「まだ仕事するんでしょ」
「うん。ぼちぼちやりますかね」
「おにぎりあるから食べて」
「ありがとう」
「多分崩れやすいから気をつけてね」
「わかった」
「じゃ、私は帰るね」
「先に帰っときな」
「うん」
彼の背中に腕を伸ばして、胸に顔を当てた。
彼は私を抱き寄せ、頭をぽんぽんした。
少しの間、そうしていた。
「ごめんね。ウザくて」
「なーにが」
「ううん…」
彼は、私の目にかかる前髪を指で退かした。
それから玄関まで出て見送ってくれた。
私は彼の服の袖を掴み、見上げた。
じっと彼を見る。
目を閉じるとキスしてくれた。
「今日も月が出てるよ。あ、ちょうど真上にいる」
並んで月を見た。
「半分ちょっとだね」
「うん。もうすぐ満月だね」
「今日は空気が澄んでる」
「そうだね…星もいるよ」
「ねぇ、週末まで桜もつかな」
「今ちょうど咲いたとこだから、多分大丈夫じゃないか?」
「そっか。お散歩しよね」
「うん」
「ドーナツ、彼くんも二個くらい食べて」
「ん。じゃあ、好きなの食べときな」
「うん。お仕事頑張ってね」
手を振って歩き始めた。
「気ぃつけて」
振り返ると、彼がまだ手を振っていた。
私は月を見上げながら、ゆっくりと歩いた。
彼に届けたおにぎりと
彼がくれたクリスピークリームドーナツ。