これはとある週末のこと。




「邪魔ー」




自宅で映画を観ながらくつろいでいると、彼が私を蹴ろうとした。




「なーんで俺の場所にまで進出してきてんのよ」

「え、だって空いてたから」

「ここは俺の席だろー」




そして蹴りを入れてきた。




「ちょ、やめろよー」

「早くどけよー」

「もぉー、今どいてるでしょ。まったくもぉ、愛はないのかよ愛は」

「ないね、全く。微塵もない」

「あーっ……そう」




彼に座る場所を半分譲って、私はプイとそっぽを向いた。




そして無言、無表情。




微塵も愛がないのならなんのために一緒にいんのよ……




だったらもう、一緒にいない方がいいんじゃないの。




そう言おうとして飲み込んだ。




余計なこと言って揉めたらめんどくさい。




彼のその言葉は本心からじゃないのかもしれないけど、本当に愛などなく、ただ惰性で一緒にいるだけの可能性もある。




今さら私と別れたら、人間関係も変わってしまう。




変化したくないから、環境を変えたくないから、今のままがラクだから、ただそれだけかもしれない。




彼の本心など私にはわからない。




口ではそう言いながらも、本当のところは愛があるのだとしても、私には一切伝わってこない。




少なくとも「愛なんかない」とハッキリ言われて、「あぁそうなんだ」と納得する程度なのだから。




「またまた〜本当は好きなくせに」なんて自信たっぷり軽口を叩ければいいのだろうけど、そんな確信は全く持てない。




愛がない、好きじゃない、実はそちらが本心なのかもしれないと考えたりもする。




彼からの愛など、私には全く伝わってこないから。




伝わらなかったら、それは「ない」ことと同じ。




本当は好きなんだとしても、それが本人に伝わらなかったらなんの意味もない。




そうは思わないのだろうか?




でも、まぁ……




彼の中に私に対する愛があろうとなかろうと……まぁ……どうでもいいか……




とうの昔に彼への期待は捨てた。




私にとって彼は友人のひとりとなんら変わりなく、だからスキンシップを求めることもない。




このまま日々を楽しく、平穏に。




不安なく暮らせるのは彼のおかけでもあるから。




私は私の暮らしが守れれば……今はそれでいいのかも。




彼の気持ちがどうであれ、今の生活に不服はない。




そんなことを考えて、無表情のままぼんやりとテレビの画面を見ていた。




プイとそっぽ向いたまま虚無の私を見て、彼は「しまった」とでも思ったのだろうか。




おもむろに立ち上がってキッチンに立ち、なにか作り始めた。




しばらくして、食べる?とテーブルに器を置いた。




豆乳のスープに揚げパンが浸してある。




「これでしょ?」

「あ、うん」




それは、食べたかったけど食べられなかった台湾の朝食だった。(深夜だから夜食だけどね)




「いただきます」

「どう、味は?」

「ん。おいしいよ、ありがとう」




ホッとしたように彼も食べはじめた。 




そして後片付けまで済ませてくれた。




そうして普段の空気に戻り、いつもの休日の夜が終わった。









お風呂上がりのパウダーで
イヤな汗のにおい、シャットアウト🛁*。