに対して責任をもって厳しい姿勢で臨みます。まず、ハラスメントが「絶対悪」であることを十分に理解してください。
  本学には、『静岡県立大学教職員行動規範』などが定められています。ハラスメントのほか、研究倫理などへの意識などを含め、今一度下記を読んで、十分に理解していただくようお願いします。
 『静岡県立大学教職員行動規範』
  https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/guide/philosophy/conduct-code/
 『静岡県公立大学法人ハラスメントの防止等に関する規程』
  https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/media/kitei7-20210401.pdf
 『静岡県立大学ハラスメントの防止及び対策に関するガイドライン』
  『静岡県公立大学法人 懲戒処分の基準』
  https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/media/cyoukaisyobunnokizyun-20210916.pdf
 これらは、リンク先のファイルをデスクトップ等に保存しておいて読んでください。
  また、ハラスメントについて理解を深め、ハラスメントの問題を解決するために、ハラスメント防止対策に関する法令を読んでください。「解決するために」と書きましたが、大学の教職員には自分の考えを絶対視する人もいる可能性があり、そのような人がハラスメントの加害者になることもあり得ます。自分はハラスメントとは無関係だと思っている人も規定などを読んでくださいと念のために加えておきます。
4 ハラスメント防止に関する法令は年を追って改訂されており、国として対策を講じる必要があると判断されていることがわかります。
<男女雇用機会均等法第11条>
 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない、とあります。
<労働基準法>
  「労働基準法は、労働者が人たるに値する生活を営むための労働条件の最低基準を定める法律」として定められており、ハラスメント行為は労働条件の最低基準を下回る行為と扱われています。
<育児・介護休業法>
  育児・介護休業法では、企業におけるマタハラ防止のための具体的な措置を講じる法的義務を定め、企業に取り組みを行うことを明記しています。
<改正労働施策総合推進法>
  職場内のパワーハラスメントを防止する規定が盛り込まれていることから、パワハラ防止法と呼ばれており、全ての企業においてパワハラ防止法が適用されます。
5 ハラスメントの問題は、ニュースなどで大きく取り上げられており、社会的問題として認識されていますが、一般的に対策が完全ではないままに、ハラスメントが起きている現状もあります。ハラスメントの定義もいろいろと議論されていますが、要するに「嫌がらせ」がハラスメントです。加害者が無自覚であっても被害者がいます。被害者の心身喪失、職場環境の悪化を生むことが問題なのです。
6 ハラスメント対策を講じる必要性には異論がないはずです。大学として、社会状況に応じて防止対策の見直しを図るとともに、被害者の心身喪失の防止、職場環境の悪化防止、信頼喪失の予防などのために具体的な取り組みを進めます。
  以下に現行の本学の制度に従いつつ具体的な行動などについて述べますが、制度は常に見直し更新することも重要です。現行制度の不備などの問題点を指摘していただきたいと思います。他大学の優れた例をご存じの方はご指示いただきますようお願い致します。
 例えば一つの例として東京工業大学の場合のサイトを示しておきます。
https://www.titech.ac.jp/0/students/counseling/harassment
7 ハラスメントの被害を受けている方へ
  自分を責めることはありません。大学はハラスメントの被害を受けている方を全力で守ります。一人で悩まず、早めに信頼できる周りの友人や教職員に相談しましょう。また、本学には、ハラスメント相談員(教職員相談員・学外相談員)を設けていますので、ひとりで悩む前に相談してください。大学における申立て制度は煩雑なところもあるかもしれません。申立て制度にこだわらず、どうしたいのかをじっくり相談員とともに考えていきましょう。
  一方で一刻も早くハラスメント被害から逃げ出したい場合、自分の身を自分で守ることも重要です。例えばパワハラによる精神的苦痛はうつ病の原因の一つにもなります。  職場を新しく見つけることも解決策の一つです。学内での移動もあり得ます。大学はハラスメントの加害者となる人材は必要とせず、優秀な人財を失うことを防ぎたいのです。優秀な人材を守るための方法を、さまざまな観点から考えます。
8 ハラスメントを見かけた方へ
  ハラスメントを受けている方に、一言声をかけて、話をじっくり聞いてあげてください。そのうえで、頼りになる人に相談することやハラスメント相談員(教職員相談員・学外相談員)に相談することを勧めてください。
9 全教職員の皆さんへ
  自分の行っていることがハラスメントになっているかどうかを知ることが重要です。気づかずに加害者になっている多くの例があります。ハラスメントの加害行為は、本学における懲戒処分の対象になるほか、民事訴訟において損害賠償責任を負う可能性があります。行為の内容によっては、刑事責任を問われる場合もあります。自分の人生の未来に関わります。以下のウェブサイトで自己診断をしてください。ハラスメントの可能性があると実感することが基本です。その上で、その行為を今すぐ止めてください。
厚生労働省 あかるい職場応援団のサイト
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/check
人事院 セクハラチェック
https://www.jinji.go.jp/sekuhara/3rikaidochekku.html
全国大学生協連研究会報告
https://www.univcoop.or.jp/about/life/vol57-01.html
10 パワーハラスメントの典型的例
大きく6つの型があると言われています。
<身体的攻撃型(暴力)>
書類を投げつける。椅子を蹴る。机を叩き怒鳴りつける。
<精神的攻撃型(暴言や嫌味)>
業務とは関係のない嫌味や暴言。雇用不安。人格を否定。
「使い捨て人材」「給料泥棒」「のろま」など業務に必要のない発言
<人間関係切り離し型(孤立させる)>
無視。資料を配られない。会に呼ばない。
<過大要求型(終わらない仕事)>
遂行不可能な量の業務。不要な業務。個人の業務を妨害。
<過小要求型(仕事を与えない)>
経験や能力と離れた程度の低い業務。
「コピーだけ」「明日からこの業務から外れて」
<個の侵害型(プライバシーに立ち入る)>
業務とは関係なく私的なことに過度に立ち入る。結婚や交際について聞く。
しつこく連絡。画像を勝手に見る。セクシャルハラスメントになる場合も。
11 以上です。
  快適に学び、研究し働く環境を大学に実現するため、皆さまの積極的なご協力を、あらためて心からお願いいたします。


2023年度静岡県立大学入学式式辞
                            2023年4月7日木曜日
                          静岡県立大学学長 尾池和夫
 静岡県立大学短期大学部に入学の115名の皆さん、学部に入学の678名、大学院博士前期課程に入学の112名、博士後期課程に入学の21名の皆さん、ご入学まことにおめでとうございます。静岡県立大学の役員、教職員を代表して皆さまを歓迎いたします。ご家族の皆さまにも、こころからお祝い申し上げます。
 最近の10年を振り返ってみますと、2010年に9.7%であったスマートフォンの日本の世帯普及率が90%を超えることになり、今では世界人口の67%、約51億1,200万人がモバイルユーザーとなっています。また、世界人口の57%がインターネットユーザーとなっています。これからの世界では人工知能が利用されます。人工知能(AI)には、トレーニングによって特定の作業をする「弱いAI」から、汎用人工知能(AGI)、超人工知能(ASI)で構成される「強いAI」までがあり、近未来には実現することになるでしょう。
 すでに人工知能で卒業式の式辞を書いた学長もおられますが、本日の入学式に当たって私もAIを使うことを試みました。昨年11月に公開されたアメリカ合衆国のOpenAIが開発した、対話型AIであるChatGPTを用いました。これはすでに1億人を超えるユーザーが登録しています。
 まずChatGPTに次のような質問をしました。
「間もなく、静岡県立大学の入学式です。大学生に静岡県で学習するときに一番重要なことは何か、入学式で学長の式辞に加えたいのですが、どう言えばいいでしょうか?」
この質問に対してChatGPTの答えは次のように詳しい内容でした。
 「静岡県立大学の入学式、おめでとうございます。静岡県は、日本有数の豊かな自然と歴史を持ち、さまざまな魅力がある地域です。大学生活は、自己実現のための大切な時間であり、学生の皆さんにとって充実した学びと経験を積むことが求められます。
静岡県で学習するにあたって一番重要なことは、地域に根ざした視点を持つことだと考えます。静岡県には、独自の歴史や文化、産業、自然環境などがあり、これらを理解し、地域の課題に取り組むことが大切です。また、静岡県は、地震や台風など自然災害が多い地域でもあります。災害への備えや防災意識も、静岡県で学ぶ上で重要な視点の一つです。」
 ChatGPTの答えをそのまま読みましたが、いかがでしょうか。学長の仕事さえAIがやってくれる世界になったように感じます。
さらに次の質問を加えました。
「静岡県立大学に入学した学生が最初に何をしたらいいでしょうか」
AIの答えは次の通りでした。
 「静岡県立大学に入学した学生が最初に取り組むべきことは、大学のキャンパスや周辺地域の探索だと思います。大学には、図書館や研究室、教室など様々な施設があります。また、キャンパス周辺には、学生寮や飲食店、コンビニエンスストア、銀行、病院などがあり、大学生活に必要な様々な場所が集積しています。
 まずは、大学のキャンパスを歩き回り、大学生活に必要な施設や場所を把握することが重要です。また、キャンパス周辺の地域についても探索し、地域の特色や魅力を知ることができると良いでしょう。地域に根ざした学びや活動を通じて、地域社会との関わりを深めることができます。
 そして、大学には多くのクラブやサークルがありますので、自分が興味を持つ分野のクラブやサークルに参加して、学生生活を充実させることも大切です。同じ趣味や興味を持つ仲間と出会い、交流することで、学生生活がより豊かなものになるでしょう。」
 いかがでしょうか。実に良くできています。このまま終わってもいいような式辞です。人類の特徴である高度な言語による情報伝達と創造の能力は、科学と技術と学術と芸術を生み出しています。中でも技術は便利であるが危険を伴うものです。技術の成果を利用する場合に、国と企業の意思決定が間違うと取り返しのつかない事故を起こすという実例を、日本は福島第一原子力発電所の事故で学びました。国民が原発は危険だと思うといけないからという間違った理由で、科学者が予測していた大津波を防ぐ対策をしないと決めたために起こった事故でした。この事故について、ChatGPTの見解を読んでみます。「福島第一原子力発電所の事故は、それまでの地震対策を超える規模の自然災害であったため、現行の対策では不十分であったことが露呈されました。そのため、巨大地震の発生を予測していた地震学者の警告が十分に取り入れられなかったという批判があると考えられます。」というものでした。
 これからの私たちは、技術に対して正しく強くかつ倫理的に向かうことが必須であります。ChatGPTのように、人工知能の利用が急激に展開している今、きわめて慎重な対応が議論されています。皆さんも大学における学習の中で自らの考えをしっかり持って、人工知能に向かうことがたいへん重要であるということを改めて認識していただきたいと思います。文部科学省でも「ChatGPT」などの学校現場での取り扱い示す資料を作成する方針ですから、そのような社会の動きにも気を配っていることが必要です。
 念のために、先ほどの人工知能の式辞には具体的な内容が不足していますので、少し補っておきます。静岡県には最高峰の富士山、駿河トラフの深い海、豊かな大地の里山と都市があります。その大地の仕組が理解していただけるように、私も地球科学者として知の蓄積を紹介していきたいと思っています。学長ブログには「静岡の大地を見る」というシリーズがあり、静岡のことを地球科学者として紹介しています。
 この大学の隣には静岡県立美術館があり、多くの作品が常時展示されており、またさまざまな企画展が次つぎと開催されます。本学に入学された皆さんはこの美術館も無料で利用することができます。ロダン館にはロダンの「地獄の門」の彫像を中心として32体の彫刻があり、明るい大空間を歩きながらゆっくりと観ることができます。将来皆さんがどのような分野に進むとしても、必ず芸術やデザインのセンスが重要になります。人類の特長である芸術と学術の世界が連携することが重要であり、そのセンスを磨くために隣の美術館を利用してください。
 草薙キャンパスの上の方には、薬学部附属薬用植物園があります。薬学部での学習に必要な植物の栽培、収穫、研究を行いながら、広く一般の人びとなどにも生涯学習の場を提供することを目的に、1989年、静岡県立大学の開設と同時に設置されたもので、栽培植物約800種があります。一般にも開放しており、見本園、温室は見学自由です。
 小鹿キャンパスのすぐ近くには世界に知られている創業1946年5月8日の株式会社タミヤがあります。豊かな楽しさで、充実したホビーライフをというモットーで、優れた品質と積極的な技術開発で世界の模型ホビーをリードし続ける会社です。遊びと芸術とはあらゆる分野で未来を開くために重要な要素となります。
 学内では、短期大学部で子どもの遊びが研究されています。ホスピタルプレイという分野があり、入院して手術を受ける子どもが安心して手術室に入ることができる準備を病院内で実施する技術を日本全国に発信しています。
 本学の草薙キャンパスにある本部棟の1階の壁に「遊」の一文字を掲げました。「遊び」は人類の典型的な特徴の1つです。この「遊」という一字は、静岡県森町出身の世界的な書家である杭迫柏樹さんに書いていただきました。王羲之の研究家でもある彼は、中国でもよく知られています。富士山空港にある書も杭迫柏樹さんによるものです。
 学術の世界でも「何の役にたつか」ということが最初にあるのではなく、ひたすら面白いからという理由で研究が行われます。しかしそれが結果的にはいつか役立つことになります。私は20歳の頃、大学で知った地震学が面白くて固体地球物理学の世界に入りました。それによって今では静岡の大地の仕組みを理解していて静岡の方たちに説明するという点でも役立っています。
 静岡県には大きな港がたくさんありますが、その中の1つである清水港は、世界一の海底掘削調査を行う「ちきゅう」の母港になっています。南海トラフの海底も掘削して富士山から土砂が四国の沖にまで流れていることが実証されています。
 本学の卒業生の声を聞くと、さまざまなことがわかって私たちの大学運営にも役立ちます。昨年の学生から届いた意見の中に目安箱を設置するという提案がありました。酒井副学長が目安箱を自作してくれました。皆さんの大学は皆さんの授業料と静岡県民の税金で、教育と研究と社会貢献が行われます。これらを、予算を効率よく活かしながら実行するのが大学の運営です。大学をよくするのは皆さんの意見です。それを職員が活かすように仕事しています。
 皆さんが入学したこの大学の歴史を簡単に紹介します。静岡市葵区北安東に静岡県立城北高等学校があります。毎年この大学にも10名以上の卒業生が入学される高等学校です。1951年、その敷地に静岡県立女子短期大学が開学しました。それが本学の始まりです。その後、静岡県浜松市にキャンパスを移し、さらに1916年設立の私立静岡女子薬学校を源流として1953年に設置された静岡薬科大学、1967年に始まった静岡女子大学とを統合して、1987年(昭和62年)に静岡県立大学が発足しました。このように本学は永い歴史を持つ大学ですから、多くの卒業生たちが世界で活躍しています。そして同窓会を通じて、あるいは個人として、本学に多大のご支援が寄せられています。それが皆さんたちの奨学金となり、課外活動の資金となり、直接的、間接的に皆さんの学習の大きな支えになっています。このような本学の歴史は、人工知能はまだ語ることができませんでしたが、それでも今私が話したことの内容はすでに何らかの形でオンライン情報の中にあって、検索して確認できる状況です。今日入学した皆さんのご活躍で、人類の英知が技術とうまく連携するようになる未来が展開することを私は期待しています。
 皆さんは、静岡県というすばらしい環境の中で、これからの学園生活を大いに愉しんでほしいと思います。在学の期間はあっという間にすぎていきます。学習とともに大いに静岡県を歩いて、その魅力を世界に向かって発信する人となって卒業していただきたいと思います。心身の健康に充分留意され、学園生活を謳歌してくださるようにと祈り、私のお祝いの言葉とします。
 入学おめでとうございます。ありがとうございました。


