sherry museum
(参考葉書:船積みを待つシェリー酒の入った黒い樽)

シェリー樽ビジネスの中で語られる
シェリー樽の謎


少し前ですか、洋酒の輸入業者の方から質問を受けました。
いわゆる「シェリー樽」についてです。

よく聞くと、それはあるウイスキー関係雑誌の中にあった
シェリー樽の記事を読んで…というものでしたので、
まずはと思い、その雑誌を手に入れました。

読むと取材でいったシェリー樽リポートでした。

面白かったのは前半のシェリー酒そのものの説明が
「3」がキーワードだとか、圧搾とシェリーの関係など
どうみても僕の本を読みながら書いたんだろうな…w
という部分がかなり多く、こんなに参考にしているなら、
参考文献に挙げてくれればいいのにwと思いながら、
まぁ絶版だしイイか…と思いつつ読み進めました。

さてその中には、シェリー樽の素材である
アメリカン・オークとヨーロピアン・オークに関して書いてあり、
本来のシェリー樽がアメリカン・オークだとやっと認めながらも、
輸送用にはヨーロピアン・オークだったと推測出来るとしています。

良く知られたシェリー酒の専門家が同行して、
ウイスキーを専門とし記者歴が長い著者が取材をしていても
推測というのは、読者としても同じ研究家としても残念な話ですが、

「シェリー酒は造るんじゃない、出来るんだ…」というスペイン人が相手では、
一度取材に行ったぐらいでは、なかなか答えが見つからないのは
これまた致し方ないことで、その苦労も含めて理解出来ました。

ただ一方でウイスキーが好きで
シェリー酒を20年調査・研究してきた僕的には、
正直、この読んでいて不思議な点がいくつかありました…

まず、以下の写真をご覧ください。
これはシェリー樽熟成ものをウリにしているダルモア蒸留所の写真ですが、
映っているのは、ティオ・ペペで御馴染のゴンサレス・バヤス社の
マツサレム・オロロソ(ドゥルセ)の樽です。

sherry museum
(参考写真:出典:ダルモア蒸留所)

見てお分かりのように樽は黒く塗られていますが、
仮に輸送がメインの樽でしたら、わざわざ黒く塗る必要はありません。
ですから、この樽がソレラシステムの中から出てきたものだ
ということが推測できます。

sherry museum
(中瀬撮影:サンタ・マリアのボデガにて)

樽を黒く塗るのはソレラ・システムに組み込む
シェリー酒樽に行う工程の一つで、
灰とヴィネガーなどを混ぜた天然の塗料で塗ります。
上記はまさに塗装作業をしていた方の写真です。

そして黒く塗られた樽で
ソレラ・システムが組まれると以下のような
綺麗な黒い樽の段々になるわけです。

ちなみに以下の写真はよく見ると、
大きな樽ボコイの一番上にメディアと呼ばれる樽が一段だけあります。
下はフィノの樽で、上はオロロソの樽になっています。

sherry museum
(中瀬撮影:サンルーカルのボデガにて)

蛇足ですがメディアとはホグスヘッドと同じ大きさですから、
よく「バットをホグスヘッドに組み直し…」とか言われますが、
最初からホグスヘッドのシェリー樽も昔からありますw

そして最後がこの写真。
これは某蒸留所が預けた新樽でソレラ的に見えますが、
長期では使用しないので黒くは塗りません。

sherry museum
(中瀬撮影:ウエルバのボデガにて)

最近の知人の現地報告ですと、最初からウイスキー用に預けた樽は
黒くは塗らず、スペックの225ℓなどシェリー酒の規格にはないものもあり、
しかも中身は厳密にはシェリー酒ではないので、
その中身がシェリー酒として販売されることもない…と。

もう、こうなるとビジネス上の大人の都合としか言えませんが、
一方でその樽がソレラ由来であろうとなかろうと、
結果のウイスキーが美味しくなるのであればどちらでもイイのでは?
というのが一飲み手としての個人的な感想です。

…但し…

この取材記事の、輸送用にヨーロピアン・オークが使われた…
(可能性?推測?)…という文言には大いに疑問ですね。

何故なら、出荷寸前までベネンシアで定期的に味を管理している
シェリー酒そのものを、ワンウェイで樽材が安価が理由だとして、
わざわざ「シェリー酒自体の味が変わってしまう樽」に入れるでしょうか?

それが結果ウイスキーにいいとしても、
シェリー酒に自体に過度な変化を与えるとしたら、
そこにどんな意味があるのでしょうか??

単純に疑問です。。。

…最後に…

記事でも言及されていたソレラ・システムが重要でという事実をふまえ、
歴史的に多くの樽が供給できていた理由は他にあるとしたら…
どうでしょうかね?w

僕の答えはそこにありますが…
その件はまたいずれ。。。

まずは近々にシェリー樽事情に関するセミナーがあるそうなので、
その話しを直接伺ってから、また折を見てブログに書こうかと思います。