今日彼は出かけている。





「出る前に声かけにきて」





そう頼んだ通り、朝ちゃんと寝室に来て私に声かけて出かけて行った。





金曜日、いつもより早めに帰ってきた彼…





私もまだ起きていた。





「おかえり」


「ただいまー」


「明日は出かけてくるから」


「あ、そうなの」





私も出かけるからちょうどよかった。





「誰とどこへ?」


「引越しのお手伝い」


「はい?」





【○○のお手伝い】





それは、彼が嘘をつくときの常套句。





○○さんの引越し、お得意さんの工場のお手伝い、おじさんのアパートを引き払うおかたづけ、廃業した知り合いの後処理のお手伝い、○さんの取引先のお手伝い。





まぁ色々な【お手伝い】をひねり出しては、せっせと出かけていた。





今思えば、なぜアナタが?って思うことばかり。





仕事関係といえば納得すると思うのだろうけど、普通に考えたら「取引先」の人に引越しや後処理の手伝いを頼むとは思えない。





自営業ならまず家族や親戚。ましてや【○さんの取引先】なんて直接無関係じゃないのか。





「引越しって? どこからどこへ?」


「車で15分くらいかな、おばさんが施設に入ることになったから」


「施設?」


「ホームだよ」


「それはわかるけど……近くならいいね」


「かなり高いらしいよ」


「そんな良いとこなんだ? おばさんって、お母さんの姉妹の方?」


「おばあちゃんの妹」





もしその話がほんとうだとしても、疑問が残る……





なぜ、わざわざ彼が手伝いに出向くのか。





向こうには母方の親戚が多くいるはずで、お正月やお墓参りに集まるからと、彼も年に何度か出かけている。





向こうは車がないと生活が難しいから車を出せる親戚もいるはずなのに、なぜわざわざ車で1時間半以上かけて彼が出向くのか。





以前のように、私に怪しまれずに出かけるための嘘なのか?





心がザワザワする。





「ちょっとした家具とか持ち込んでいいらしくってさ、小さい本棚とかテレビとか、着替えとか、明日運ぶんだって」


「そーなのね……アナタが一人でやるの?」


「うちの母ちゃんと母ちゃんの妹が一緒。母ちゃんは週末向こう行ってるから」


「あっちの親戚の人は?」


「最初ヒロくんが手伝う予定だったんだけど仕事が入って出来なくなったんだってさ、んで俺が頼まれたの」


「誰だよヒロくんて。従兄弟?」


「従兄弟」


「ヒロくんていくつなの?」


「えー、いくつだったかなぁ」


「従兄弟の年くらいわかるやろ」


「ひと回り違いかな」


「ひと回り上?下?」


「下だよ」


「結構離れてんだね」


「そぉーねぇ


「ヒロくんて何してる人なの、お仕事」


「サラリーマン」





サラリーマンなら基本は土日休みで、土曜日に仕事が入って手伝えなくなったという話もあんまり信ぴょう性が低い。





もちろん業種にもよるから絶対ないとは言えないけど。





彼の話がほんとうなのか、嘘なのか。





見極めることは出来なかった。





「小川のプリンと卵買ってきてよ」


「そっちは行かないよ」


「近くじゃん」


「プリンならそこのローソンに売ってるから買っておいでよ」


「小川のプリンがいい。美味しいじゃん、卵の殻に入ってるやつ」





向こうでしか買えないお土産があればほんとうだったと信用できるから。





「お手伝いしてくれたし、ご飯食べて行きな〜って、多分言われるよね?」





そう聞くと、ぱあっと表情が変わった。





「多分そうなるね、おばさんの部屋から荷物運んだあと、そのお部屋の片付けもあるし」


「え? 他の人が使うとか?」


「お盆とか正月は家に戻ってもいいんだって。戻ってきたときに今までのお部屋が使えるようにしとくの」


「ふーん…」





これで、堂々と遅く帰るだろう。





いつもは詳しく説明なんかしないのに、今回のその説明くささと饒舌さが怪しい。





ほんとうなのか、嘘なのか。





彼のスマホを開けたらまたボロボロと色々こぼれてくるのかもしれないな……





だけどもう、あんな思いはしたくない……





騙し騙され、この先もズルズル続いていくのだろうか。