 2023年3月17日 学位記授与式式辞
                        静岡県立大学学長 尾池和夫
 本日、学位授与された皆さん、おめでとうございます。静岡県立大学の役員、教職員を代表してこころよりお祝い申し上げます。ご参列のご家族の方々、友人の方々にもお慶び申し上げます。ご自分の努力に加えて、さまざまな方々からのご支援があって、学位授与となりました。長い道のりを思えば、さまざまな場面が甦えると思います。学位は人生においての努力の証明でありますが、その証明を宝物として、これからの人生の中で大いに活かしていっていただきたく思います。
 本日学位を得られたのは、大学院博士後期課程、博士課程を修了した1名、博士前期課程、修士課程を修了した18名、学部を卒業した636名、短期大学部卒業の108名の皆さんです。本日学士の学位を得られた多くの方々は、2019年4月に入学して4年の課程を修了しました。新型コロナウイルス感染症対策が続いた4年間でした。英語のパンデミック(pandemic)とは、世界的な規模で流行することを意味しており、人類の歴史上、天然痘、結核、ペスト、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などのパンデミックが数多く発生している中の一つを体験する4年間になりました。歴史上、最も致命率の高いパンデミックは14世紀の黒死病(ペスト)で、ヨーロッパで大流行し、当時のヨーロッパ総人口の約3分の1にあたる2500万人から3000万人の死者を出したとされています。
 今日の式典ではマスクをしなくてもいいということにしました。皆さんの中には初めて顔を見合わせている方もいるでしょう。また、3年半ぶりに顔を見せ合っている方たちもあることと思います。霊長類の中で白目を持っているのは人類だけです。その人類は2足歩行をすることで食べものを運び、分け合って一緒に囲むという習慣を持ちました。白目によってお互いを見つめ合い、食べものを奪い合うことなく食事を楽しむことになりました。それがなかなかできない状況がこの3年ほど続いています。
 今回のCOVID-19 pandemicは、2019年末から始まったSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2) を病原体として急性呼吸器疾患等を引き起こす新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックです。現代の人の交流が活発であることにより、全世界が感染症の危険に晒されました。世界規模でロックダウン、入国制限、行事の延期や縮小など、人類が経験していない事態が発生しました。ロックダウンなどの対策は、反グローバリゼーション、反民主主義的な側面を持つ政策でもあり、行動の自由は後退し、経済活動は縮小されました。世界の状況は一変し、生活のオンライン化が進み、外食、観光、運輸などオンライン化の困難な分野の廃業などが発生しました。ニューノーマルと呼ばれる人の活動の新しい形態へ適応が行われています。大学教育の進め方が急激に改革される中で教職員の献身的な努力が行われ、学生の皆さんの理解と協力のもと、高等教育の質を落とすことのないようにさまざまな工夫が行われました。それは社会全体の大きな経験でありました。
 SARS-CoV-2が研究途上のウイルスであるため、COVID-19ワクチンの普及以後も普通の風邪のように扱って良いか不明であり、今も事態は一進一退を続けています。長期間続く後遺症 (Long COVID)も懸念されています。そのような社会状況の中での本日の学位記授与式です。世界保健機関 (WHO) は、1918年のスペインかぜを超えるほどの人類史上最悪級のパンデミックという見解を示しています。皆さんは、今日を起点として世界のさまざまな場所で学習成果を活かしながら活躍することになりますが、そのすべてが人類史上初めての経験という舞台での活躍ということになり、それはそれで貴重な体験をする機会と前向きにとらえていただきたいと思います。
 それに加えて、ウクライナ国内は戦争状態が1年以上継続しており、多くの人たちが犠牲者となっています。トルコとシリアの国境近くではマグニチュード7.8の大地震など一連の地震による震災で多くの犠牲者があり、また多くの人びとが寒冷地で避難生活を送っています。静岡県立大学にもそれらの国からの留学生がいて祖国のことを案じながら学習しており、トルコからの留学生たちの呼びかけでは多くの皆さんからの支援が寄せられました。
 ロシアがウクライナへの侵略を開始して今年2月24日で1年となりました。アメリカ合衆国やヨーロッパ各国から支援を受けながらウクライナはロシアの侵略に抗戦している状況が続き、ウクライナの東部や南部では膠着状態が続いています。欧米の推計によると双方の兵士計約30万人が死傷、民間人2万人以上が死傷したとされています。
京都の神社には平和を願う180句の俳句が世界から寄せられて展示されました。〈地下壕に紙飛行機や子らの春〉という句は、戦闘が続くウクライナで避難した地下壕の中で、1人の若い女性が詠んだ句です。世界40か国から英語やフランス語などで平和へのメッセージが込められています。企画したのは黛まどかさんですが、私も呼びかけに参加して、〈向日葵や元は国境なき地球〉と詠みました。
 ところで本日学位を得られた方々の在学中の研究成果は論文の形で残され、人類の知的財産の一部として保存され活用されることになります。学位授与にいたる前にはそれぞれの部局で研究発表会が行われます。その例を挙げてみると、2023年2月10日(金曜日)、短期大学部こども学科卒業研究発表会が講堂で実施されました。こども学科では毎年、2年生が卒業研究に取り組みます。文献調査、フィールドワーク、実践研究、絵本などの制作と、多種多様な手法で課題に取り組んだ成果を発表しました。また、大学院看護学研究科修士論文発表会が本年3月3日に小鹿キャンパスで開催されました。そのプログラムでは、「要介護状態にある在宅高齢者の療養生活継続に向けた透析看護支援 黒田沙織(在宅看護学)」から始まって、看護技術学、成人看護学、精神保健看護学、「妊娠期の妻を持つ夫同士で語り合うことの体験 渡部紗季(助産学課程)」まで、興味深い13件の研究課題ががありました。
 また、本日博士学位を得られた方の論文から1つを紹介したいと思います。佐藤美紀さんの論文題目は「尿酸代謝に対する低糖質食摂取の評価」というもので、審査に主査は新井英一教授です。近年、高尿酸血症の人が増えていますが、その食事療法として1日のプリン体摂取量を400mg以下に抑えることが推奨されています。現在300品目の食品について含まれるプリン体量がわかっていて、それを元に食事に含まれるプリン体の量を推定できるようになりましたが、まだ一般的な食事についてのプリン体量は不明でした。この論文では、病院で提供される一般的な治療食などの献立と、社会的に普及し始めた低糖質食の献立に含まれるプリンタ体量を推定して評価しました。その結果、病院食が高尿酸血症患者に供する食事として適当であることと、健常者に対して提供される低糖質食の摂取には慎重に考慮することが必要ということがわかりました。
 本日、皆さんが得られた学位は、長い年月の学習と研究の努力によって得られた学位です。学位の名にふさわしい職場を得られ、学習し、また研究してこられた分野の知恵を活かしながら、これから世界の舞台で活躍していただきたいと願っています。本学が学位を授与した学位論文は静岡県立大学・短期大学部機関リポジトリに収録されます。リポジトリは,本学の学術研究成果を社会に還元し、学術研究や社会に貢献することを目的としています。本学の構成員が作成にかかわった電子的形態の学術研究成果を、附属図書館が網羅して収集し、蓄積し、保存します。それをインターネットを通じて学内外に無償で公開するシステムです。
これは電子化を進める取り組みの一つでもあります。本学もできる限り紙の使用を削減し、電子化を進める準備をしています。これからの世界は循環型社会をどのように構成するかということに関心がある社会になります。無駄を省くということが、あらゆる場面で課題となるのです。例えば、無駄な仕事をやめて働く時間を短くしつつ暮らしを豊かにするとか、無駄な食べ物を作らないようにしてゴミを減らすとか、無駄に資源を使わずに豊かな陸と海を守り、自然を大切にするというようなことが課題となるのです。国連の提唱するSDGsの目標を、一人ひとりが理解して何らかの行動をすることが、持続可能な社会の実現にやがてつながっていきます。
日本の内閣府の政策の中に、ムーンショット目標1があります。2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するという設定です。誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター 基盤を実現するのが目標です。2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築します。2030年までには、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築します。人の能力拡張により、若者から高齢者までを含むさまざまな年齢や背景、価値観を持つ人々が、多様なライフスタイルを追求できる社会を実現するのです。空間と時間の制約を超えて、企業と労働者をつなぐ新しい産業を創出することが目標とされています。
 世の中の進展によって皆さんが学習して得た知識は、近い将来、また学習を繰り返し、さらに学習を深めて生涯学習歴を更新していくことが、これからの世界では重要になります。本学も学習歴を更新するために貢献できる大学を目指して常に改革をしていなけらばならないと思っています。皆さんもこの大学を出て世界のさまざまな場所で大いにご活躍いただいたいと思っていますが、時には母校を思い出して、後輩たちの学習を見守ってあげていただきたいと思います。なにはともあれ心身の健康を保つことを第一として社会に貢献する人生を送っていただきたく思っています。
 皆さまの未来が楽しい未来であることをこころから願って、本日の式辞の結びといたします。卒業、修了、まことにおめでとうございます。ありがとうございました。


