うすうす気づいていたことだけど
それはもう
やってきている

溢れ出すように春がきて
満開になって
月は満ちた

あの場所は
夢の中のようで
私の物語った絵本の中に
私ごと入り込んで
見た夢だ

丸い水
丸い月
桜色の花
水面
伸びてくる月光


風が吹いて
静寂がきて
祈りの中にいた

そして
次にすることが
見えている
わかっている

せめぎあって泡立っていた波が
渦になって混ざりあい
潮目を変える

面白がっていよう
考えて
考えて
面白がっていよう

たくさんの花を見た

桜が咲いていて
菫が咲いていて
鈴蘭が咲いていて
水仙が咲いていて
菜の花が咲いていた

たんぽぽも
いぬふぐりも
カラスノエンドウも

つくし
スギナ
ローズマリー
ラベンダー

ムスカリみたいな紫の花

ひとつひとつ足を止め
これは何か
確かめるように挨拶するように
そっと触れながら呟いている

カエルの声が聴こえたし
孔雀が羽を広げてダンスを踊っていた

ウグイスの
懸命に練習しているのどかなさえずり

ご飯を作ってもらって
いっしょに食べる

のんびりと
時間が流れる

幸せだなと
思った

こういうのを
幸せっていうんだなって
思った

太陽は眩しくて
春の空は思いのほか澄んでいて

知らなかった場所が
私の場所になる

ふっと頭の中が楽になった

そういうことなんだろうな
きっと
そういうことなんだ

私はこの豊かに花の咲く場所を
守る
心に空いた穴を埋めるのと
心に穴を開けて一度手放してみること

不満げにつくため息と
新しい空気を取り入れる準備のため息

乾いた強い風に吹かれすぎて
すっからかんになって
潤いが見当たらず
脳から言葉が抜け落ちて
大切なことばを伝えられない
必要なときにことばにできない

東京の桜もきれいに咲いて
風は治まり
通り過ぎていくいつもの風景

いつものように話しかけられ
いつものように話してる

自分に愛想を尽かすのはうんざりする心象
見慣れた光景
いっそ懐かしいくらいの

日向で猫がおなかを見せていた
小さなキャンドルみたいに金柑が生っている

何もかもがどうでもいいような気がして
それならきっとどうでもいいんだと笑ってみて
風のあとの一日

新しい一日は
きっと
一日の終わりのあとにやってくる

カラ、カラ、カラ…