【作品紹介】

 

私は夢を見たのか、それとも狂っていたのか?

 

魚津へ蜃気楼を見に出かけた帰り、私は汽車に乗っていた。

偶然なのか、いつもそうなのか、私の乗った車両には私の他にはたった一人の客しかいなかった。

 

しばらくして車内が暗くなり、夕闇がせまってきたころ、たった一人の同乗者が立ち上がり、

大きな風呂敷をひろげ、窓に立てかけていた額の様な物を包み始めた。

 

なんとなく気になり、私はその同乗者を観察し始めた。

男は色あせた写真でしか見ないような古風な格好をしていて、顔の皺から六十ぐらいに見えた。

見ていると偶然、二人の視線があい、私はかるく挨拶をしました。

私たちは遠くから時々視線を合わせては、そっぽを向くことを繰り返した。

 

私たちの車両には、どの駅からも乗客がなく、

そのせいもあるのか、私はその男のことがだんだんと怖くなってきました。

その気持ちは時間と共にだんだんと大きくなっていき、

とうとうたまらなくなった私は、

男と向き合った席に、そっと腰をおろしました。

 

その行為が、あの不思議な話を聞き、信じられないよな経験をする事になるとは、

その時の私は思ってもいなかったのでした。

 

【感想】

 

押絵と旅する男は、江戸川乱歩の作品の中でも代表的な作品の一つで、

読んだことは無くても、題名は知っているという人は多いと思います。

 

男は狂人だったのか、それとも詐欺師だったのか。

主人公は幻覚を見たのか、何かのトリックで騙されたのか。

 

謎の男は何処とも知れぬ山間の駅で降り、闇の中に消えていきます。

余韻の残る終わり方をすることで、ますます読者を迷宮に誘い込む作品です。