 2022年を振り返り2023年を迎える
                           2023年1月4日 尾池和夫
 2023年は癸卯(みずのとう)です。十干の10番目にあたる癸と、十二支の4番目にあたる卯の組み合わせで、十干十二支では40番目にあたる組み合わせです。陰陽五行説では、癸が水の陰のエネルギーを表し、卯が木の陰のエネルギーを表します。
 「癸」は雨や露、霧など、静かで温かい大地を潤す恵みの水を表しています。十干の最後にあたる癸は、生命の終わりを意味するとともに、次の新たな生命が成長し始めている状態を意味しています。
 「卯」は穏やかな兎の様子から安全、温和の意味があり、兎のように跳ね上がるという意味があり、卯年は何かを開始するのに縁起がよく、希望があふれ、景気回復、好転するよい年になると言われています。「癸」と「卯」の組み合わせから、これまでの努力が実を結び、勢いよく成長し飛躍するような年になると考えられます。
 昨年の正月には学長を兼ねる理事長に就任して大学のことが分かってきたと申し上げました。教職員のご努力、学生たちの熱心な取り組みがこの一年、継続的に行われており、役員、副学長、部局長の皆さんのご指導のもと、多くの成果をあげています。昨年指摘した問題点のいくつかはすでに皆さまのご努力を得て改善されてきました。それを元に、さらにこの大学が未来に向かって進んでいく方向についていくつかを今回はお話ししておきたいと思います。大学の持っている使命とそれにもとづく仕事は、教育、研究、学生支援、社会貢献、国際交流、大学運営です。それらの項目ごとに私の現在考えていることをお話しいたします。
 教育に関しては、昨年新学部の構想を発表し、学内にそれを進めるための委員会が発足しました。本格的に全学のご協力を得て実現を目指したいと思っています。県立大学の場合には県の将来構想との調整ができてから文部科学省との折衝という手順になります。現在県庁の大学課で検討が進められており情報交換しながら進めてまいります。川勝知事にはすでに生涯健康科学という基本テーマを話してご理解いただいています。
 2023年度には教育の認証評価を受けることになっており、現在それに先だって自己評価書をまとめるための仕事を進めていただいており、県に届けている中期目標と関連させながら計画の実現に取り組んでまいります。
 電力料金の高騰が計画の進展に阻害要因となっており、さまざまな部分での予想以上の節約をお願いする状況になっていますが、節約して教育の質が保てない状況にならないように、知恵を絞って行かなければなりません。この点に関して皆さまのご協力を特にお願いいたします。
 大学コンソーシアムを通じて新しいプログラムの提供も考えられています。また大学コンソーシアムの全国大会が静岡で今年開催されます。それらにもご協力をお願いします。
 研究に関しては、この一年も各分野毎に多くの成果をあげていただきました。それらが大学のウェブサイトや新聞紙上を飾っております。県民の皆さんにこれらの研究成果を具体的に理解していただけるよう、広報の仕組みをさらに整えていくことが重要です。
 グローバル地域センターでは昨年の4月に自然災害研究部門が発足し、幅広く自然災害に関する研究を進めていくことになりました。熱海の災害、台風による災害が発生し、自然の驚異を目のあたりにしながらのスタートですが、着実に活動を始めており、ますます研究体制を充実させていくつもりです。
 具体例では私自身も県内の微小地震の発生状況の分析を進めており、南アルプス地域と富士山地域の浅い地震の発生に関して異常に増加している現象があることを注視しながら専門家仲間と議論しています。
 教育のことと重なりますが、大学全体を見渡しながら研究機構を組織化することが必要であると思っています。その中でグローバル地域センターも正式に大学の中に繰り込み、現在の特任教員が専任教員となって大学院生を直接教育できるように改革していきたいと思っており、この方針を知事にもご理解いただいていて実現の方向への取り組みを始めています。
 学生支援に関しては、学生の意向を把握できる体制が必要で、昨年4月からは学生担当の副学長を置き、すでにさまざまな重要事項を扱っていただいています。学生自身による自治会活動が進展することを強く望んでおりますが、すでにそのような活動の必要性を考えて積極的に取り組んでいる学生自身の活動があります。これを重視して見守っていきたいと思っています。
 今年は学生担当の副学長のもとで奨学金、さまざまな負担の免除の実現などを含め、キャンパス全体の機能の整備など、細かい視点を持ちながら取り組んでまいります。引き続き皆さまのご理解とご支援をいただきたいと思います。学食の充実も大きな課題ですが、おかげさまではばたき棟での食堂の再会も実現し、私も毎日メニューを一つずつ体験しながらお世話になっています。
 昨年には学生広報大使を任命することができました。すでにウェブサイトなどでも見られる活動が行われており、市民との交流、オープンキャンパスでの活動などが活発に行われております。学内の研究などでの人手不足を補うためのアルバイトでは学生が活躍しておりますが、大学運営の面でも職員の補助業務にさらにたくさんのアルバイトを学内から採用していただきたいと思います。公務員に準じる立場で守秘義務がありますから、情報が漏れるなどのご心配は不要です。
 大学の役目の一つである社会貢献に関しては、県立大学の立場上これを地域貢献と呼びながら進めてまいります。昨年には第27回の健康長寿フォーラムが渡辺副学長の活躍で開催されました。特に安全と健康で長寿の県を目指すということに重点を置いて酒井副学長の基調講演もありました。これからは本学が中心となって少し形を見直しながらこのフォーラムを続けて行きたいと思っています。
 その他、社会人向けの講座など、さまざまな取り組みが学内のそれぞれの分野で行われており、私も時に応じて参加させていただいております。行事に参加した方たちからたいへん高い評価を得ており、生涯を通じて学習歴を更新するという世の中の流れの中でも地域貢献は重要な分野であると思っています。大学コンソーシアムを通じても生涯学習に対応するプログラムが用意されるといいと思います。
 大学の成果を少しでも一般の方々に見ていただきたいと思います。さまざまな行事が実行しにくい状況が続いてはいますが、ウェブサイトなどでの広報活動がずいぶんうまくできるようにご努力を続けていただいています。さらに例えば草薙キャンパスから富士山を見るライブカメラを設置することによって常時多くの目が県立大学のウェブサイトにアクセスしてくれることも期待できると思っています。
 国際交流は、感染症の影響を受けて困難な状況が続く中、教職員のたいへんなご努力で少しずつ進展しています。COILの取り組みは大きな成果を生みつつ一応一段落してまとめのシンポジウムが行われましたが、引き続きこの成果を活かして新しい取り組みを始めることになると思います。
 また、国際交流の一助にと留学生のための宿舎ができて、杭迫柏樹さんに「富学寮」という書をいただいて額装掲示しました。
 中央図書館の移転計画も進んでおり、その跡地を本学が利用して国際交流会館を建設できるようにしたいと思っています。知事にはすでにこの方針を了承していただいており、富沢副学長に担当していただいて正式に将来計画を検討することにします。中央図書館のご協力を得て図面などの資料をいただいており、それらを基にして計画を具体化していきたいと思っています。
 大学運営に関しては、昨年4月以来一本化した新しい事務組織の中で皆さまのご協力のもとに仕事が進んでおります。現在、仕事の見直しを進めることに取り組んでいただいており、さまざまの制度、規定などを精査する仕事も進んでいます。昨年もたくさんのご意見を寄せていただきましたが、業務の見直しや改善に関連してお気づきのことがあれが大小を問わず、引き続きご教示いただくようお願いします。
 大学は教職員の努力と活躍によってはじめて機能を発揮する組織です。そのためには人財の確保が必要です。プロパー職員の採用も毎年進めており、現在27名のプロパー職員に、すでに各部署で活躍していただいております。引き続き採用を進めてまいります。
 学生が大学でまず接するのは職員の方々です。そこでの対応が一人ひとりの学生にとってはこの大学の印象となって残ります。職員は学生と大学の間の重要なインターフェイスの役割も持っています。そのことを常に念頭に置いて、学生に対して親切な仕事をしていただいたいと思います。
 大学の良くしていくのは職員一人ひとりの提案と実行です。それが何よりも重要だと私は思っています。一口に「提案」と言っても、ボトムアップの提案が実現する機能と組織力がこの大学にはまだ充分にはできていないと思っています。予算がない、人手がないと否定することなく、どんな提案であってもお互いが注目して前向きに受け止めて聴いてほしいと思います。基本的に学生のためという提案であれば必ず役立つ内容があります。
 優秀教員の表彰も行いました。もちろん教員の研究業績にもとづく教育も学生にとって重要ですが、それを具体的な形に見せていくのが職員の仕事です。
 仕事に必要な人材の確保は重要で、限られた人件費の中でのやりくりは人事の進め方を拝見して私も常に注目しております。繰返しになりますが、広報大使の充実と活用など、学生の仕事への起用をお願いしたいと思っています。学生が履歴書に書けるような形での仕事の頼み方を工夫してください。
 大学という職場が明るくなければならないと私はずっと思っています。少なくとも学長室に来られた教職員には、とにかく笑顔で退室していただくという目標を立てて実行しています。笑顔と笑いが大切だと私は信じています。ハラスメントのない職場がまず基本で、その上に次のステップです。快適に学び、研究し、働く環境を実現したいと願っています。ハラスメント対策の精査と改善が必要です。
 全学の同窓会が山田会長を中心に活動し、さまざまな同窓会も活動していただいてます。大学を支える大きな力として、ますますの活動が期待されます。また、各同窓会からの大学への具体的なご支援もいただいています。さらに同窓会の支部が、例えば大阪支部というよう組織化ができるといいなと感じることがあります。
 大学全体の会議の議事録を公開し、常に教職員学生も読めるようにして、決定事項などを共有できる仕組みが必要で、かなり実現してきています。年頭の私の挨拶がどこまで伝わっているかを確認したいと昨年申し上げて、多く方々から熱心な反応をいただきました。今年もご意見など、簡単に下記の学長宛メールで送っていただきたく存じます。
 president@u-shizuoka-ken.ac.jp
 心身の健康に十分留意していただきながら、この一年を楽しく過ごしていただきたいと願っています。ありがとうございました。


 2022年度小鹿キャンパス防災訓練挨拶     2022年10月27日 尾池和夫
 2022年度の小鹿キャンパス防災訓練に参加して、見事な活動をしていただき、ありがとうございました。そしてご苦労様でした。
 今日は大学だけでなく、消防署など多くの方たちが地域から参加してくださっています。ありがとうございました。
 静岡県は健康で長寿の県と言われています。私はそれに安全を加えて、安全と健康で長寿の静岡県と言えるようにしたいと、最近の川勝平太知事との対談でも話しました。静岡県立大学ではそのためにグローバル地域センターに今年度から自然災害部門を発足させました。また近い将来には生涯を健康で暮らすことをテーマとする新しい学部を設置する準備を進めています。
 2011年の巨大地震、東北地方大洋沖地震は強い地震動を発生しましたが、その地震動が伝わった静岡県でも、南アルプスの地下や富士山の地下などに大きな影響を受けており、小さな地震の発生頻度が目立って高くなったまま現在も収まっていないために私は注視しています。また近い将来には南海トラフの巨大地震の発生が確実と予測されており、そのための備えが進められています。さらに富士山は噴火する時期がすでに過ぎているという研究結果が発表されています。
 本日の訓練で想定した地下の自然現象だけでなく、地表では水害や土砂災害がたびたび発生しています。台風による風水害、竜巻の被害もあります。
 静岡県には危機管理部があります。大規模地震が起こったとき強い揺れから命を守る必要があるという国に、私たちは暮らしています。日本には、建築基準法があって、公共施設から庫まで、建築に関する決まりがあります。その中に「地震地域係数」という項目があって普通の地域で「1.0」です。東京都では「1.0」、地震が少ないといわれている沖縄で「0.7」、静岡県も国で定めた法律上は「1.0」ですが、県はこの数字を独自に「1.2」に引き上げています。
 この小鹿キャンパスは、地震でかなり揺れやすい地盤であり、地盤が液状化する可能性がやや高いと予測されている地域です。その上に近い将来、震度6弱以上の強い揺れが起こる確率が非常に高いと予測されている地域に、このキャンパスがあります。実際にそのような強い揺れが発生したときには、今日の防災訓練を思い出しながら落ちついて自分の命を守る行動をとってください。その時に今日の経験が役立ちます。
 静岡県には「地域防災の日」があります。12月7日のこの日は、県内全市町で防災訓練が行われます。朝、地震と津波の発生を伝える緊急速報メールの配信訓練、炊き出しをしたりテントを張ったり、災害時に地域防災活動の担い手として期待される中高生も積極的に参加しています。学校では年に数回、大地震が来たことを想定して避難訓練を行います。今日の小鹿キャンパスでの訓練だけでなく、家にいたときや街中にいたときの地震発生に備えて、各地域の防災訓練にもぜひ参加してください。また、自宅の中と近くを観察して、防災意識の視点でいろいろと点検しておいていただきたいと思います。
 東日本大震災の後、海のそばの高い建物が津波避難ビルとなりました。避難方法が書かれた看板が目立つようになりました。いつ起こるかわからない自然災害に対し、常日頃から静岡県に住む人たちのひとり1人が、正しい知識をもとに災害に備える、そのような県になることを静岡県は目ざしています。
 ところでこの防災訓練の最後には防災食の配布というプログラムが組まれているはずです。教育棟のアンケートを提出していただく場所に用意してあると思います。その備蓄用の防災食を新しいものに交換する機会です。ぜひ味を見てご批判ください。先日の断水の時にも備蓄したある水を配布してたくさんの方に持ち帰っていただきました。防災食もとても美味しいものがそろっています。それも含めてこの防災訓練が厳しい中にも楽しい面があるという恒例の行事になってほしいと私は願っています。
 本日の防災訓練が実際に役立つときが来ないことを祈ってはいます。しかしもし発生したときには今日の経験が役立つということを願って、防災訓練の私の講評といたします。
 ありがとうございました。


