$Sherry Museum館長[中瀬航也]のオフィシャル・ブログ-alcohol

最近、急上昇してきた検索キーワードに
「シェリー酒 アルコール 度数」
というものがあります。


これは、

Q1.そもそも何度あるのか?

Q2.何故度数が強いのか?

Q3.何故、こんなに酔いがまわるのか?

Q4.何故、次の日は他のお酒に比べ全然スッキリなのか?

などの素朴な疑問や
体験したことのない酔い方からなの
疑問なのでしょう。

ま、私は化学者でも医者でもないので、
あまり詳しく、かつ医学的見地では書けませんが、
これまでの経験と独学で得た知識を元に
既知の情報とヒントを書きたいと思います。

なので、大変申し訳ないですが、
「ほんまでっかTV」のノリでお読みください。

まず「Q1:そもそも何度あるのか?」に関してですが、

シェリー酒は産地ヘレス周辺の原産地呼称統制法によって、
最低アルコール度数が15%と定められております。

これはワイン醸造・貯蔵・熟成において
最も困る酢酸菌の発生と繁殖を抑制する為に
それ以上の度数が必要となるからです。

酢酸菌とはアルコールからお酢を生み出す菌で、
それそのものは有害ではなく、むしろお酢を作るのに必要ですが、
ワインやシェリー酒につくと困るんですね…
細かい事はまたいずれ…

上限は法律的には22度となっています。

例外としては
PXなどの非常に糖度の高いもので7度ぐらいと低いものが、
オールド・シェリーなどで22度を超えるものも
幾つか商品として存在しています。

何故度数が低くてもOKなのかは、
蜂蜜やジャムに関する記述を探してみると、
そこにヒントがありますので、
ご興味あるかたは是非御調べを。


次に「Q2.何故度数が強いのか?」に関してですが、

これはQ1が既に半分答えになっていますが、
15%は酢酸菌からシェリー酒を守るため、
18%以上は、過度の劣化要因から守るためです。

この劣化要因の話しは難しくなるので、
御自身で御調べになるか、
プロ向けのセミナーに是非ご参加下さい。


そして「Q3.何故、こんなに酔いがまわるのか?」ですね。

これは、シェリー酒はワインより吸収が早いからです。

喩えて言うならワインは「生」で、シェリー酒は「加工品」なんですね。
言いかえれば、ワインが「ユッケ」なら、シェリー酒は「ハンバーグ」、

別の言い方をするなら、
ワインが「硬く炊いたお米」なら、シェリー酒は「おかゆ」なんですね。

つまり通常のワインは、
シェリー酒のように酒精強化(ブランデー添加)をしない分、痛み易いので、
酸やタンニン分などの含有量が重要になってきます。
故、酸の強いワインやタンニンの強いワインは日持ちし熟成にも絶えます。

が、その一方で、一度開けたら急速に酸化が始まります。
で、この酸化には大量の酸素が必要なんですね…

時間をかけて熟成し、いい状態の物を時間をかけて飲めば、
ワインもいい具合に酸化して身体への負担度も軽減しますが、
若く濃いワインを時間をかけずに飲んだら、
どうやったって身体が酸欠(的状態)になってしまいます。

*通常、熟成とは様々な意味での酸化を意味します。
主婦感覚ですと酸化という言葉にネガティブなイメージしかないようですが、
熟成する、加熱(焼・煮・蒸)する、干すも言うなれば全て酸化の一種です。
但し酸化の具合や度合いでは、もちろん身体に悪いこともありますが…

そこへ行くとシェリー酒は、
酸やタンニンなどの天然酸化防止剤がワインに比べ少なく、
その酸やタンニンの代わりにアルコールというものがシェリー酒を守っています。

加えて15%の透明なタイプの多くは、フロールという酵母の膜に守られながら、
酸素を必要とする物質は、アルコール以外はフロールが食べてしまっているので、
身体への負担度はワインに比べ低く、

18%以上の褐色のタイプの多くは、アルコール度数に守られた上で、
酸化しながら熟成しているので、既に加工済み状態(料理の焼き済み的)なので、
体内での酸化はアルコールの分解に集中できます。

ただ、その代わりに/その分…なのですが、
シェリー酒はワインのような胃の中での作業(酸化や分解・脱水等)が少ないので、
吸収が早いんですね…
故に「おかゆ」と形容した訳なんです…

なので、その吸収の早さから、
慣れない方は凄く強いお酒…と誤解されてしまいます。
実際は酔いが早いということは、抜けも早いんです。
何故なら吸収が早いだけで、身体への負担度は低いからです。

そんな昔からの感覚は
シェイクスピアの作品中の酒豪フォルスタッフの言葉にも現れていますし、
シェリー酒ではありませんが、
プリニウスの博物誌の中でも、よく発酵したワインは吸収が高いとして、
薬効成分を溶かす溶剤として使っていたそうです。

さらには、20世紀前半(民間では今も)までは、
シェリー酒は薬の原料としても用いられていましたし、

明治屋の酒事典によれば、
戦前の日本の小学校の保健室には
気付薬として甘口シェリー酒が常備されていたそうですから、

酔いがワインと違うからって別段危険なお酒ではありません。
むしろ、何百年もの間に工夫され、
支持されてきた安全なワインと云えると思います。

英語がOKな方で、ご興味ある方は、
Medicinal wine Sherryなどと検索して頂けだければ、
多少の情報は出てきますので是非御調べを(笑


では最後の
「Q4.何故、次の日は他のお酒に比べ全然スッキリなのか?」ですが、

これはQ3の答えが半分回答になっていると思いますが、
シェリー酒は加工されたお酒なので、
胃の中ですることがワインほどなく、

吸収も早いですが、分解も早いので、
よほどで無ければ、一晩寝れば次の朝はスッキリということが多く、
それが良くて飲み続けているという方は結構多いです。


全くの僕の仮説ではありますが、
ワイン・ブームから、焼酎ブームへ移った一要因は、
負担のかかるお酒から負担のかかりづらいお酒への移行ではないか…
と推測しています。

この場合の負担とは、
奇しくも身体と財布というダブル・ミーニングですが(笑


と、蛇足ですが、
ワインも本来は、ある程度の熟成を経て飲まれる/楽しまれるものでした。
故にひと昔は、ヴィンテージや熟成度合いを愛でたものなんです。
それは、別の観点から見れば、
身体への負担度が上手い具合の減った状態を楽しんでいたとも言えます。

次の日残らないからという理由で、
昨今急激な支持を伸ばしてきた焼酎などの蒸留酒は、
醸造酒を一度気体にして冷却して作った、いわば加工酒ですので、
やはりワインのように胃で行う作業が少ないために、
結果的に身体に優しく、次の日が楽…


そういった背景の中、

シェリー酒は、
焼酎の様に身体に優しい上に、
ワインのような楽しみもある…


それが支持されるようになってきた…
のではないでしょうかね?

©Kohya Nakase