sherry museum

漫画&ドラマ「レモンハート」
の中で描かれた「シェリー酒」


2015年10月20日にTV放映された
シェリー酒の件で案の定問い合わせが数件あったので、
ブログにいたします。

原作漫画の第20話「花言葉」の中で、
「ティオ・ペペ」を挙げて
こんなマスターの台詞があります。

松「あのシェリーに俺の知らない秘密が
隠されているのではないかと…」
M「松ちゃんの予感どおり、その秘密はシェリーにあった」
松「やっぱりそうか どんな秘密?」
M「女性がシェリーを飲みたいと言った時は
今夜一緒に寝てもいいという意味なんだ」
松「ガァ~ン」


漫画レモンハートは僕も飲食業を志してから
教科書のように読んでいた漫画で、
古谷三敏さんは多くの蘊蓄本も出されていて
僕自身かなりの数の古谷さんの蘊蓄本を所蔵しています。

さて本件に関してですが、
実はこの番組の方から事前にメールで相談があり
何度かやり取りをした上、店にも来ていただきました。

で最終的に私は「古谷さんは尊敬しているし、
原作は変えられないので、いたしかたないですが、
誤解を受けられると今までの努力が水の泡になるので、
この件に関してはブログにさせていただきます」となりました。

では、それを踏まえまして

「どうなのか?」なのですが、

まず、この話はシェリー酒の生産国
【スペインでは誰も知らない話】です。

そしてシェリー酒の歴史的最大消費国である
【イギリスでも誰も知らない話】です。

「では、何なのか?」なのですが、
実はこの問いを調べた酒研究家は過去にもおり、
その中でソースが「葡萄酒物語」という本にあるらしいとしながらも、
その本人もその本が見つからないとの事でした(汗;

しかたなく僕も国会図書館にて
「葡萄酒物語」という題名の三冊の本を探しましたが、
結局ソースらしきものは見つかりませんでした。
この話も僕がしぇりークラブで店長をやっていた時代ですから
今から15年以上も前の話です。

それから数年後の2009年、
大阪のバル・キンタの萬川さんの紹介で行った
伝説のバー「ボビーズ・バー」に行った時の事でした。

その時に聞いた話をかつてMixiに書いたので、コピペします。

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戦後時代最後の尊敬するバーテンダー千頭氏の話なども参考にすると、
恐らく半世紀前の米国(軍)由来の話というのが真相のようです。

「シェリーを飲む女は賢いから気をつけろ」というのが、
当時の軍の中での語りぐさだったそうですが、
逆にそれを落とせたら男が上がる、というものだったようです。

で、それがいつの間にか、逆に
「イイ男を落としたい女が、格好をつけてシェリーを飲むようになった。」
つまり出来る男女の遊びが俗化した結果、今の様な話になった、、、。
どうやらこれが真相のようです。

ま確かにシェリー好きの女性常連さんて素敵な方多いですしね(納得

ちなみに高揚作用と沈静作用は、以前私も使っていた話です。
これはまぁ後付けですが、
シェリーは亜鉛が多いので、それに向いていますが、
ポートは逆に亜鉛が澱になってしまう上に排出してしまうので、
それには向かない為の様です。

世界的にではなく、恐らく今の米国でも知られていないでしょう。
つまり、戦後の酒情報を引きずっている日本のみなのでは?


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さて、改めてこの漫画の
描かれた時代を見てみましょう。
漫画レモン・ハートの連載が始まったのは
1986年(昭和61年)でした。


この年の日本は
*男女雇用機会均等法施行。
*TV・世界不思議発見。
*雑誌・ニューズウィーク日本版。

*言葉・エスニック。
*東京銀座にシェリーの専門店
「しぇりークラブ」オープン。
*逢坂剛が「カディスの赤い星」で直木賞受賞。

*日本ソムリエ協会「第一回ワインアドバイザー呼称認定資格試験」実施。

生産国スペインでは、
EC加盟によってシェリーの樽まま出荷が禁止になり、

消費国イギリスでは、
シェリー酒として販売されていたものの内
なんと57%がイミテーションという時代でした。

今でこそ世界はお酒の情報であふれていますが、
1986年の日本に
正確な洋酒情報は非常に少なかったでしょう。


現に洋酒全般でみたとしても
・ジンの発明者はシルビウスではない…
・ネルソンの亡骸が入ったのはラムではない…
・アブサンが生まれたのはスイスではない…
・カルバドスの語源は船の名前ではない…
などなど、今まで信じてきたことが覆されつつあるのです。

それに私はシェリー酒専門家として、
シェリー酒に関するあらゆる文献を買って読んで調べていますが、
1870年代に書かれた本から
2015年に出版されたシェリー酒本の中で
この案件に関する話しは
一度たりとも出てきていません。


なので、結論としては
「シェリー酒の酒言葉は、
お爺さんが未だに懲りずに話す昔話」
であって

真相は
「シェリー酒とは
賢い女性が飲むお酒である」
ということです。


以上:Sherry Museum館長:中瀬航也