 2022年度秋期大学院入学式式辞
                              2022年10月3日
                                 尾池和夫
 2022年度秋期、大学院博士後期課程薬学専攻の1名、薬科学専攻の1名、薬食生命科学専攻の1名、食品栄養科学専攻の1名、4名の方々に心から入学のお祝いを申し上げます。ご列席の副学長、研究院長、学府長、教職員とともに本学へのご入学を歓迎いたします。
 皆さんにとって、この大学院は学問をするところです。大学院で学習することは実に楽しいことです。今まで知らなかったことを学び、今まで出会わなかったことを体験し、誰も知らないことを発見するために研究することほど楽しいことはありません。若きアレクサンドロスが、「もっと易しく学習をすることができないのか」と先生に文句を言ったとき、アレクサンドロスの師アリストテレスが言った短い言葉が知られています。それは、「学問に王道なし」という言葉です。この言葉で諭したアリストテレスは優れた師でありますが、この一言で悟ったアレクサンドロスこそ、私は実にみごとな学徒であったと思っています。
 令和4年台風第15号は、2022年9月23日9時、室戸岬の南で発生した台風で、アジア名は「TALAS」です。この台風は「雨台風」で、勢力はあまり強くなく、最低気圧は1000hPaでした。この台風が日本に接近した影響で、静岡県などでは9月23日夜から24日朝にかけて記録的な大雨となりました。そして9月24日9時、温帯低気圧に変わりましたが、関東や東北南部などでも激しい雷雨となりました。23日夜から24日未明にかけて、静岡県内の11市町に、記録的短時間大雨情報が32回発表されました。
 台風15号に伴う大雨等の影響により、静岡市清水区の興津川承元寺取水口への土砂や流木の流入などによって、水道施設が被害を受け、清水区の広範囲で断水が発生しています。この地域で発生している断水は、10月2日から通水を開始し、10月5日には飲用可能となることを目指しています。
 静岡市は、川の水と地下水の2種類の水を水道水として使っています。川の水には、表流水と伏流水の2種類があります。清水区の興津川には表流水をとる取水場があります。伏流水を取るためには多孔管を用いて牛妻(うしづま)水源地で水をとっています。静岡地区で水道ができた当初から水をとっていて、静岡地区の水道水の約3分の1の水量をまかなっています。さらに地下50~100メートルにある地下水もポンプを使って揚水しています。
 日本のように水道水をそのまま飲める国は世界中にあまり多くありません。世界には約200の国がありますが、水道水をそのまま飲める国は、国土交通省の2021年度版「日本の水資源の現況について」によると12か国しかありません。その上、静岡市の水道水は全国的にも美味しいと言われています。水道水の元になる水がきれいだからです。地下水はもちろんですが、表流水を取水する興津川もアユ釣りが盛んです。伏流水を取水する安倍川は、平成の名水100選に選ばれています。
 天然水には軟水と硬水があります。含まれるカルシウムとマグネシウムの含有量が多いものが硬水、少ないものは軟水に分類されます。味や舌触りに違いがあり、料理の仕上がりに影響を与えます。真水とは塩分が混ざらない水という意味です。水道水も真水と言って差し支えありません。日本の水道水は厳格な水質基準が定められており、美味しい水と言われます。塩素などの匂いが気になる場合は沸かして冷まします。
 地球の水の総量は約14億立方kmと言われています。そのうち97%が海水で、淡水は残り3%に過ぎないのです。地球表面の淡水のほとんどは氷河や氷山として固体の形ですから、淡水湖、河川水、地下浅水など、人間が直接利用可能な水は総量の1%未満です。飲料水として利用できる水はさらに少ないと言えます。海水は天然および人工の汚れを合わせて、高濃度に汚染されているため資源としての利用価値はありません。
 地球における継続的な水の循環は水循環と呼ばれ、太陽からのエネルギーで、固相、液相、気相の間で相互に状態を変化させながら、蒸発し、降水し、地表流となり、土壌へ浸透します。そして地球上を絶えず循環しています。この循環の過程で地球表面の熱の移動に貢献し、浸食、運搬、堆積などの地形を形成する作用をしています。
 人体における水分量は新生児で約80%、成人で60%前後、高齢者は50%台です。人体の水のうち45%までが細胞内の水で、残り15%が血液、リンパ液など細胞の外にある水です。これが体液です。1日に排出される水の量は体重60kgの成人男性で2500mLであり、飲料水から1200mL、食物から1000mLが摂取され、残りは体内の代謝の結果生じた水を300mL得ています。
 世界各国の政府、国際機関、学識者、企業及びNGOにより、包括的な水のシンクタンクとして「世界水会議(WWC)」が、1996年(平成8年)に設立されました。このWWCにより運営される「世界水フォーラム(WWF)」が3年に1度開催されます。地球規模で深刻化が懸念される水問題に対しての情報提供や政策提言を行う場となっています。第9回世界水フォーラムは、2022年3月21日~26日、セネガル(ダカール)で開催されました。第3回世界水フォーラム開会式における当時の皇太子殿下の記念講演がたいへん内容の濃いもので印象に残りました。そこでは琵琶湖と淀川の水運について,平安京ができる8世紀末から15世紀頃までの様子を概観しています。またオックスフォード大学へ留学していた時のテムズ川の船旅の経験から川に対する親しみを覚えていると話しています。現在の天皇ご夫妻は静岡の大井川の伏流水による酒をたいへん高く評価しておられます。
 「21世紀は水の世紀である」と言われています。水は世界のすべての人や動植物と共有されています。協力し合って水を保全していくことが重要です。海洋、河川、湖沼などさまざまな水が汚染された20世紀への反省から、21世紀は世界全体が水を守っていく時代でなければならないと言われています。
 そもそもH2Oのみの水は化学式でしか存在しません。現代の技術でH2Oにかなり近い水ができています。それは超純水や純水で、半導体や液晶などの製造現場、医療、科学実験などで使われます。今日の入学を機会に、皆さんもこの水の問題を、ご自分の従事する研究分野の視点から考えながら、学業に、そしてキャンパスライフに、大いに楽しい毎日を送っていただきたいと思います。くれぐれも心身の健康に留意しながらのご活躍を祈って、入学式の式辞といたいます。
 ご入学おめでとうございます。ありがとうございました。

 


 2021年の成果と2022年の方向について(教職員の皆さまへ年頭挨拶)
                           2022年1月4日 尾池和夫
 2022年、明けましておめでとうございます。今年は壬寅(みずのえとら)の年です。壬は妊娠の妊の一部で「生まれる」、寅は演が由来で、人の前に立つや、演と同じ読みで「延ばす、成長する」という意味を持っています。また、2022年は、36年に一度の「五黄の寅(ごおうのとら)」です。十二支と古代中国の民間信仰である九星(きゅうせい)を組み合わせたもので、九星の「五黄土星」と十二支の「寅」が重なる年です。この年の方は「強い正義感と信念、行動力」を持っています。
 昨年4月に学長を兼ねる理事長に就任して、少しずつ大学のことが分かってきました。教職員のご努力、学生たちの熱心な取り組みが行われており、それぞれに大きな成果をあげています。一方、私の視点から、さまざまな問題点にも気がつき始めました。
 以下にそれらを紹介します。それによって2022年の年頭の挨拶といたします。順不同のメモ書きです。この内容は、後ほど教職員の皆さまに送ります。
●短期大学部の将来について
 4年制の新学部を発足させたいと思っています。生涯健康をテーマとします。それにともなって短期大学部は廃止します。
●教育の連携のこと
 例えば、東海大学の「駿河湾学」と連携できないかと考えています。大学コンソーシアムで多くの大学が生涯学習に対応するプログラムを用意できないかとも思います。
●学生のキャンパスライフについて
 生理用品の支給方法を考えていただき、実現した結果、国公立大学で初という大きなニュースとなりました。取り組んでいただいた教職員、学生に感謝します。
●教室などの改修について
 かなりの予算をつぎ込んでトイレの改修を進めています。事務局のご努力に感謝しています。さらに年度末に向かい予算をやりくりし、来年度計画の前倒しとして、学生ホール、学食や教室の設備、ハイブリッド型教室の整備などを行います。
 小鹿ではハンドドライヤーの使用を再開しました。草薙キャンパスにも設置してほしいと思います。自動水栓方式も含めて、今後の改修では視野に置くようにしてほしいと思います。
●職域接種の努力
 2回目の接種までを多くの教職員のご協力で実施できたことに、あらためて感謝し、さらに3回目の接種の準備をお願いします。
●学生のためのオフィスアワー
 学長室のオフィスアワーを設けて学生と直接話す機会を作りたいと思っていますが、まだ実現していません。ご意見を伺いたいと思います。
●式典の改善について
 学位授与式、入学式をキャンパスで実施する方向を検討してほしいのですが、そのためには中期的な計画が必要です。
●学生のキャンパスライフの支援
 学生代表が大学に対して意見を言える仕組みが育つことを願っています。学生部担当職員の支援が必要です。課外活動を支援する機能、学生部の機能を充実させたいと思います。
●学生食堂の計画
 酒井副学長はじめ熱心に取り組んでいただき、キッチンカーの導入などが行われており、感謝しています。食堂とその周辺整備に予算を投入します。小鹿では椅子とテーブルを増設しました。地域の人たちとの交流の場としても活用できるといいと思います。
●ウェブサイト(ホームページ)と資料の記録について
 今年度に入って、幾つか改善をお願いして迅速に対応していただき感謝しています。さらなる改善が必要です。
 例えば、寄付をお願いする案内がトップから見えません。新型コロナウイルスによる感染症にともなうご支援だけは、トップにはないですが、一応出てきます。一般的な寄付の
●アーカイブの機能の充実
 大学の歴史、式典の記録、式辞の保存など多くの課題があります。評価に活かせるアーカイブのシステムを組むことが大切で、酒井副学長を中心に考えていただいています。
●奨学金の獲得
 渡し切りの奨学金をたくさん持っているのが強みです。これらをさらに増やすことが必要です。各部局の特徴を活かして増額の努力をさらに進めるよう願っています。
●校歌(学歌)と学園歌
 歌詞だけが掲載されていますが、曲にリンクを張り、楽譜を公開したいと思います。さらに新しい学園歌があったほうがいいかもしれません。
●教員の活動さまざま
 新聞を通して知る活動もあり、論文を通して拝見する内容もあり、また直接ご報告いただく場合もあります。本学の教員や院生のご活躍を頼もしく思っています。例えば、細川光洋教授の発見が、「恋せよ、少女こゝから「ゴンドラの唄」初出判明100年越しの謎解ける」という見出しで、2021年12月10日の中日新聞1面のトップ記事になりました。トップ記事になることはめったにない快挙です。
 県民の皆さんに、静岡県立大学の先生で、名前をご存じの方はどなた? とときどき聞いてみるのですが、あまり答えがありません。もっと知られていていい研究者がたくさんおれれます。
 英語の論文が基本であっても、その内容を分かりやすい日本語にして広報することにも、さらなる努力をしていただきたいと思います。
●教員の公募などの人事
 今井副学長の恒常的なご努力で教員人事が進んでいます。何と言っても人財の確保です。公募を原則とする方針ですが、内部昇任の制度もうまく活用して、さらなる人財の確保に努めていただきたいと思います。
●産学官連携について
 教育研究審議会外部委員の酒井公夫氏の発言で、企業人の考える静岡の企業の魅力と、就活する学生の言う静岡の企業に魅力がないと言う「魅力」の意味が食い違っていると言われました。企業人と学生が直接話せる機会がほしいとも言われました。インターシップの在り方などを考えたいと思います。
●健康安全フォーラム
 渡邉副学長のご努力で第26回のフォーラムが無事に完了しました。健康で長寿という考えにプラスして、安全というキーワードを入れようと提案しました。大学の研究機能の中に自然災害を取り込むことを具体化して、この健康フォーラムに安全の部門からさらなる参加を求め、健康と安全で長寿の静岡県を実現したいと思います。
●静岡で推進したいこと
 ホスピタルプレーの拡散、ホスピタルアートの採用、日陰を生み出すフラクタル構造の屋根、政府のビッグデータを県民のために翻訳広報する仕組みなどを静岡で実現したいと思っています。地震火山予報士の制度化、終末期医療の課題への挑戦、ACP(Advance Care Planning)の課題なども自治体で取り組みができる課題です。
 わが国では人生の最終段階の医療に関して、口頭で意思表示をしている人は約7割ですが、リビングウイル(LW)として書面に記している人はわずか2~3%に過ぎず、欧米と比較して一桁低い状況です。そもそも日本人は自身の終末期医療に関して自己主張をあまりしません。
●資源とごみについて
 今年度に入って、シュレッダーをやめて溶解する方向へ切り替えていただき、感謝しています。なお一層、紙を減らす取り組みが2022年の目標です。SDGsを中身のある行動に結びつけて行くことが大切です。
●理事長と学長の一体化にともなって
 事務組織の改革に、法人の坂田参事を中心に取り組んでいただき役員会で決定できました。たいへんなご努力のたまものであり、感謝しています。今年は、職務の内容の精査に進みたいと考えています。
●コンプライアンス
 理事長を見る眼の制度化が必要です。理事長から見る教職員のコンプライアンス制度の検討が必要です。県には詳細のガイドラインがあります。
●大学を守るのも、改革するのも職員の力です。
 プロパー職員の一層の活躍を支援します。積極的な提案を実現するためには熱意と能力とが必要です。今年度初めて実現しましたが、35歳以上のプロパー職員もさらに導入したいと思います。SD研修では、積極的に大学運営に発言する職員の養成を視野に置く必要があります。
●風通しのよい職場、安全で快適で、かつ楽しい職場を目ざしています。
 学長室に来た教職員には、とにかく笑って退室していただくという目標を立てて実行しました。笑いが大切だと私は信じています。ハラスメントのない職場がまず基本で、その上に次のステップです。快適に学び、研究し、働く環境を実現したいと願っています。ハラスメント対策の精査と改善が必要です。
●FD研修の内容の検討が必要です。
 教員の会議で、コミュニケーションがうまくできていない現象に出会うことがありました。社会性の欠如があると、重要な事項の審議に支障となることもあります。FD研修では、基本的な社会人の知恵を身につけるワークショップを導入することが必要であると思いました。
●留学生のための国際学生寮について
 ようやくできて、富沢副学長を中心に運営方法が整備されています。海外との交流が中断していても、日本人学生だけでも募集していただくようにしました。
●国際交流について
 さらに積極的な展開が必要です。COILの後の企画も重要です。個別の交流協定の活発化と見直しが必要です。
●長期の将来計画
 国際会館、ミュージアムショップ、研究所群の組織化、シアター、ダイバーシティーカフェなどを視野に置いて将来計画を考えます。
●同窓会活動
 全学の同窓会が発足して山田会長が就任しました。これからの活動が期待されます。また、各同窓会からの大学へのご支援もいただいています。
●情報の伝達について
 大学全体の会議の議事録を公開し、常に教職員学生も読めるようにして、決定事項などを共有できる仕組みが必要です。教職員はそのことを意識して、当然の権利として要求する風土、文化を養うことも、一方で重要です。当面、今日のこの挨拶がどこまで伝わるかを、これから確認してみたいと思っています。そのために、この記事を読んだということだけでも、また、ご意見があればそれを、簡単に、下記の学長宛メールで送っていただきたく存じます。
 president@u-shizuoka-ken.ac.jp
●心身の健康に十分留意気を遣いながら、この一年を楽しく過ごしていただきたいと願っています。
 以上です。ありがとうございました。


