反抗期のころ
父親は大きくて固くて分厚い壁のように感じられた
この頑丈で高い壁を
どうすれば乗り越えられるか
せっせと知恵を絞ったものだ

知恵を絞って粉砕して
よじのぼって振り落とされ
繰り返しているうちに
父親は立ちはだかる壁ではなく
寄り添って守り導いてくれる
ガイドラインのように変わっていった

変わったのは
もちろん私のほうだ

いや
父親も私の成長に合わせ
変化してくれていた

それこそ私の
ガイドみたいに
壁になるのは
私のための
通過儀礼みたいに

いま私の感じている壁は
少し違う
私の前に立ちはだかっているわけじゃなく
あっちとこっちで平行線を貫いていて
そのことに
私は"壁"を感じている
私の乗り越える壁じゃなく
頑強に陣地やつながりを分断しようとする壁を
どうすれば少しでも崩せるのか
思案する
思案したところで
より分厚くなるように見える壁に
とっかかりはあるのかなと
両方を眺めている

まだまだこの迷路の入り口にも着いていない
私は「こっちですよ」に従って歩いてきただけで
ただ壁のあることに気づいただけ

壁にボールを投げるのではなく
どちらにも
まずは耳を傾けてみようと思う
壁ごと動かざるを得ない時がきたら
きっと
何かが変わるだろう

拒絶されたみたいに感じても
まだまだ私は入り口にも着いてやしない
知ることから
始めてみたっていいかもしれない
少しずつ
近づいてみて
壁に手を触れられたら
また違った見方ができるのかも
久しぶりに会った人は
嬉しそうに遠くから声をかける
喜んでくれているのがわかって
私もうつむいたまま嬉しくなる

滞っていたものが
ただ滞っていただけで
また動き出す

また
動き出す

笑っているのは
なんて気持ちいいんだろう
笑っている顔を見るのは
なんて嬉しいんだろう

少しずつ
私のいるスペースが
広がっている気がする

少しずつ
ひとりひとりが場所を詰めて
私の場所を作ってくれる

ここにいていいのかな
ここにいていいんだよ

ここにいていいのかな
ここにはいまいないでほしい

ここにいていいのかな
ここにいてほしいんだよ

自分の形そのままの
気持ちのいいお湯に入るみたい
ぴったり居心地がよくて
そのまんまで

少しずつ
私は楽しくなっていく
祖父母の家は真夏の夜に寝ていると
遠くに列車の走る音が聴こえた

だからなのか
遠くの波の音
遠くの汽笛
遠くの歓声
遠くから
かすかに聴こえる
聴こえているのかいないのか
風にのって途切れたり
風にのって近くになったり
そして夢の中にしのびこむ
遠くの声が
私は好き

昨日の深夜
窓の外に降る雪の音が
まるで遠くに積もっていくように
静かに
聴こえた

耳を澄まし
奥の方で音を捉え
絵をむすぶ

蒼い夜
降り積もる雪
静けさに包まれ
中は温かい

目が覚めると
空は白く
樹々の細い枝の先に
静かに降り積もる雪

走っていくキツネの尻尾が
見えた気がした

いつもなら
東京マラソンに合わせたように降る雪が
ことしは少し
遅れるリズム
うるう年の分だけ
のんびり間合いをとって
腰掛けてるみたいに
春の兆しは
まだ支度の途中

それでも私は桜の枝の蕾の様子を
そっと覗いて知っている