二月の三連休に、私は帰省する予定にしていた。
高速バスの予約も取っていた。
彼に話すと、いつものように嬉しそう。
「いいよいいよ。ゆっくり行っといでー」
さすがにもう、家を空けることを一時期ほど不安に思うことはないけど、一応言ってみる。
「なんで嬉しそうにするの? 三日も私がいなくて寂しくないの?」
「寂しいよぉー(ニコニコ)」
「嘘つけ。 嬉しそうじゃん」
「嬉しくなんかないよぉー(ニヤニヤ)」
「どうすんの? 私がいない間。何して過ごすの?」
「どうって……別に普通だよ。いつもの日常と一緒」
「ふーん……あっそー」
「なんだよー」
「猫たちのこと頼むね。トイレは毎日掃除してね」
「いつもしてるじゃん」
「下はやってくれてるかもしれないけど……上のトイレだよ。上でしか💩しないんだから」
「わかってるよ」
三日も私がいなかったら、ここぞとばかりに好きにするかもしれない。
もしまだあの人と繋がっているのなら、たまちゃんがまるちゃんに言ってた《連休にお泊まりしない彼氏は既婚者だよ》のセリフを、ここで払拭しようとするかもしれない。
一瞬そんなことが頭をよぎるけど、実際のところはさほど気にしてはいない。
あのころのように、彼への執着はもうないし、もしも影でそんなことをしていたとしても、それはあくまでも【影でこそこそ】なんだから。
そんなことを思っていたら、その帰省は中止になってしまった。
母が血管再生手術を受けて、ちょうど帰省予定の日に抜糸になるという。
バタバタしてしまうし身体も痛むから延期してほしいと連絡があった。
母としては私の帰省時に一緒にどこかに出かけるのを楽しみにしていたので、もう少し体が整ってから来てほしいと思っているようで。
それならばと帰省は1ヶ月後くらいに、改めて調整することにした。
バスの予約をキャンセルし、そのことを彼に伝えた。
「それは残念だったねぇー楽しみにしてたのに」
「そっちこそ残念だったね。私が留守で喜んでたのに。三連休も一緒にいれるからねっ☆」
「出かけてていいのに」
そんなことを言っていたけど、帰省が中止になったからと彼が焦る様子はなかった。
特に約束は入れていないのかもしれない。
浮気がバレる前のある日、彼があの人とふたりで山梨でのワインのイベントに出かけたことがある。
朝からかかってきた電話に出た彼は、ウキウキと「今どこ?もう着いたの?はえーなぁ!! 俺は今から出るとこ」などと話していた。
私が起きてきて「誰から? 女の人の声だよね」と聞くと「母ちゃんだよ」と冷たく言った。
イライラとした素振りで、それ以上聞かれるのを避けようとしていた。
そもそもお母さんは実家にいて近いのに、わざわざ外で待ち合わせるなんておかしいと思った。
あとでスマホを見たら山梨に行っていた。
あの人とのお出かけに夢中だったころの彼。
必死で取り繕って、たくさんの嘘を並べて、週末のどちらかをデートに当てていた。
三連休がフリーになったら、すぐに約束を取り付けても不思議ではないのに。
今はあのころと全く違う人になったんだと思った。