 2021年度 秋期卒業式、学位授与式式辞
                             2021年9月28日
                        静岡県立大学学長 尾池和夫
 今日、学位授与された皆さん、おめでとうございます。静岡県立大学の教職員を代表してこころからお祝い申し上げます。皆さんそれぞれのご家族にもお慶び申し上げます。ご家族や友人たちの支援があって、また皆さんご自身の努力があって、今日の学位授与となりました。学習の長い道のりも思い出せば、きっとさまざまな場面での楽しいことが甦ってくることでしょう。今日得られた学位は、一生の宝であり、また宝であるようにこれからの人生で活かしていただきたいと思います。
 これからの世界は循環型社会をどのように構成するかということに関心があることになります。無駄を省くということが、あらゆる場面で課題となるのです。例えば、無駄な仕事をやめて働く時間を短くしつつ暮らしを豊かにするとか、無駄な食べ物を作らないようにしてゴミを減らすとか、無駄に資源を使わずに豊かな陸と海を守り、自然を大切にするというようなことが課題となるのです。国連の提唱するSDGsの目標を、一人ひとりが理解して何らかの行動をすることが、持続可能な社会の実現にやがてつながっていきます。
 今回の卒業式、学位授与式で学位を得られたのは、国際関係学部の4人の方、大学院博士後期課程薬食生命科学総合学府修了の3名の方、薬食生命科学総合学府に論文を提出して博士学位を得られた1名の方、合計8名の方々です。
 このうち博士学位取得の方々の論文審査報告を私も読ませていただきました。薬科学専攻の八幡憲治さんは、単一生細胞質量分析法を用いた研究をされ、同じく横山匡さんは、脳梗塞患者に見られる副作用の発現に関連する研究をされました。薬食生命科学専攻の仁平拓也さんは、薬物動態制御技術を応用する研究を行いました。
 また、論文博士の齋藤慎一さんは、製薬会社に所属しておられて、医薬品を製造する工程における品質を損なう要因となる傷害を研究対象とし、実生産での製造トラブル改善にまで寄与できる評価手法を見いだしました。私は20年前から循環器のトラブルで入退院を繰り返しており、細胞から脳梗塞、薬剤など、私自身がたいへん興味深い分野でもあって、いずれにしても個人的に興味を持つ内容でした。
 皆さんの長い年月の学習と研究の努力によって得られた学位です。学位の名にふさわしい職場を得られ、学習し、また研究してこられた分野の知恵を活かしながら、これから世界の舞台で活躍していただきたいと願っています。
 明日からは、この静岡県立大学が皆さんの母校です。母校の後輩たちのことにも思いを寄せて、大学の状況も時には気にかけていただきたいと思います。
 この大学では今年度、初めて理事長と学長を一体化させました。今年中に、公立大学法人と大学の事務機構を再編成して機能的な職場にします。そして来年度には仕事の内容を精査して無駄を省くことに取り組む所存です。日本の大学は危機感に乏しく、遅々として改革が進みませんが、大学は自らの努力で変革しなければならない組織です。
 大学を変えることが重要だと私は思っています。そのためには大学で仕事する職員の意識が変わることが重要です。教職員の一人ひとりが、大学のことを一所懸命考える人でなければなりません。今年は若手だけでなく、初めて年長の職員も公募して大学プロパーの職員を採用する方針です。
 これからの大学は、社会人が学習できる場でなければなりません。技術が高度に進んだ社会で活動するためには、時に新しい分野に関する新たな学習が重要になることが起こります。大学で学位を得られた皆さんは、こらからの生涯でも、常に学習歴を更新しながら、社会の状況の変化に対処して行かなければなりません。そのような時に、この母校でも、学習したい社会人のニーズを受け止めることができるようにしておくのが、これからの大学の役目となるはずです。そのような皆さんの目的にも合うような大学を私たちも目指していきたいと思っています。
 新型コロナウイルスによる感染症の行方がまだ明確には見えていません。皆さんにも学習と研究の上で、また課外活動などのキャンパスライフでも、たいへんなご不便を乗り越える努力をお願いすることになり、心苦しく思っております。どうか、今後とも心身の健康に十分留意されて、楽しく人生を送っていただきたいと思います。皆さんの未来を祝福して私の式辞といたします。
 ご卒業、学位授与、おめでとうございます。ありがとうございました。


 2021年度静岡県立大学入学式式辞
                             2021年4月8日木曜日
                         静岡県立大学学長 尾池和夫
 静岡県立大学短期大学部に入学の117名、学部に入学の684名、大学院博士前期課程に入学の122名、博士後期課程に入学の24名の方々、ご入学まことにおめでとうございます。静岡県立大学の役員、教職員を代表して皆さまをキャンパスに歓迎します。ご家族の皆さまにも、遠隔でのご参加ですが、こころからお祝い申し上げます。
 皆さんの中には、今年初めて選挙権を持つ方もいます。政治に関心を持ち、ニュースを読み、自分の考えを持ち、選挙を通して政治に参加する意識を持っていただきたいと思います。その際、2次的な情報源に偏ることなく、しっかりした新聞、公共放送の発信するニュースに接することが大切です。マスメディアの質を自ら判断することが大切です。
 大学生にはさまざまな特別の権利があります。当然ながら学習する権利は基本であり、学習は義務であるとも言えます。大学では、多くの教員が研究成果をもとに常に新しい知識を蓄え、皆さんの学習を支援します。授業では教員から蓄積された知識が解説されますが、ニュースと同じで、自ら原著論文を読み、理解を深めてください。そして、そこから生まれた疑問を、小さな疑問であっても大切にしてください。その疑問から未知の世界に入っていくことができます。そこから時には新しい学問の分野が生まれ、育てられます。
 皆さんは今日から、この大学で世界に目を向けながら、それぞれの未来に夢を描き、学習を始めます。静岡県には最高峰の富士山、駿河トラフの深い海、豊かな大地の里山と都市があります。その大地の仕組が理解していただけるように、私も地球科学者として知の蓄積を紹介していきたいと思っています。大学では、人類の知の蓄積を熟知した教員がいて、直接逢うことができるのが皆さんの特権です。大いにそれを利用して、研究成果を学ぶ機会を作ってください。
 大学生の特別な権利は、学習の他にもあります。例えば、さまざまな学生割引の制度があります。公共の乗り物の割引を使って、できるだけ多くの地域に出かけてください。そして大自然の景色の中で、独りでマスクを外して歩くことをおすすめします。感染症対策を利用して人生を愉しむ方法の一つです。
 静岡県には多くの河川があります。それらの河川敷を利用してたくさんの鯉幟を空に泳がせる企画があります。例えば静岡県中部では、島田市川根町家山の桜トンネルが知られています。今、満開の桜並木ですが、大井川を渡って鯉幟が泳ぎます。藤枝市の蓮花寺池(れんげじいけ)公園には間もなく見事な藤が見られますが、その池に鯉幟が渡されます。静岡市駿河区登呂の高松浄化センターの鯉のぼりもあります。
 伊豆半島ユネスコ世界ジオパークは、南から来た火山の贈りものというキャッチフレーズで知られる、日本列島に60万年ほど前に連結した火山群の大地の公園です。ジオパークの大地の成り立ちがわかる見どころを「ジオサイト」と呼びますが、それらを巡って伊豆半島の成り立ちを知って、地球の営みを身近に感じることができます。
 県立大学は静岡県という地域に貢献する大学であることを使命と思っています。その具体的な仕組みとして産学連携や地域連携の企画が実行されます。授業を通して、またプロジェクトに参加して、社会実装という形で、それを体験してほしいと思います。その体験が卒業後の皆さんの財産になります。
 これからの世界では、生涯健康を維持しながら、生涯学習を繰り返し、常に新しい知識を得ていくことが大切です。大学では、生涯、学習を続けることのできる能力を身につけてほしいと思います。社会人が学習することを支援するのも大学の役目です。国策としても、職業に必要な知識やスキルを、生涯を通じて身に付けるための社会人の学び直しの推進など、人生100年時代を見据えた生涯学習の推進に取り組んでいます。生涯学習を続けるためには、例えば、自国語を磨き、国際語としての英語をマスターし、できればもう一つの外国語を学ぶことを私はお勧めします。
 キャンパスの中も、時間を作って観察してみてください。小鹿(おしか)キャンパスは、草薙キャンパスから約5km離れた街中にあります。近隣には静岡済生会総合病院や特別支援学校、商店街があり、学生が暮らしやすい環境です。
 草薙キャンパスは、駿河湾を一望する標高307mの日本平の北の麓にあります。富士山が見渡せる丘の上に、本学のほか、静岡県立美術館があり、教育と文化の地域となっています。学生ホール、講堂、図書館がある半円形の広場に「コミュニティプラザ」を設けています。
 さらに上へ行くと、大学附属の薬用植物園があります。薬学部での学習に必要な植物の栽培、収穫、研究を行いながら、広く一般の県民などに生涯学習の場を提供することを目的に、1989年、静岡県立大学の開設と同時に設置されたもので、栽培植物約800種があります。一般にも開放しており、見本園、温室は見学自由です。見本園の植物には、植物名、学名、科名、薬局方などの名称、利用部位、利用目的、成分、産地、原産地が記されています。植物の中には猛毒のものもあるということも、そこで学んでほしいと思います。今、薬草園の桜、通草、翁草などが、皆さんを歓迎して咲いています。学長のブログでも、それらを紹介したいと思っています。薬草園のサイトで今月の花の紹介などを見て、ときには大学内の見学コースに入れてみてほしいと思います。
 皆さんは、静岡県というすばらしい環境の中で、これからの学園生活を大いに愉しんでほしいと思います。在学の期間はあっという間にすぎていきます。学習とともに大いに静岡県を歩いて、その魅力を世界に向かって発信する人となって卒業していただきたいと思っています。
 感染症拡大の中で、4月5日には学生向けの一斉メールで注意喚起を行いました。感染症を拡大させないための具体的な知恵を、皆さんにお伝えしたいと思います。
 まず、ご自分がウイルスを持っていると考えてください。感染させないために、マスクをして人との距離を保ちます。物に触るときには手を消毒します。今の新型コロナウイルスによる感染は、首から上の鼻、喉、目、たまに耳から入ったウイルスが粘膜に付いて起こります。自分が感染しないためには、首から上に触れる直前に手指を消毒します。
 その消毒の仕方が大切です。よくレストランの入口でアルコール消毒し、着席してからマスクを手で取る人がいますが、マスクにウイルスが付いていますから意味がありません。マスクを外した後、手指をアルコール消毒します。アルコール消毒の要点が3つあります。まず、アルコールの濃度が70パーセント以上であることが必要です。次に手が乾いていることが重要です。濡れているとアルコールが薄まるからです。3つめに、アルコール消毒して15秒後になってウイルスが1000分の1に減るということが重要です。その15秒を測るために、「ハッピバスデーツーユー」を1回唱います。これらを必ず守ることで自らが感染しないようにしてください。
 感染症の拡大の中で、感染させないように、また感染しないように、緊張感をもって対処しながら学習していただきたいと思います。心身の健康に充分留意され、学園生活を謳歌してくださるようにと祈り、私のお祝いの言葉とします。
 入学おめでとうございます。ありがとうございました。
 

