イヤだなと思って
ツンツンした気持ちでいたら
隣に誰かが座って
話しかけてきた

私はしたいことがあったんだけど
せっかく話しかけてくれたから
なんだかいろいろ話してた

ツンツンした気持ちが
少し
しなっとなる

それでもまたひとりになってふと気がつくと
やっぱり腹が立って気持ちがツンツンしている
こうなったら
いくらでも腹をたててやろう
どこまで腹をたてられるかみていよう

わりと
かなり
腹はたてられるみたい

そしたらまた隣に
なんでだか誰かが座っていて
なんでたかまた話しかけられた
うんうん
そうだね
そうかもね
私はしたいことがあったけど
やっぱりせっかく話しかけてくれたんだから
なんだかんだと話してる

そのうち腹をたててたこと
忘れてた

帰り道に
かなりなとこまでいった
たっていた腹を思い出そうとしたけれど
なんかもうどうでもよくなって
考え方ひとつだなとか
思い過ごしかもしれないなとか
ちょっと視点をずらしてみたらそうでもないやとか
なんだかそんなふうに流れていって
くるりと輪になって次につながった感じ

したかったことはあんまりできなかったけど
きっと
助けにきてくれたんだと思う

ありがとう
ありがとう
記憶にある限りの最初の夏の日は
ビニールの丸いプールにつかっているか
砂浜で遊んでいたか

怖いものはたくさんあるのに
水だけは
怖くなかった

すくって手のひらからこぼれるとき
キラキラするのが
大好きだった

若狭の海は
夏休みに入る前から楽しみで
1週間
真っ黒になって遊んでいた

白い砂浜
飯盒炊爨
兄の拾ってきた雲丹を踏みつけて
大泣きした日
(兄は父にこっぴどく叱られ、顔をひつからせていた…ww)

水中眼鏡でぶくぶくしていて
振り返った瞬間、目のあった大きな魚
私も驚いたけれど
小さな入り江に迷い込んだ魚も驚いたことだろう

小さな河豚は
いつもたくさん泳いでいて
ツンツンするとぷっとふくれて
かわいらしいおちょぼ口

ハゼもいた
ヤドカリもいた
小さな蟹もいたし
クラゲもいた

海が
大好きだった

いまも
若狭の海はきれいなまま
どうか
どうかそのままで

子どものころ
知らずに泳いでいたけれど
たくさんの原子力発電所が建っていて
だけどいまは
止まってる

どうか
どうかそのままで

冬の若狭は知らなくて
写真の中の雪の空気
匂いはわかる
冷たさは指が知っている
私もそこに
いたいと思う

夏の若狭はいつもキラキラ光って
どんなに浮かんでいても
優しかった

塩辛くて
唇を紫色にして
手の指がぷよぷよにふやけて
太陽が眩しくて
足の裏の砂がくすぐったかった

かつて日本は「黄金の国」と呼ばれていたと知ったとき
若狭の海を思い浮かべ
このずっと向こうから船できた人は
そりゃあこのキラキラを見て
「黄金の国」だと思うだろうなと
すとんと理解できた

若狭の海
そのままで
どうか
そのままで



子どものころからそうだった
私の許容範囲は小さくて
あふれすぎると熱が出る

体が弱いわけじゃない
感情の振幅に
体が慣れずに驚くだけ

驚きは微熱となって
しばらく続く
ぼんやりとした時間

自転車に乗って
風をつくる

知らない場所に行って
発見をする

おしゃべりな私は頭の中で
興奮して何度も同じこと繰り返してる

時間の反復
同じことをなぞるように
繰り返して微熱になって
繰り返して微熱になる

山、海、上空、海の中、地底、森、海の底……
私はきっと
盆地に住んだことがない
私自身は平地に生まれ
盆地で育ち
平野で長く暮らしてる
なのに
私はいつでもどこか遠く
飛び出して戻って
飛び出して微熱を出す

父親には
また知恵熱が出るぞと
夜寝る前に笑われていた

大人になっても繰り返し出る微熱は
父親はなんて呼ぶのだろう
いい加減にしなさいと
あきれるのかな

本を閉じて
目を閉じよう
しばらく
じっと
していよう