2011年に書きかけ放置していた記事ですが、
最近質問されたので加筆UPします。

$Sherry Museum館長[中瀬航也]のオフィシャル・ブログ-Jerez

<パハレテとは?>

かつて日本の醸造学の泰斗
「坂口謹一郎」先生が
ご著書の中で
【パクサレット】
として言及していましたが、
気付いた方はおられたでしょうか?

スペイン語で“PAJARETE”
“PAXARETTE”などと書きますが、
スぺイン語発音では
「パハレテ」と呼びます。

このパハレテ、
まず何ものなのかと言いますと、
あまり質の高くないオロロソ
(ラヤ/ラジャなど)に
PXなどの甘口の他、
PX果汁を煮詰めたカラメル
ヴィノ・デ・コロールを加えて
商品化したもので、

「パハレテは19世紀初頭には
英国女性が好んで飲んでいた…」
などという記事もありますが、
干し葡萄由来のワインそのものは、
紀元前のローマなどでも
女性用ワインとして飲まれていました。

Sherry Museum館長[中瀬航也]のオフィシャル・ブログ-Jerez

次にこの名称に関してですが、
これは場所の名前から来ています。

シェリー酒の産地ヘレスから
北東に行った場所に
パラドールで有名な
アルコスという街があります。

そこからさらに北東へ行くと
ヴィジャマルティン
プラド・デル・レイ
という村に行けるのですが、
かつてはその辺りをパハレテと呼び、
そこの修道院で造られていた強化ワイン
「パハレテ」と呼んでいました。

sherry museum
(Photo by Kohya Nakase)

15年ほど前に、お客様をつれて
そのヴィジャマルティンへ
行ったことがありますが、
ただただ田舎な村で、
残念ながら今はパハレテの製造も
煮詰め作業もしておりませんでした。

そんな話を村のバルで色々聞いていましたら、
その方々がシェリー酒用葡萄の生産者だ
ということで
村人限定のマンサニージャを
お土産に頂きましたw

sherry museum

さて話をもどしますが…

使われる葡萄はペドロヒメネス、
パロミノ、モスカテルの他、
かつてはミジャールやドラディージョ
という品種もありましたが、
フィロクセラ禍以降消滅してしまい、
現在では見かけることはありません。

これらの葡萄はソレオという
天日干し工程を経て糖度を高めたり、

鉄鍋で1/3から1/5に煮詰めて
カラメルにしたりしますが、

この煮詰める技術も、
古代ローマから続く文化で
イスラム教徒が統治した
8世紀―15世紀の間も
積極的に行われてきました。

煮詰められた果汁は
サンコチョ(1/3)
アロペ(1/5)などと称され、

他にも他の果汁やワインと混ぜられて
マセティージャとし
これらを総称して
「ヴィノ・デ・コロール」
と呼んでいました。

ちなみにヴィノ・デ・コロールの
興味深い点は、
それ自体も樽熟し時にはソレラし、
若いものと古いものがあり、

古いものはそれ自体に
熟成感があるので、
ウイスキーに混ぜた時に
違和感どころか熟成感さえ与えるのです。

Sherry Museum館長[中瀬航也]のオフィシャル・ブログ-Jerez
(Photo by Kohya Nakase in 
Bodega I.O.B of Sanlucar)

ご存知の通り英国は
シェリー酒最大の消費国ですが、
特に需要の高かった
1830年代以降特に話題となり、
パハレテや同様の
甘口ブラウン・シェリーは高値を付け、
男女問わず愛飲され、
シェリー好きで知られる
ディケンズなどは
ホットで飲んでいました。

他にも面白い話としては、
パハレテ同様に造られたミステラを
英国海軍内では、
ミス・テイラーと称して飲むのが
流行ったそうですw

一方、この時代、
シェリー酒の代用、
補助として増産していた
モンティージャでは質の高いものを
ヘレスに運び、
質の劣るものをマラガへ運び、
その他の様々なものを
パハレテの材料としていました。

現在シェリー酒界では
1999年の法改正以降
パハレテをリリースしている会社は
無くなりましたが、

スペイン国内では、
一部のマラガの会社や、
スペイン北西の強化ワインメーカーで
教皇公認ミサ・ワインの生産者などは
今でもパハレテの名前で
強化ワインを販売しています。

sherry museum

またパハレテを含むヴィノ・デ・コロール
文字通り色付け用のカラメルとして、
また長期保存用の添加剤
として好んで用いられ、

シェリー酒、シェリー・ブランデーの他、
スコッチなどの各国ウイスキーにも添加や
シーズニング液として用いられていました。


スコッチにおいておいてこの
カラメル添加が顕著になったのは
1917年の穀物制限で度数が
43度から40度に引き下げられた際、
色や熟成感を補うのにシェリー酒や
カラメルを入れるのが流行り、
第二次世界大戦後はより
顕著になったとも言われ、

ジョニー・ウォーカー社が
1929年にホグスヘッド1樽当たり
35リットルの褐色系甘口シェリー酒を混ぜて
6カ月馴染ませ販売した記録
があるそうですが、

1929年と言えば、
世界大恐慌の年でしたから、
癒しを求めた消費者には
濃くて甘みのあるウイスキーは
ウケた事でしょう。

sherry museum

なおこの辺の話は、
私の著書「シェリー酒:PHP」
171ページも
ご参考に是非再読してみてください。

その他、詳しくは
東京五反田Bar Sherry Museumまで
お越しください!