 2020年度学位記授与式祝辞
                               2021年3月19日
                          静岡県公立大学法人理事長
                                  尾池和夫
 2020年度、静岡県立大学大学院博士後期課程、博士課程を修了した19名の皆さん、博士前期課程、修士課程を修了した96名、5学部を卒業した598名、短期大学部卒業の129名の皆さん、修了、卒業、まことにおめでとうございます。
 公立大学法人の役員、学長、副学長、研究科長、学部長、教職員とともに、皆さんの卒業と修了を心からお祝いいたします。あわせてご家族の皆様にも、こころからお慶び申し上げます。
 JAMSTECが持つ世界に誇るべき「ちきゅう」という海底掘削船があり、その母港が清水港に置かれています。それと同じように、皆さんの母港がこの静岡県立大学です。いつでも帰港してくだされば、必要な整備をし、休養して頂いてまたご活躍頂くよう、生涯学習の機能も今後充実させていきたいと思っています。
 静岡県立大学を卒業した多くの方たちが世界の各地で、また日本の各地で活躍しています。今日からその仲間入りをして、大学を母校として、後輩の成長をも見守ってください。
 これからは生涯学習の時代です。学歴を更新しながら活躍してください。社会の変革に対応しながら学習する仕組みが重要です。大学もそれを意識しながら整備しますが、皆さんも生涯学習の仕組みを設計しておいてほしいと思います。
 何ごとでも、何かを知ろうとしたとき、とことんその課題を突き詰めていくことで新しい知見が生まれてきます。例え大学でしっかり学習して何かをマスターしたと思っても、生涯にわたってそのことをさらに深めてほしいと思います。
 例えば、学習するということを、川のことを知ることに例えてみたいと思います。私はこの静岡県立大学で仕事することになって以来、静岡県のことをさまざまな視点から学んでいます。その一つに多くの河川の水系のことがあります。その中で、大学のある静岡市を流れる安倍川を知るため、源流まで行ってみて、多くの発見がありました。戦国時代には、武田信玄の隠し湯として使われた梅ヶ島温泉、山葵栽培発祥の地である有東木(うとうぎ)などがあります。
 一つの川について、このようにまずその川の源流から観察します。さらに支流の一つひとつを歩きます。静岡県には多くの河川があります。安倍川は、全国で唯一、水源から河口までが一つの市で完結しているという一級河川です。上流部では、クマタカをはじめニホンカモシカ、ホンドモモンガなどの動物が、また、渓流にはアマゴ、カジカなどが生息しています。
 先日、3月1日、安倍川の支流藁科川で渓流釣が解禁されました。水産庁では、渓流の天然魚を守り増やすことを提唱しています。天然魚を増やすことによって、渓流魚全体の資源を増やすことができます。天然魚は地域固有の財産であり、また、釣り人のニーズが高く、社会的経済的価値が高いのです。
 安倍川では、昨年も一部の区域で「瀬切れ」が確認され、静岡河川事務所では渇水対策支部を設置して監視を強化していましたが、令和3年3月3日、瀬切れが解消したと発表しました。このように水系の広くない安倍川だけでも、視点を変えれば多くの情報があり、興味が尽きることはありません。これが大井川のような広大な水系を持つ河川になると、生涯の研究テーマになるほどのことがあります。
 大規模な土木工事では河川に対して大きな影響があります。日本の河川行政に疑問を投げるきっかけは長良川河口堰の建設でした。反対世論の中で建設が強行され、本格運用から20年経過した今でも、まだ事業の是非は結論がなく、大型公共事業を検証するシステムがない日本の大きな課題となっています。
 静岡県立大学には付属研究施設としてグローバル地域センターがあり、多くの課題について研究しています。火山噴火、洪水、地震、津波などの自然災害に関連しても、大いにこのセンターで研究活動を進めて行きたいと思っています。また、富士山頂から駿河トラフの底までについてもしっかりと研究を進めて行きたいと思っています。
 今日ご卒業の皆さまも、今後とも、今まで以上に学習を重ねて頂きたいと思います。生涯健康で生涯学習を重ねる、これが21世紀を活きるための合い言葉です。くれぐれも心身の健康に留意し、学習した成果を磨き上げながら、社会のさまざまな場面で活躍していただきたいと願っております。
 皆さん方が卒業された後にも、この静岡県立大学はさまざまな分野で発展します。世界の各地で活躍しながら、この大学の未来にも時には目を向けてくださるようお願いして、今日の修了、卒業式のお祝いの言葉といたします。
 おめでとうございます。ありがとうございました。


 2020年度静岡県立大学入学式祝辞
                             2020年4月9日
                  静岡県公立大学法人理事長 尾池和夫
 静岡県立大学および大学院に入学された皆さん、まことにおめでとうございます。皆さんは、この静岡県立大学をみずから選んで入学されました。静岡県公立大学法人の役員、大学の教職員とともに、選んでくださったことに感謝しつつ、皆さんの期待に応えるよう、精一杯の準備をして歓迎いたします。
 ご家族の皆さまは、学習支援で見守ってこられ、今日の感激もひとしおであろうと思います。こころからお祝い申し上げるとともに、入学を機会に、これからは独立した社会人として見守ってあげていただきたいと思います。
 皆さんが入学したこの大学は、静岡県民の力に支えられています。川勝平太静岡県知事はいつも、世界遺産の富士山のことや美しさと深さで知られる駿河湾のことなどを話題にします。皆さんも、この静岡県で学習される機会に、学園生活を謳歌するとともに、この気候温暖で、豊かな自然と美味しい食材に恵まれ、暮らしやすい静岡県での生活を、十分楽しんでいただき、卒業後はそれを世界へ伝えていただきたいと思っています。
 伊豆国、駿河国、遠江国の3国が、1876年(明治9年)の合併で現在の静岡県となりました。今、静岡県は、県民所得が東京、愛知に次ぐ第三位の県です。観光名所では世界遺産の「富士山」をはじめ、遠江国分寺跡、新居関跡、登呂遺跡の3つの特別史跡があります。天然記念物の数も31個と多く、全国6位の数です。
 県下には、縄文時代の遺跡約2000か所があり、約7000〜8000年前には愛鷹山南麓から箱根山西麓、伊豆半島にかけて集落が急増しました。約7500〜9500年前の三ヶ日人の住んでいた遺跡が発見されています。約4000〜6000年前のものとされる全国的に見ても大規模な集落跡、千居遺跡が静岡県東部、現富士宮市で確認されています。弥生時代の遺跡では、静岡市駿河区登呂で、弥生時代の水田、住居跡などが発見されている登呂遺跡が有名です。
 今、新型コロナウイルスによる感染症が終息しない状況の中で、入学式も中止してのご挨拶ですが、時期が来れば大いに進めたい場所や企画があります。
 「プラモデルの聖都と言われる静岡市は、プラモデルの出荷額日本一、シェア9割近くを占める都市です。見本市「静岡ホビーショー」には世界からバイヤーがやって来ます。地場産業である木漆工芸が背景にあってこの産業が定着しています。教科の中でも「しずおか学」や「ふじのくに学」というような地域への理解を深める目的の科目があります。江戸時代からの伝統である工芸から世界的なプラモデルに発展してきた静岡の工芸のことにも、日常生活の中で出会う機会を作って触れてみてほしいと思います。静岡市にあるバンダイホビーセンターは、ガンプラファンの聖地と呼ばれ、工場と事務所を兼ねたホビーセンターでは、土産売り場があり見学も可能です。
 静岡県は2010年に健康寿命ランキングトップになり、2013年には「健康寿命をのばそう! アワード」厚生労働省最優秀賞を受賞しました。静岡県の健康寿命ランキングがトップクラスなのは「ふじのくに健康増進計画」が関係しているからです。本学でもこのようなことに深く関わる研究があります。
 静岡県は日本一のお茶の産地です。1世帯あたり緑茶消費量の全国平均は986グラム。最も消費量が多いのは茶所静岡県で1,901グラムで、これは全国平均の2倍近い消費量です。奈良や京都が上位に入っており、日本文化と緑茶は関係があるように思えます。
 1位の静岡県と2位の京都府はともに多くのお茶を消費しているのですが、静岡県の緑茶購入費が10,899円なのに対し、京都府は5,192円と静岡の半分以下です。100gあたりの単価にしてみると静岡県が573円で京都府は311円。金額が高くてもこだわりのお茶を楽しむのが静岡県民だといえます。
 県下さまざまなお茶に関する場所があります。県立大学でも学内でお茶を楽しむ行事を企画します。学外では、例えば藤枝市のお茶屋さんに「ジェラートで人気の店があります。明治40(1907)年創業の丸七製茶さんが経営する店舗で、作りたての抹茶ジェラートが味わうことできます。藤枝市は良質な抹茶の産地なのです。
 静岡県には、地球を覆う大陸プレートの中でも最大級の二大プレートが出合い押し合っている場所があります。糸魚川-静岡構造線で、ほぼ南北に走るその構造線の東側に、フォッサマグナと呼ばれる地域があります。そこへ南から火山諸島が海洋プレートに運ばれて移動してきたのが今から100万年から60万年前です。新しい本州の一部となったこの場所が「伊豆半島ユネスコ世界ジオパーク」です。
 中部山岳地帯の南の端は静岡市と焼津市の間にある大崩海岸では、中部山岳地帯の南端の切り立った崖が海底に落ち込む地形を見ることができます。
 美しい海を持つ静岡県の特徴も大いに楽しんでほしいと思います。伊豆国立公園に指定されている石廊崎、小さな港町中木の境にある海岸、ヒリゾ浜は抜群の透明度を誇る海岸で、独特の地理的環境から船でしか行くことができませんが、崖に覆われ、そこには開発が行われていない美しい自然があり、シュノーケリングに絶好のポイントです。
 海産物では、1世帯あたりマグロ消費量の全国平均は年間2,270g。最も多いのは静岡県で4,518gと全国平均の約2倍です。静岡県はマグロの水揚げが日本一で、名実ともに日本一のマグロ県と言えます。
 清水港は、地球深部探査船「ちきゅう」の母港です。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が南海トラフの巨大地震の解明に向けて、深海底を掘削し、科学掘削としては世界最深部となる岩石試料の採取に成功しています。
 外出を自粛する時期にあたって、学習を深める機会だととらえ、さまざまなことを試みてほしいと思います。
 附属図書館では、新型コロナ感染症対策のため、図書館への入館時には必ずマスクを着用していただくようお願いしています。また、ゲート前にアルコール消毒を用意いたしましたので、入館前に手指の消毒をお願いいたします。感染症対策のため中止するサービスもありますが、ご理解ください。また、下記から外部のオンラインサービスを利用して学習を深めてください。
https://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/library/links/
 オンライン図書には、国立国会図書館デジタルコレクション、公文書館デジタルアーカイブ、日本ペンクラブ電子文藝館、青空文庫などさまざまなものがあり、大いに利用していただきたいと思います。
 入学した大学のことを、授業からだけでなく、大いに探索してみてほしいと思います。静岡新聞では昨年から「静岡県立大発 まんが しずおかのDNA」というシリーズを毎週月曜日に掲載しています。2019年11月4日の第1回は「静岡の大地」という題で私が書きました。京都の漫画家である、加藤ひなさんが毎回漫画を添えてくれています。
 新入生の皆さんにも、国連の提唱するSDGsのことをしっかり把握してほしいと思います。Sustainable Development Goalsのことです。2016年~2030年の15年間での達成を目標に掲げています。この大学のある静岡市は、SDGs未来都市・ハブ都市として「世界水準のまち」を目指しており、高い評価を得ています。静岡市で学園生活を送る中で、皆さんの1人ひとりが、このSDGsの目標を意識して、自らの未来の目標にしていただきたいと思います。
 最後に本学の自慢の施設の一つを紹介します。草薙キャンパスの上の方に行くと本学の薬草園があります。最近では生薬を直接研究テーマとする研究者が減少していますが、この大学の薬用植物園は、薬学部の教育に必要な植物の栽培と収穫および研究を行うこと、さらには静岡県民および一般社会人に対して生涯教育の場を提供することを目的に設置され、活動しています。標本園3300平方メートル、栽培圃場2000平方メートル、温室90平方メートルなどに、栽培植物約800種があります。平日には一般にも開放しており、見本園、温室は見学自由です。見本園の植物には、植物名、学名、科名、薬局方などの名称、利用部位、利用目的、成分、産地、原産地が記されています。植物の中には猛毒のものもあるということも、そこで学んでほしいと思います。今、薬草園の桜、桃、朝鮮レンギョウなどが、皆さんを歓迎して咲いています。ホームページの今月の花の紹介などを見ながら、ときには大学内の見学コースに入れてみてほしいと思います。
 皆さんは、静岡県というすばらしい環境の中で、これからの学園生活を大いに愉しんでほしいと思います。在学の期間はあっという間にすぎていきます。学習とともに大いに静岡県を歩いて、その魅力を世界に向かって発信する人となって卒業していただきたいと思っています。
 心身の健康に充分留意され、学園生活を送ってくださるよう祈って、私のお祝いの言葉とします。
 ありがとうございました。


