私は泣きたかったんだなって
気づいた
気づいたときには
泣いていた

無意識のうちに
ずっと我慢してること
感じていても
抑えようとしていること
やっぱり苦しくなって
ときどき
すべてを投げ出したくなる
何も変わってないじゃんと
きれいな夜空を見上げて思う
一体どこに
ソレはあるの……?

だけど今日も
マスクをする
水を気にして
野菜を気にして
雨を気にして過ごしてる

南房総の海岸線は
菜の花が咲いていて
とんびが風にのって気持ち良さそうに飛んでいて
思いっきり
深呼吸できた
大口あけて笑ったし
自転車でびゅんびゅん風を切って走ってた
マスクはポケットに入れたまま

苦しくなったら
どうしたらいいんだろう
泣きたくなったら泣いていたけど
苦しくなったら
なったら……

イヤだイヤだと感じているうちに
いろんなこと
考えて決めないと
きっとそのうち
イヤだイヤだと思いたくなくなって
気にすることなんてないよなんて言い出しちゃう

私も
畑のあるところに行こうかな
野菜を育てて
花を育てて
犬が走り回ってて
振り返れば窓辺に猫がいて

満月だからなのかもしれない
今日は
なんだか泣いてばかり
泣きたかった気持ちが
溶けていく


春の海はあたたかく
キラキラ光りながら打ち寄せる
冷たいけれど冷たすぎることもなく
貝殻を届けて
また旅に出る

海は
私の一部なんじゃないかと
私は
海の一部なんじゃないかと
海の匂いを感じ
風に吹かれ
眺めていると
このままずっとここにいたいと
思い始める

館山の住人は
よく笑ってしゃべるおばちゃんたちに愛されていて
この土地にものすごく馴染んでいる
沖の島にはきっといろんな思い出が鏤められていて
私は耳を澄ましている

たくさんのことを
聞いた
私の知らないこと
まだ行ったことのない場所のこと
会ったことのない人たちのこと

話しているうちに
私は自分の変わったことを知る

始まりは
既に始まっていた
数年前から
きっと

だからこうしていま
私は館山にいる

思うほうへ歩いてきて
それがごく自然な流れのように
いまは感じる

何も疑問に思わず享受してきたものを
どうにか還元したいなと考える

夕暮れの光に融ける海は
空に星を置いて
大切なものを浮かび上がらせる

できること
……きっとなんだってできる、したいと思えば

気がついたらものすごく楽になっていて
まるでずっとここにいたみたいに
ずっと昔から知ってるみたいに
懐かしい未来を
眺めてた



たとえば耳まで水の中に入って
聴こえる音
呼吸だけ残して
柔らかく包まれている感じ

たとえば大きな木の幹に抱きついて
しばらくじっとしていたら
奥のほうに感じる流れ
同期して流れ始める体温

子どものころ
竜宮城で出される
この世のものとは思えぬご馳走って何だろう
いろいろ考えて
私は夢のような草の実を知った
その味を
いまでも覚えているし
その感触を
いまでも唇は知っている

羽衣を両腕にかけた瞬間
犬との会話
いつか届く魔法の箱

太陽に透けるチューリップの花の中は
オレンジ色の優しい光に包まれて
温かくて湿り気があって
温室みたいにお昼寝にぴったりで
私とコロスケやプーちゃんは
よくいっしょに
チューリップの中に遊びに行った

温かい靴下を履いたときの
ほっとする感じ
迎えにきてくれているおじいちゃんの姿が
電車の中から遠くに見えた感じ

家に着いたら
お風呂に入ろう
今日は
足が砂まみれ
力の抜け切った
日溜まりの一日
あのとき食べた
草の実みたい