 静岡県立大学・短期大学の学生と教職員の皆さまへ
                      2020年(令和2年)4月1日
                        静岡県立大学法人理事長
                               尾池和夫
 静岡県公立大学法人理事長の尾池和夫です。2020年度の初めにあたっての所信を述べさせていただきます。
 現在、世界各地で感染症の大きな影響があります。この3月と4月、本学も卒業式および入学式では、全体の式典は中止し、さまざまな工夫をせざるを得ないこととなりました。今後とも世界の状況を見極めながら、大学運営にあたって毎日の緊張と工夫が必要です。本学においても、2019年度の卒業式、2020年度の入学式では全体での式典を中止せざるを得ませんでした。また、新年度の授業開始の延期にともなう授業計画の変更など、教職員の多大の努力によって、教育の質を保つ工夫が行われています。今後しばらくはこのような状況が続くと予想されますが、心身の健康に十分留意しつつ、ご協力いただくようお願いします。
 静岡県立大学法人は、2007年度(平成19年度)に静岡県から法人化し、以降、環境生命科学科の設置や看護学部の拡充、短期大学部の学科編成、文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」の取組、「しずおか学」の新設、2019年度からは経営情報学部の「観光学」の新設など、大学の教育研究機能の充実を進めつつ、地域に立脚した大学としての着実な歩みを進めてまいりました。
 これはひとえに、学長はじめ教職員皆さまの教育、研究、業務への熱意とそのご労苦のたまものと、深く敬意を表します。学生の皆さんには、このような大学、短期大学の優れた学習環境を大いに活用して、くれぐれも心身の健康に努めながら、学習に課外活動にまた社会貢献に活躍し、楽しく過ごしてほしいと願っています。
 さて、私は、2019年(平成30年)4月に理事長に就任し、2年が経ったところです。法人の経営を預かる立場として、今までに、各部局の状況をそれぞれの方法でご報告いただき、必要に応じて学内を視察し、また自分でも数回の講義を実施して、学生さんたちと接する機会を設けてきました。
 また、大学からの情報発信を重視し、教職員のご協力のもちに、例えば静岡新聞社と連携して、現在原則として毎週月曜日の朝刊に「静岡県立大発 まんが しずおかのDNA」というシリーズを連載しています。この3月23日月曜日にはその第15回「防災バッグ、何を詰める?」が載りました。これは食品栄養環境科学研究院の小林裕和教授のご努力によって実現したもので、世界の状況から感染症に関連する記事も追加していくことになっています。
 また、食品栄養環境科学研究院・食品栄養科学部特任教授で、食品栄養環境科学研究院附属茶学総合研究センター長の中村順行さんの指導とご努力のもとに、教職員のプロジェクトチームが、学食で本物のさまざまのお茶を味わっていただけるよう、特設のコーナーが設けられました。これは役員会での外部委員からのご提案で、せっかく静岡県で学ぶ学生さんたちにお茶の味を知ってほしいという趣旨によるプロジェクトです。皆さま方のご協力とご参加によって、さらに発展した形にしたいとチームの皆さんが張り切っています。
 新聞では導入の漫画を、お茶のコーナーでは漫画と中村先生の解説の入ったカードを、いずれも京都造形芸術大学卒業生の漫画家、加藤ひなさんの軽妙なタッチで入れてあります。
 これらのさまざまなことから得られた知見をもとに、現場からの皆さんのご意見をもとに、私は今後の法人運営の方針を考えてきました。今回、私の目指すところを皆さまにお伝えし、併せて、皆さまにもご協力をあらためてお願いするものであります。

1.コンプライアンスの徹底について
 法人では、法人化以降、暴力行為やハラスメント、不適正経理など、さまざまなコンプライアンスに反する行為が、残念ながら発生しました。その都度、適切に対応をしてきたと思っていますが、今後ともコンプライアンスの徹底をはかっていく所存です。
 教職員の皆さんは、その職務において、法令を遵守することは当然のことですが、職場に限らず、社会生活においても社会のルールに則った行動をとることが基本です。法令や社会のルールを逸脱する行動は、学生やその保護者、県民、その他関係者から厳しく非難され、法人全体、大学全体、また教職員全体、あるいは法人の経営方針への不信感につながります。
 当然ながら、コンプライアンスに反する行為者に対しては、精度を高めて事実関係を調査の上、就業規則に基づき、厳重な処分を行います。

2.ハラスメントを生まない、風通しの良い職場(学びの場)づくりについて
 ハラスメントが与える影響は深刻です。ハラスメントを受けることにより、人格や尊厳を傷つけられたり、仕事や学習への意欲や自信をなくしたり、心の健康の悪化につながり、場合によっては休職あるいは休学や退職あるいは退学に追い込まれたり、生きる希望を失うことさえあり、貴重な人材の損失につながります。
 教職員が自由に提案し、中身の議論をして、学生や地域社会のためになることを皆で築き上げていける職場あるいは学びの場を作りたいと考えています。
 ハラスメントを受けたと認識した時点で、さまざまな形で用意されている方法により、正確な情報をお知らせいただきたいと願っています。訴えを受け止めるたまの制度のさらなる整備にも努力します。制度に対するご意見もお待ちしています。ご意見や訴えがうまく伝わらないと思われたら、直接理事長の私にご連絡ください。
 ハラスメントの行為者に対しては、事実関係を調査の上、就業規則に基づき、厳重な処分を行います。その他、行為者の異動等、被害者の就業あるいは就学環境を改善するために必要な措置を講じます。

3.健全な法人経営とガバナンス改革について
 健全な法人経営を確保するため、財政や経営の実態を正確に認識し、把握し、不健全性が認められた場合には、速やかに適切な改善対策を講じます。
 また、学生、地域のニーズに沿った質の高い大学教育を行うため、理事長および学長のリーダーシップを確立するため、組織の改編など、環境整備や評価に基づく資源の再配分などを行います。どの機関が意思決定に最終的な責任を負うのかを再確認し、権限の重複の排除や審議手続の簡素化などを通じ、本法人に合う最適なガバナンスを構築します。
 健全な経営を進めるに際し、いわゆるセクショナリズムは、組織全体に与える影響が大きく、不利益をもたらすことになりかねません。特に幹部職員には、セクショナリズムに陥ることなく、常に全体を見渡しながら最適な内容を考えて行動されることを望みます。
 これらのことの根底には、大学や短期大学において行われる活動は、どのような場合にあっても、学生のために行われなければならない、ということが私の基本方針です。

4.地域と共に成長、発展する大学をめざすことについて
 地域の課題の解決のためには、産学公官が協働して取り組んでいく必要があります。持続可能な地域づくりや地域で活躍する人材の育成には、地(知)の拠点としての大学が担う役割は非常に大きく、社会貢献の機能は大学の評価基準のひとつとして注目されています。大学には、これまで以上に、さらに、地域と密接に関り、連携することが求められています。
 地域に受け継がれてきた力を再評価し、地方の活力を高める方策や仕組み作りを進め、地域の魅力、課題を理解し、地域文化や地域社会の継承に資する人材の養成を推進します。
 また、グローバル化の波の中で、異なる文化や多様な価値観を身につけることは、世界での活躍だけでなく地域への還元にも繋がります。こうした幅広い視野と行動をあわせ持った人材を育成していくために、留学生の受け入れを推進していくことに加え、職員にも海外で見聞を広げる経験を、学生の皆さんには積極的に留学経験を持つよう奨めます。

5.生涯にわたる学びの場の提供について
 人が、長期的に働くためには、自らがキャリアプランを作り、能力や考えが時代遅れにならないようにしなければなりません。定年延長や人生100年時代といった超長寿社会に向う中で、人がどのように活力をもって時代を生き抜いていくかを考えるための学びの場として、リカレント教育の提供が必要であります。
 真の生涯学習のニーズに応えることができるように、学びたいと願っている全ての人を受け入れる制度を持つ大学でありたいと考えています。

6.広報内容の充実と外部資金の活用について
 大学で行われている教育、研究、社会貢献の具体的な内容を、組織的にあるいは個人的な努力で、わかりやすく県民の皆さまや世界に知っていただく工夫が重要です。そのような活動の結果として、大学への学部資金の導入機会を積極的に増やしていく努力を法人として進めてまいります。
 教員の皆さんのご努力で科学研究費が増加してきました。さらなるご努力の継続をお願いするとともに、新しい資金源への申請も考えていただきたいと思います。また、さまざまな外部資金の導入を企画する体制の整備にも取り組みます。

 最後に、私は、皆さまの先頭に立って努力する所存です。そして、皆さまとともに、これから、ますます発展する本法人の運営を行っていきたいと思っています。
 こらからも引き続き、法人の全員で頑張っていきましょう。学生の皆さんは学園生活を大いに楽しんでいきましょう。
 皆さん、今後ともよろしくお願いいたします。
 お読みいただき、ありがとうございました。


 2019年度静岡県立大学入学式祝辞
                             2019年4月9日
                     静岡県公立大学法人理事長 尾池和夫
 静岡県立大学学部に入学された675名、短期大学部138名、大学院修士課程112名、博士課程20名の方々、入学をこころからお祝い申し上げます。皆さんは、この静岡県立大学を自らの選択で入ってこれらました。公立大学法人の役員、大学の教職員とともに、皆さんの期待に応えるよう、精一杯の準備をして歓迎いたします。
 ご家族の皆さま、学習の支援をしながら今まで見守ってこられました。今日の感激もひとしおであろうと思います。こころからお祝い申し上げるとともに、入学を機会に、これからは独立した社会人として静かに、しかし、しっかりと見守ってあげていただきたいとお願いします。
 皆さんたちの先輩たちには、静岡県立大学の開学以来の卒業生、短期大学開学以来の卒業生、静岡薬科大学の卒業生、静岡女子大学の卒業生がおられ、たくさんの先輩たちが社会で活躍してこられました。
 この歴史は、静岡県立大学連合学友会「はばたきの会」を中心とする連携のもとに受け継がれ、それぞれの分野での同窓生による活動が続けられています。
 静岡県知事の川勝平太さんが、お祝辞の中で、世界遺産の富士山のこと、美しさと深さで知られる駿河湾のことなどにも、きっと触れられると思って、私は今日は、少し違った視点から、皆さんに静岡県のことを話したいと思っています。
 『ひととき』の今年4月号には、「プラモデルの聖都、静岡へ」という特集があります。プラモデルの出荷額日本一、シェア9割近くを占めるのが静岡市で、毎年開催の見本市「静岡ホビーショー」には世界からバイヤーがやって来ます。これは静岡の地場産業である木漆工芸が背景にあるのだと言われます。「機動戦士ガンダム」はロボットアニメの金字塔です。「第58回静岡ホビーショー2019」は5月11日から駿河区のツインメッセ静岡で開催されます。教育課程の中で「しずおか学」や「ふじのくに学」というような地域への理解を深める目的の科目がありますが、江戸時代からの伝統である工芸から世界的なプラモデルに発展してきた静岡の工芸のことにも、日常生活の中で出会う機会を作って触れてみてほしいと思います。
 最近のニュースでは、4月1日に、清水港に久しぶりに、地球深部探査船「ちきゅう」が入港しました。「ちきゅう」は、昨年10月に清水港を出港し、紀伊半島沖の南海トラフで掘削調査を行っていました。海洋研究開発機構(JAMSTEC)によれば、「ちきゅう」は6月ごろまで清水港に停泊する予定だそうです。南海トラフの巨大地震の解明に向けて、海底下5200メートル付近のプレート境界を目指して深海底を掘削していました。科学掘削としては世界最深部となる海底下2836.5~2848.5 mからの岩石試料の採取に成功しました。
 宇宙空間では、「はやぶさ2」が活動して、皆さんが在学中の2020年末には地球に帰還する予定です。「はやぶさ2」が目指す小惑星(162173)リュウグウは、太陽系が生まれた頃の水や有機物が残されていると考えられている星です。「はやぶさ2」が持ち帰るサンプルによって、地球の水がどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのかという疑問を解くことになるかもしれません。
 また、国連の提唱するSDGsのことをしっかり把握してほしいと思います。Sustainable Development Goalsのことです。2016年~2030年の15年間での達成を目標に掲げています。この大学のある静岡市は、SDGs未来都市・ハブ都市として「世界水準のまち」を目指しており、高い評価を得ています。静岡市で学園生活を送る中で、皆さんの1人ひとりが、このSDGsの目標を意識して、自らの未来の目標にしていただきたいと思います。
 最後に本学の自慢の施設の一つを紹介します。草薙キャンパスの上の方に行くと本学の薬草園があります。最近では生薬を直接研究テーマとする研究者が減少していますが、この大学の薬用植物園は、薬学部の教育に必要な植物の栽培と収穫および研究を行うこと、さらには静岡県民および一般社会人に対して生涯教育の場を提供することを目的に設置され、活動しています。標本園3300平方メートル、栽培圃場2000平方メートル、温室90平方メートルなどに、栽培植物約800種があります。平日には一般にも開放しており、見本園、温室は見学自由です。見本園の植物には、植物名、学名、科名、薬局方などの名称、利用部位、利用目的、成分、産地、原産地が記されています。植物の中には猛毒のものもあるということも、そこで学んでほしいと思います。今、薬草園の桜、桃、朝鮮レンギョウなどが、皆さんを歓迎して咲いています。ホームページの今月の花の紹介などを見ながら、ときには大学内の見学コースに入れてみてほしいと思います。
 皆さんは、静岡県というすばらしい環境の中で、これからの学園生活を大いに愉しんでほしいと思います。在学の期間はあっという間にすぎていきます。学習とともに大いに静岡県を歩いて、その魅力を世界に向かって発信する人となって卒業していただきたいと思っています。
 心身の健康に充分留意され、学園生活を送ってくださるよう祈って、私のお祝いの言葉とします。
 おめでとうございます。ありがとうございました。


 2018年度学位記授与式祝辞
                               2019年3月20日
                          静岡県公立大学法人理事長
                                  尾池和夫
 2018年度、静岡県立大学大学院博士後期課程、博士課程を修了した20名の方々、博士前期課程、修士課程を修了した83名、5学部を卒業した618名、短期大学部卒業の135名の方々、修了、卒業、まことにおめでとうございます。
 公立大学法人の役員、列席の学長、副学長、学部長、教職員とともに、皆さんのご卒業を心からお祝いいたします。あわせてご家族の皆様にも、こころからお慶び申し上げます。
 多くの方たちが、栄養士、教員、保育士、環境計量士のなどの免許を取得され、全員に近い方々が就職先を決め、あるいは進学先を決められています。また、薬剤師、管理栄養士、看護師、保健師、助産師、歯科衛生士、介護福祉士の国家試験受験資格を獲得されています。
 現在までに、静岡県立大学を卒業した方たちは世界の各地で、また日本の各地で活躍しておられます。皆さんも、その卒業生に仲間入りをして、これからはこの大学を母校として、後輩の成長をも見守っていただきたいと願っています。同時に皆さんのこの母校は、また母港でもあります。ときには世界の航海から修理のために帰港する母港でもあってほしいと思います。
 これからの社会は生涯学習の時代を迎えます。AIが発達して多くの仕事は機械が上手にとなしますが、人でなければできない仕事がいつになっても必ず存在します。その社会の変革に対応するためには、この生涯学習の仕組みが重要な役割を果たします。そのための母港でもあるのです。母港ではいつでも、皆さんの帰港を待って、生涯学習に対応できるように、これからも仕組みを整えて行きたいと思っています。
 皆さんの中には近い将来、看護師、薬剤師、管理栄養士などとして医療関係で働く方がたくさんおられます。そこで、私は自分自身の最近の経験をお話ししたいと思います。今年2月4日、私は京都大学病院の消化管外科に入院して、鼠径ヘルニアを手術を、へそからカメラを入れ、その両側の穴からマジックハンドで手術するという体験をしました。全身麻酔で手術中の3時間半は意識なしですが、その前後にはさまざまなことを観察し学習しました。4日間で退院して次に日には東京へ出張して講演をするということが可能でした。また、退院後体重が増えて、しだいに心房細動が激しくなり、ついには3月8日、早朝に救急外来から入院して、心不全の治療をするという体験をしました。病院の中を行き来し、さまざまな仕事の人たちと話していて、デザインの重要性を認識することがたくさんありました。病院内の殺風景な景観を体験して、ホスピタルアートの重要性をつくずく感じる機会を持つことができました。
 この県立大学には、まだホスピタルアートの考え方が浸透していないように思います。これから、このような新しい分野をも、取り入れて行きたいと思っています。今日卒業して病院で仕事する皆さん方も、その仕事の中で、常に患者を観察し、患者のためにどうすべきかということを考え、提案してほしいと思います。
 卒業式の機会に、静岡新聞の記事から、皆さんが入学してからの4年間のニュースを、「静岡県立大学」のキーワードで検索してみました。
 「県立大学薬学部発祥地に記念碑」という薬学部100周年の記念碑の除幕式の記事が、2017年3月17日の朝刊にありました。葵区鷹匠3丁目の歩道にこの薬学部創設100周年記念碑が完成してその除幕式が行われたというものです。鬼頭宏学長は「静岡女子薬学校は、女子の高等教育が一般的でなかった当時に、最先端の知識を伝える場として誕生しました。これから『第二の100年』に向け、より一層の発展を願います」と挨拶されとありました。
 「ムスリムとつながる静岡ハラール交流会」という記事が、2018年3月4日の朝刊にありました。静岡県立大学グローバル地域センターと県の共催で、飲食店などの食ビジネス関係者らを対象とした交流会が草薙キャンパスで開催されるというものです。豚肉やアルコールを摂取しないだけでなく、ムスリムの食事規定である「ハラール」に配慮した飲食店の増加、食品開発を促進して、ビジネスチャンス拡大をはかることが目的です。多様性を尊重する国際化のためにたいへん重要なことであります。
 2015年10月5日には、社説で「県大シンクタンク -地域に研究成果還元を」という記事がありました。県立大学の付属機関として2012年に創設されたシンクタンクである「グローバル地域センター」が3周年を迎えた機会に、研究成果を県民に浸透させ、蓄積した知見を政策提言や企業への助言に活かして、地域に還元すべきだという主張でした。その後、例えば、濱下センター長のイスラム社会研究の成果が、さきほど述べたようにハラール関連の行事に発展しているのです。
 火山噴火、洪水、地震、津波などの自然災害に関連しても、大いにこのセンターで研究活動を進めて行きたいと思っています。
 今後とも、今まで以上に、心身の健康を留意され、学習した成果を磨き上げながら、社会のさまざまな場面で活躍していただきたいと願っています。皆さん方が卒業された後にも、この静岡県立大学はさまざまな分野で発展して行きます。世界の各地で活躍しながら、この大学の未来に、時々は目を向けていただくようにお願いして、今日の修了、卒業式のお祝いの言葉といたします。
 おめでとうございます。ありがとうございました。


 静岡県公立学校法人理事長就任の挨拶
                                 2018年5月
                                  尾池和夫
 日本の各地、世界の各地から静岡の地に来られる学生の期待に応え、静岡県公立学校法人の理事長として、大学の整備に努力しつつ大学生活の安全を確保します。大学生活を送る学生たちを、ご家族の皆さまにも、学習の支援をしながら、社会人として見守っていただきたいと願います。
 静岡県公立学校法人の歴史の中で巣立った3万数千人の方々は、県の内外で活躍してこられました。静岡女子薬学校を源流として、学園には早期から女子の高等教育の歴史があり、静岡県民の誇りとなる大学の理念があります。このような歴史と理念の上に今後とも大学運営を続けます。
 本学のある静岡は、4つのプレートが収束する変動帯である日本列島の中心部に位置します。列島には地震、噴火、津波などの大規模な自然現象があり、それによって豊かな自然の恵みを受けて私たちは暮らします。
 このような視点から見ると、静岡県はたいへん特徴的な地域です。富士山は、高さと山体の大きさで日本最大の活火山です。最近10万年で急速に大きく成長した活動的で若い火山です。東京周辺の関東ローム層は、古富士火山からの火山灰を主体とする土です。新富士火山の噴火は、781年以後16回歴史に記録されていると言われています。平安時代にはたいへん活動していました。一方で駿河湾は、最深部の水深2500mに達し、日本で最も深い湾です。このような特徴が静岡の豊かな大地を育んできました。
 静岡県というすばらしい自然環境の中で、学生たちには、大学生活を大いに愉しみ、学習成果とともに静岡県の魅力を世界へ発信できる人となって、卒業していただきたいと思っています。

Greeting of Chairman, Board of Directors,Shizuoka Prefectural University Corporation
Kazuo Oike
   Responding to the expectations of students coming to Shizuoka area from various regions of Japan and from around the world, we will secure the safety of the university life. I would like to encourage students who live university life.
   Thousands people graduated in the history of the Shizuoka Prefectural University Corporation have been active in and out of the prefecture. From the Shizuoka Women's Pharmaceutical School as a source, the university has a history of women's higher education from the early stage, and also there is a philosophy of the university that is proud of the people of Shizuoka prefecture.
   Shizuoka is located in the center of the Japanese archipelago where four plates converge. There are large-scale natural phenomena such as earthquake, volcanic eruption, tsunami,etc. in the archipelago, and we live in the rich blessing of such nature.
   From such point of view, Shizuoka Prefecture is a very distinctive area. Mt.Fuji is Japan's largest active volcano with height and mountain size. It is an active young volcano that grew rapidly in recent 100 thousands years. On the other hand, Suruga Bay reaches the deepest water depth of 2,500 m, which is the deepest bay in Japan. Such feature of nature has brought up Shizuoka's rich ground.
   In the wonderful natural environment of Shizuoka prefecture, I hope that students will be able to greatly enjoy their university life and graduate as a person who can transmit the charm of Shizuoka prefecture to the world together with learning outcomes.


 2018年度静岡県立大学入学式挨拶
                             2018年4月5日
                     静岡県公立大学法人理事長 尾池和夫
 静岡県立大学学部に入学された653名、短期大学部121名、大学院修士課程99名、博士課程32名の方々、入学をこころからお祝い申し上げます。皆さんは、この静岡県立大学を自らの選択で入ってこれらました。公立学校法人の役員、大学の教職員が、皆さんの期待に応えるよう、精一杯の準備をして歓迎いたします。今日の式典を迎えた皆さんは、東はカナダから、北は韓国や北海道から、西は中国やミャンマーから、南はインドネシア、マレーシア、ベトナムからというように広い地域からこの静岡に集まって来られました。
 ご家族の皆さまは、学習の支援をしながら今まで見守ってこられました。今日の感激もひとしおであろうと思います。こころからお祝い申し上げるとともに、入学を機会に、これからは独立した社会人として、静かに見守ってあげていただきたいとお願いします。

 皆さんの先輩には、静岡県立大学の開学以来の卒業生18,315名、県立短大の開学以来の卒業生7,100名、静岡薬科大の卒業生4,176名、静岡女子大学の卒業生2,911名がおられます。それらを合計すると、実に32,502名の先輩たちが社会で活躍してこられました。
 この歴史は、静岡県立大学連合学友会「はばたきの会」を中心とする連携のもとに、それぞれの分野での活動になって、続けられていることと思います。
 私自身、今回この理事長に就任することによって、今日ご入学の皆さんと同じく、この大学の新入生であります。これから大学の中をしっかりと学んで参ります。やがてさまざまな機会を通じて、この「はばたきの会」についても、その具体的な姿に接することできると楽しみにしております。
 また、本学と歴史的に関係が深く、本日のご来賓でもある静岡文化芸術大学の学長である横山俊夫先生、公立大学法人静岡文化芸術大学理事長の有馬朗人先生とは、大学の関係でも、また俳句でも、私とは旧知の仲であります。その関係もあって大いに連携しながら、とくに地域貢献を進めていければいいなと思っております。

 1916年に設立された静岡女子薬学校を源流として、静岡女子大学、静岡女子短期大学の流れを見れば、早期から女子の高等教育が実現している歴史があることがわかります。県民の誇りとなる価値ある大学の理念の実現のために、教育、研究、地域貢献、国際交流において、それぞれに先端をめざした活動を、私も行っていきたいと思っています。

 私はもともとは地球科学を専門とする研究者です。日本列島は4つのプレートが収束する変動帯にあって、地震、噴火、津波などの大規模な現象があり、それによって豊かな自然の恵みを受けて私たちは暮らしています。その視点からみると、静岡県はたいへん特徴的な地域でありますが、今日はとくに3つのことをお話しします。それらは富士山であり、桜であり、豊かな海であります。
 桜の原種は11種ほど確認されておりますが、その中に大島桜があります。大島桜は、高さ15mに達し、葉の長さが5cmから10cmあり、葉の成長とともに茎の先端から数個の花をつけます。特にこの葉は香りが良く、京都の桜餅を包む葉として欠かせません。葉の適度な塩味が私はとても好きです。伊豆大島北東部の山中にある株が、1952年、特別天然記念物に指定されました。河津桜は、大島桜と寒緋桜の自然交雑種であると推定されています。1月下旬から2月にかけて開花する早咲き桜です。いずれも大変有名な桜で、静岡県の宝です。
 富士山は、高さと山体の大きさで日本最大の活火山です。最近10万年で急速に大きく成長した活動的で若い火山です。東京周辺の関東ローム層は、古富士火山からの火山灰を主体とする土です。新富士火山の噴火は、781年以後16回歴史に記録されていると言われています。平安時代にはたいへん活動していました。
 次に日本近海の生物多様性のことです。全海洋生物種数の14.6%がこの日本列島の周辺に確認されています。とりわけ駿河湾は、最深部の水深2500mに達し、日本で最も深い湾であります。2016年11月2日、メキシコ(プエルト・バヤルタ市)で開催された「第12回世界で最も美しい湾クラブ総会」において、駿河湾が、京都宮津湾・伊根湾、ブラジルのオールセインツ湾とともに、クラブへの加盟を認められました。
 皆さんは、静岡県という、このようなすばらしい自然環境の中で、これからの学園生活を大いに愉しんでほしいと思います。在学の期間はあっという間にすぎていきます。学習とともに静岡県内を歩いて、その魅力を世界へ発信できる人となって、卒業していただきたいと思っています。
 何と言っても、心身の健康に留意して、学園生活を送ってくださるよう祈って、私のお祝いの言葉とします。
 おめでとうございます。ありがとうございました。